第5話 最強の方程式

 昼食を終え、早速自室に戻ろうとする。

 リビングを出ていく間際に話しかけてきたのは、皿を洗っている母さん。


「何か嬉しいことでもあった?」


「へ?」


 突然そんなことを聞いてくる。


 まさか……ノーズの存在がバレた!?

 いや、ありえないな。

 そんなことが出来ればノーズより母さんの方がよっぽど怖い。


「い、いやあ、何も、ないけど……」


 とりあえずうまく誤魔化そう。


「そうなの。でも、何かに打ち込めるってとても良いことよ。頑張りなさい」


「う、うん」


 俺はリビングと出ていき、考えながら階段を上る。


 否定したのにバレてたな。

 ノーズのことを勘づいたわけではないけど、何か楽しいことを見つけたのは完全に分かっていたっぽい。


「……」


 俺は、大学時代に言ってしまったことを思い出していた。


 「親だって違う人間なんだ、お前とは分かり合えるか!」とか、そんなことを言ってしまった気がする。


 変なネット配信者の「親は親、自分は自分」とかいう言葉を鵜吞うのみにしてしまったんだ。

 言っていることは間違いではないだろうけど、意味をき違えていたな。


≪しんみり?≫


「ふっ、うるさいよ」


 ちょっと暗くなりかけたが、ノーズの空気の読めない言葉にくすっとなる。

 いや、むしろ読めてたのかな。 


≪読めてますね、完全に≫


 読めてないわ、やっぱ。





「さてと!」


 気持ちは心機一転。

 やりたいこと探しだ!


「なんだろう……今の状態って、簡単に言えばチートだよなあ」


 脳波とか意味わかんないこと言ってるけど、その力は本物。

 じゃあ、どこまでが限界か見極める必要があるな。


≪限界など、とうの昔に超えていますよ≫


 なんか熱い漫画でも読んだ?

 と、そんなノーズは無視しておきまして、手を進める。


 『やりたいこと』

 そうルーズリーフの表題部分に書いたは良いものの、一行目から止まる。


「まずは……うーん? あれ、意外と思いつかない」


 なんでも出来ます、なんでもやれます、と言われると逆に困ってしまう。


 ある程度レールに敷かれた人生を送る日本人の悪いとこだなあ。

 なんて、ちょっと頭良さげなことを思い浮かべつつ、それならばと、前世で出来なかったこと経由で考え直してみる。


・モテる

・高学歴になる

・イケメンになる

・金持ちになる

・超金持ちになる


「まずはこんなとこか」


 最後の二つは同じだけど、今の想像力ではこんなもん。

 人生に何の目標もなかった人間が、急になんでも出来るようになると案外困る。

 やりたいことを持ってる人間って良いなあ。


「……でもさ」


 モテる、高学歴になる、イケメンになる。

 これ達成したようなもんじゃね?


 モテるは女の子一人以上を指す(俺調べ)。異論は認めない。

 

 高学歴はノーズこいつに任せて、イケメンにはすでになっちゃった。


「じゃあ、お金持ち?」


 どうすれば良いんだろう。

 ねえねえ、教えてノズえもーん。


≪それやめてください。色々とまずいので≫


「ほどほどにしておくよ」


 で、どうなの?


≪私が操れるのはあくまで脳波のみ。お金の動きは管理できません≫


「ちぇっ」


 まあ、そうかあ。

 いくらチートっていっても限界はあるのかあ。


 残念な気持ちと、案外早く限界が知れたなというちょっと嬉しい気持ちが混濁こんだくして、よく分からない気持ちになる。


 となればやることは一つ。


「お昼寝ターイム」


 何も考えずに寝る。

 結局これが一番。


 もちろん寝る時にはスマホを片手に。

 だが、そこで改めて気づく。


「あ、あのアプリまだないんだった」


 思い描いていたのは、羊が競争をするゲーム。

 「そこは馬じゃないんかい!」と出た当時は騒がれたものだが、これが影響力のある人インフルエンサー伝手に広まり、案外面白くてやがてトップとなったゲームだ。


「出るのは四年後かあ」


 俺は別にガチ勢だったわけではないが、ちょっとした暇な時間だったり、寝る前にちょこっとやるにはもってこいだった。


 ……というか、これ作ればよくない?


 一気に目が覚め、ガバっと態勢を起こす。


「ノーズ!」


≪……はいはい、ふあ~あ≫


 お前が寝てどうする、てか寝るの?

 って、今はそんなことどうでもよくて!


「アプリを作ろう! あとはこれから来る業界の仮想通貨とかも買うんだ!」


 アプリに加えて、これから世間を大きく揺るがすことになる仮想通貨。

 だが今はまだほんの芽が出たくらいだろう。


 どうしていきなりそんなことを思い付いたのかというと、俺の頭の中には方程式が成り立っていたのだ!


 世界の頭脳ノーズ未来の知識=最強!


 これでいずれは金持ちの目標もそのうち達成できる。

 くう~、俺天才か?


≪誰でも思い付くと思いますが≫


 うるさいなあ。自慢ではないが、俺は勉強をサボってきたのだ。

 よって頭は良くない!


≪できないことを自慢する、イタいやつですね≫


 ふっ、別にどんなにののしられようがいいさ。

 俺は今気分が良いからな。


≪では、何から始めましょう≫


 決まっているだろう。

 俺は起こしていた態勢を綺麗に後方に倒した。


「昼寝からだ!」


≪はあ……≫


 ため息が聞こえたような気がしたが、生憎俺はもう眠たい。


「ぐぅ」


 夢を膨らませたまま眠りにつく俺、だっ……た……。





「え!? もうこんな時間!?」


 目を覚ましたのは18時。

 完全に寝すぎた。

 

「嘘だろ」


 大学(サボり常習犯)時代の生活習慣が直っていなかった。


 まずは生活習慣からだ。

 そう、心に決めた日だった。

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