第9話 初日の質問攻め。それから……?

 「ねえねえ! 龍虎くんって何かスポーツやっていたりするの?」


「家は近く? どの辺?」


「一緒にサッカー部入らねえか!?」


 これだ……。


「ご、ごめん、一気に質問されると……」


「「「わーぎゃー、わーぎゃー」」」


 俺が答えようとするも、質問や勧誘は収まることを知らない。


 今は、二限目が終わった後の十分じゅっぷん休憩の時間。


 高校初日から授業が開始されるわけでなく、全てオリエンテーション的な内容になっているが、それでも時間はしっかりと高校仕様だ。


 五十分の授業の後に十分の休憩。


 一限目が終わったタイミングで、のんびり遥ちゃんと話をして過ごそうとでも思っていたのだが……


「「「わーぎゃー、わーぎゃー」」」


 一限目が終わった瞬間からこれだった。

 というのも、一限目はまず全員の自己紹介から始まった。


 前世の陰キャオタクだった俺は、ボソボソと話し、自分でも何を言っているのかすら分からず嚙みまくり、ただ大きいだけのブサイク。


 当然のごとくその時点でつまずいたわけだが、今回はサラっと流すだけにした。


「石川龍虎です。趣味と言えるものは特にありませんが、何事も挑戦したいなって思ってます。高校生活に少し緊張気味ですが、よろしくお願いします」


 内容はほぼ無いに等しいが、前世の時とはまるで反応が違ったように見えた。


 まずは、その聞いている側の視線。

 前世はさげすんだ目、もしくは全く興味がなさそうに別の方向を向かれていた。


 けれど今回は、全員が全員俺に興味を持ってくれている様で、きょろきょろと見回すとどこででも目が合った。それもすごく好意的な目だ。


 そして肝心の自己紹介の内容が薄かったっため、休憩に入った瞬間から質問攻めにあっているというわけだ。


「「……」」


 人のあいだからちらっと前の遥ちゃんの席を覗くと、あやちゃんも合わせてこちらをじーっと見ている。

 俺も二人と話したいんだよ~。


 けどまあ、


「スポーツはやっていないよ。高校ここでも部活に入るかは分からないかなあ」


「えー! 意外!」


「家は割と近いよ。歩いて十分ぐらいかな」


「そうなんだ!」


 こうしてみんなと話すのも悪くはない。

 

 ここから発展して、さらに仲良くできる人も増えていくかもしれない。


 友達の作り方はてんで分からないけど、あちらから話しかけてくれるのならやりやすいな。





「はあ~……」


 疲れた。


 今日一日、休憩の時間も、教室を移動するにも誰かしらに付きまとわれ、窓の外はすっかり夕焼けで赤くなっている。


 ようやく放課後だ。


 まあ放課後といっても、三十分ほど俺の席の周りは賑やかだったわけで、みんな仮入部に行くからと言ってようやく去ってくれたのが、ついさっきだ。


 ……でも。


 女の子の友達はもちろん、ずっと羨ましかった男友達も出来たりして、とても良い一日が過ごせた。


 決して嫌な疲れじゃなくて、いっぱい人と話して、いっぱい人と笑い合って、やりきった疲れなのでとても清々しい。


 前世では一度とて思ったことは無かったが、明日の学校も楽しみだ。


「龍虎くんっ!」


「ん?」


 そんなことを考えながら、席でだらーんとしていた俺に話しかけてきたのは、


「遥ちゃん。帰ってなかったんだ」


「う、うん……」


 俺が目を合わせると、遥ちゃんは少し恥ずかしそうに目を逸らした。


 そういえば、遥ちゃんとは校門前と朝に少し話しただけで、それ以降は話せていなかったかも。


「龍虎く~ん、聞きなよ。遥がこれからデートしたいんだって」


「デ、デート!?」


 ニヤニヤした顔で言ってくるのは、遥ちゃんの友達のあやちゃん。

 

「ちょ、ちょっとあや! そんな言い方はしてないでしょ!」


「え~そう? あたしにはそう聞こえたけど?」


「もう、あやったら!」


 遥ちゃんは顔を赤らめてしまった。


「で? どうなのよ? 龍虎くんの方は」


 そりゃあ……


「良いよ」


「……!」


 遥ちゃんの顔がぱあっと晴れる。

 可愛いな。


「良かったねえ。んじゃ、私はこれで~」


 俺の了承を確認したところで、あやちゃんは手を振って立ち去ろうとする。

 

 ギャルに偏見を持っていたけど、やっぱり良い子なんだよなあ。


「ま、待ってよ!」


 しかし、あやちゃんを止めたのが遥ちゃんだ。


「あやも一緒に行こうよ!」


「あたしぃ~?」

 

「うん! 三人の方が楽しいし、それに」


「それに?」


「今、二人っきりになるとうまく話せる気がしなくて……」 


 遥ちゃんはもじもじしながらぼそっとつぶやいた。


 こんなストレートに俺の近くで会話されると、さすがに照れる。


 対してあやちゃんは、少し「んー」と考えた後に答える。


「あ~、なるほど? おっけ、いいよっ。龍虎くんはだいじょぶそ?」


「もちろん! あやちゃんとも、もっと話してみたいし」


「! そ、そう……」


「?」


 あやちゃんは少し顔を赤らめ、口を少しとがらせて答えた。


「どうかした?」


「無自覚……。な、なんでもない! ほら、行こっ。マッ○? ミ○ド?」


「お、おう」


 ギャルからちょっと乙女になったあやちゃんが、たっとけていく。


「ちょっとあやってばー。龍虎くん、いこっか」


「そうだね」


 一日が終わったと思った矢先の、遥ちゃん達からの誘い。


 青春高校生活一日目。

 延長戦『放課後デート(?)』、ファイッ!





≪……主が順調過ぎて全く出番がありませんでした。くうっ≫

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