幼い頃に結婚の約束をした可愛い幼馴染が変態だったとしても、昔の約束は有効なの？

第21話 本当の気持ち

「そうちゃん、ご飯だよー」

　あまねが朝食を作ってくれている。

　その姿を見ながらぼーっとしている俺は、妙な喪失感を体に感じている。

　また、寝ている間に何かされたのか。

　それともただ、気だるいだけなのか。

　わからないままあまねの朝食を待つ。

　やがて、料理が食卓に並ぶ。

「そうちゃん、おまたせ」

「今日はえらく豪勢だな」

「えへへ、いっぱい元気つけてもらわないとだから。ニンニク餃子にガーリックトースト、ガーリックスライスを乗せたお肉もあるよ」

「あ、朝飯だよね？」

「朝から元気つけておかないといけないもん。ね、そうちゃん」

「いや、今日は学校だろ」

「えー、学校で眠くなってムラムラして幼馴染を呼び出すのが高校生なんじゃないの？」

「エロ漫画の見過ぎだ！　幼馴染をなんだと思ってんだよお前」

「そうちゃんは私の人形さん」

「変な意味に聞こえるわ！」

「変？　こけしがわりじゃないよ？」

「こけし言うな！」

　可愛い幼馴染が恋人になってくれた事実は嬉しいし、なんなら積極的で今にも童貞を奪われそうなこの状況もまあ役得と言えばそれまでだけど。

　ただ、このままあまねとの関係が続いて、それこそ将来結婚なんてなった時、変態な嫁なんてどうなんだという疑問が拭えない。

　それに、あの変態イリアさんと親戚になるのもなあ……。

　いや、とにかくあまねと付き合うことは嬉しいから、なんとか変態な態度は控えるようにお願いしないと、だな。

「あまね、今日学校終わったら話あるんだけど」

「うん、登校日だから昼までだしいいよ。なんの話？」

「い、いやそれはまた後で、だな」

「ふーん、まあいいや。そうちゃん、早く食べて食べて」

「あ、ああ」

　にんにくたっぷりな朝食を食べてから二人で家を出る。

　心なしか元気が漲る俺は、隣を歩くあまねをチラッと見る。

　その唇で何をされたのだろう、とか。

　この体を好きにしてもいいんだ、とか。

　考えてしまうと、だんだんとあまねを拒絶している自分がバカらしくなってくるんだけど。

　でも、そういう目的で俺はあまねと付き合ったわけじゃない。

　そりゃあ色々したいけど。

　どちらかといえば他人に取られたくない、という方が強い。

　別にあまねがちゃんと俺を好きでいてくれるなら、焦ってあれこれしなくてもいいかなと。

　だけどあまねは望んでいる。

　エッチなことをしたいと。

　今のところ、変な要求はないけど。

　この先、どうエスカレートするかは未知数。

　だからといって、いつまでも拒否するのはおかしな話だし。

　俺も、腹を括ろうか……。

「あ、そうちゃんそういえばパンツのことなんだけど」

「ん、そういや最近くれって言わないな」

「うん、もうパンツはいいかな。私、そうちゃんが好きって言ってくれたから満足なの」

「そ、そうなのか？」

「えへへ、それにそうちゃんとエッチなことはしたくても私の趣味は今はいいかなって。普通にそうちゃんと一緒にいれたらそれだけで満足だし」

「あまね……」

　なんとまあ。

　あまねと付き合ったことがここで功を奏すとは。

　趣味はいいと。

　つまり、変態な言動は控えるということだろう。

　俺が長年望んだものが今、ここにある。

　普通の幼馴染との、普通の恋愛。

　ようやく、その夢がかなう時が来た。

「あまね……好きだよ」

「え？」

「俺、あまねのことが好きだ。ごめん、ちゃんと言ってなかった」

「そうちゃん……うん、私も大好き。ね、ほんとに好き？」

「ああ、ほんとだ。あまねの為ならなんでもしてあげたい気分だよ」

「ほんと？　嬉しい。じゃあ、今日は帰ったらいいこといっぱいしようね」

「ああ、楽しみにしてるよ」

　変態でなくなった幼馴染と和解した。

　で、今日の放課後はいいことが待っている。

　そう思うだけでワクワクが止まらない。

　授業の内容も何も入ってこない。

　あっという間に昼休み。

　そして、昼休みも何を食べたのかすら覚えていない。

　夢見心地とはこのことなのだろう。

　今晩のことを思うと、何も考えられない。

　そして放課後。

　俺は当たり前のようにあまねを連れて家に帰る。

　帰ってすぐ。

　部屋にあまねを連れて入った。

◇

「……あれ？」

　あまねと部屋に戻ったところから記憶がない。

　で、目が覚めたらなぜか部屋は真っ暗だった。

「お、おいあまね？」

　しかし呼びかけても誰も返事をしない。

　あまねはどこに行った？

「……ん、あれ、動けない？」

　そして暗闇の中で自分がどういう状態なのかを把握する。

　どうやら手足が椅子に縛られているようだ。

「え……ど、どういうことだよこれ！」

　普通に怖くなった。

　ホラーだ。

　俺は、必死に縛られた手足を動かそうともがく。

　すると、

「そうちゃん、目覚めちゃったんだあ」

　あまねの声がした。

「あ、あまね！？」

「えへへ、そうちゃんが今日、私の為ならなんでも言うこと聞いてくれるって言ったから。監禁しちゃったあ」

「え……」

「えへへ、私ってそうちゃんの全部ほしいんだあ。だからね、ここでずっとそうちゃんと一緒がいいなって。あ、おしっことかのお世話は私がしてあげるからね」

「ま、待て何を言ってるんだあまね？」

「そうちゃん、私が変態でも好きでいてくれる？」

「そ、それは……」

　まだ、あまねの顔が見えない。

　声が、少し遠くから聞こえる感じがする。

　ただ、こんなわけのわからない状況にされておいて、俺はそれでもあまねを好きだという自信がなかった。

　だから口ごもる。

　が、あまねは続ける。

「そうちゃん、私はこんなんだけどそうちゃんが大好きなの。だから受け入れてほしいの。ダメ？」

「……だめというか、なんでなんだ？」

「私、総ちゃんの匂いがすき。だからパンツほしかった。そうちゃんの裸見たい。でも、恥ずかしくて言えなかった。だから脱がそうとして誤魔化してた。やっぱり変かな？」

「あまね……」

　あまねは、俺が好きだという気持ちは変わっていない。

　ぶれていない。

　歪んではいるが。

　俺はどうだ？

　あまねのことを好きなのに、知らんふりして、もしかしたらそれがあまねをこうさせたのかもしれない。

　受け入れてやればやっぱり……でも……いや。

「あまね、俺はお前の彼氏だ。だからあまねのことは……受け入れたい」

「そうちゃん……ほんと？」

「ああ。だけど監禁は嫌だ。一緒にいろんなとこ行きたい。学校でいちゃいちゃしたい。あとは……あまねの好きにしていいから」

　と、言った瞬間に。

「おめでとう」

　澄んだ声と共に部屋の灯りがついた。

「っ……あ、あんたは」

「あら、イリアお姉さまの登場よ」

　イリアさんが現れた。

「な、なんでここに」

「あら、今日はあなたがあまねのすべてを受け入れた記念日なのだからお祝いに来て当然でしょ」

「す、すべて？　いや、それは」

「あまねの変態性をも克服できるだけの強い気持ち、素晴らしいわ。愛は変態をも凌駕するのね」

「い、いやしないと思うけど」

「するのよ。さて、縄はほどいておいたから」

「あ、あれ……ほんとだ」

　いつの間にか縄がほどかれていた。

　そして、ぞろぞろと部屋に女子たちが入ってきた。

　先日の変態たちだ。

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

　拍手をしながら、某アニメの最終回のように俺に向けておめでとうと連呼する変態達。

「……なんの真似だ」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめっとうさん」

「お〇こ」

「おい下ネタ混ぜるな！」

「ふふっ、とりあえず今日は記念すべき日ね。あまねとの初夜、存分に楽しみなさい」

　そう言って、変態達はすぐに部屋から去る。

　そして入れ替わるようにあまねが部屋に。

「あまね……おまえ」

「ごめんそうちゃん。そうちゃんの本当の気持ちを知りたくって」

「……バカだなほんと。俺はとっくにお前の彼氏だ」

「そうちゃん……じゃあ、今日はしてくれる？」

「うん、もちろんだ。俺も、あまねと、したい」

「そうちゃん……」

　こんなよくわからない状況から、なぜかいいムードに発展した。

　で、あまねがゆっくり部屋の扉を閉じて中に入ってくる。

「あまね……寝ようか」

「えへへ、そうする」

　で、俺たちはそのままベッドへ。

　その瞬間、どくんと心臓が脈打つ。

　今日、初めての夜を迎える。

　そう思うと興奮が止まない。

「あまね……」

「そうちゃん……」

　俺はあまねの体に手を伸ばす。

　あまねは、何かをもぞもぞと取り出す……取り出す？

「な、なにそれ？」

「えへへ、おもちゃ。そうちゃんにね、使いたいのー」

「ま、待て！　そ、それをどこに使うつもりだ！」

「えへへ、男の人の穴っていくつあるのかなあ？」

「や、やめろー！　あー！」

　この日、俺は初めてのエッチを経験した。

　ただ、その内容がいかなるものだったのかはここでは語らない。

　ただ、人が経験するものとは絶対に違うのだろうなという自覚はありながらも、その快感だけは脳裏に焼き付いて離れなかった。

　この日俺は。

　男になった。

　で。

　変態に片足を突っ込んだ。