その3-3 あたしの答え(あや視点)

 「……はあ」


 まじか、挨拶されただけなのに、めっちゃドキドキしてる。

 なんでこんなんなっちゃったんだろ、あたし。


 トイレで薄化粧を直しながら、あたしはボーっと考える。

 さっきのちょっとした会話のことだ。


 今までの彼氏も、全然こんなことなかったのになー。


 けど、彼氏って言っても本気で好きになったことはなかったかも。

 じゃあ本気って……?


 ドキン。


 いや、まさかね。


「あーやっ!」


「!」


 少し高くて幼い声に反応して、後ろを振り返った。

 あたしの


「遥じゃん、どうしたの?」


 あたしの親友、遥だ。


「どうしたの、はこっちのセリフだよ。なんか元気ない? 相談ならのるよ?」


「えー? 元気ないかな」


「うん、バレバレ」


「……もう」


 けど、この相談は出来ない。

 遥にだけは、出来ないよ。


「なんでもないから」


「?」





「この問題を~、だから~」


 授業中、内容を話半分にしながらボーっと聞く。


 授業は基本ひまだ。

 あたしは窓から二列目の一番後ろだし、おとなしくしてれば話は聞いてなくてもあんまりバレない。


「……」


 ちらっと、その大きな背中が視界に入る。

 一番窓側の前から二番目、遥の後ろの席の龍虎くんだ。


 まあ、あの身長なら何もしなくても目立つのだけど。


 てかあれ、何してるんだろ、さっきから一回も黒板見てないよ。

 また絵でも描いてるのかな?


 あんなに前の席でそんなことしてると、バレるよー。

 あ、ほら、当てられた。


「すいません! 聞いてなかったです!」


「正直なのは良いけどさー、この問題解ける?」


「あー、3ですね」


「解けるのかよ!」


 教師とのやり取りに、ちょっと教室が和む。

 龍虎くんが人気なのと、この先生も好かれている方なのでこういう雰囲気になる。


 いかにも龍虎くんを目の敵にした、数学のハゲたおっさんの難問の時とかはスカっとしたなー。


 って、またあたし考えちゃってるよ、龍虎くんのこと。


「はあ……」


 誰にも気づかれないような溜息をつく。

 こりゃあたしも、ちょっとやばいかもなー。


 調査するって言ったけど、しばらく龍虎くんからは離れた方が良いのかも。







「って、なんで一緒に帰るの!?」


「ん?」

「え?」


 あたしの言葉に、前を歩く遥と龍虎くんが振り返った。

 今は放課後、下校の時間帯だ。


「あ、ごめん。嫌だった? あやちゃん」


「そ、そうじゃなくて……」


 何言ってんのあたしー!

 つい勢いでツッコんじゃったー!


 そこまで悪い言い方じゃなかったのは、幸いだったけど。


 はあ、少し距離を取ろうと思ったばっかりだったのに。


 そうしてボーっとしながら、前の二人に追いつこうと歩いて行くと


「あぶない! あやちゃん!」


「へ? わっ!」


 下を向いて歩いてたら、龍虎くんがいきなり迫って来た!

 ちょ、ちょっと何!?


 パシッ!


「ふうー、あぶなかったー」


「え?」


 野球のボール?

 あ、遠くから飛んできたのを受け止めてくれたんだ。


 てか、身長やっぱり高いし、体もがっちり……。

 顔も……。


「あやちゃん、大丈夫?」


「え、う、うん」


 ってか!

 何この態勢ー!


 いつの間にか、後方に倒れそうなのを左腕で支えられているような格好になってた。

 龍虎くんが迫って来て、びっくりして倒れそうになったんだ、あたし。


「あ、ごめん。びっくりさせちゃったかな」


「ううん……。ありがと」


 龍虎くんはあたしを放した。

 

「二人とも! 大丈夫?」


「遥ちゃん。大丈夫だよ」

「うん、あたしも」


「ほっ、良かった」

 

 あたしたちを心配した遥が胸をで下ろした。


「すみません! 当たりませんでしたかー!」


 遠くから、走りながら声を出してくるのは野球部員。


「大丈夫ですよ~。いきますよ! それっ!」


「うおっ! すごい肩!」


 お得意のスポーツ万能さを見せて、龍虎くんはボールを返した。


「じゃ、帰ろうか」

「うんっ」


 遥と龍虎くんの二人が、また並んで歩き始める。

 デキてる、とは聞いてないけど、やっぱりあたしは二人がお似合いだと思う。


「……うん」


 この光景に、答えが出た。

 やっぱりあたしは、二人が付き合ってほしいなーと思う。


 あたしは龍虎くんを好きってわけではないからね。


 ……けど。

 このドキドキは、もうしばらく収まりそうにないかな。





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チート能力を持って高校生に戻った俺が望むのは、ちょっと生きやすくてちょっとずるい日常。ただそれだけ むらくも航 @gekiotiwking

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