遥ちゃん その1
その1-1 遥ちゃんの好感度
「遥ちゃん」
「りゅ、龍虎くんっ!」
「え、どうかした?」
廊下で話しかけると、遥ちゃんはびくっとして高い声で返事をした。
前から歩いて来たし、こっちをチラチラ見てたから気づいていると思ったけど。
「な、なんでもないのっ! 私用事あるから行くね!」
「え、あ、うん……」
そう言うと、ぴゅーっと俺の前から去ってしまった。
また逃げられてしまった。
「はあ~あ」
サッカーがあった日から数日。
なんだか遥ちゃんとうまく話せない。
正確には、長続きしない。
むむむ……。
そんな遥ちゃんの後ろ姿を目で追いかける。
ストーカーではないぞ、決して。
ー---------------
青井遥 好感度:79.9
ー---------------
「だよなあ」
好感度も示している通り、嫌われてはないはずなんだ。
むしろ好かれてるといって良い。
嘘ついてるとか……ないよな?
≪ありません≫
それならよし。
おっと、話を戻そう。
とにかく、好かれているのは間違いなくて、ノーズによると好感度80になると惚れられたと認識して良い数値らしい。
なので、この数字には俺自身ドキドキしている。
だけど……
「くっ」
ここ数日、数字がなんとももどかしいのだ!
正確には、79.8~79.9をいったりきたり……。
79.9から下がった時は、この世の終わりかと思ったよ!?
けどまあ、そこから上がったので終わりにはならなかった。
……それからまた上下を繰り返しているけど。
人を数字で見るのは良くないと思う。
でも、やっぱり気になるじゃん!
数値的には高くて嬉しいのだけど、なんか焦らされてる気分!
ここまできたらもう80超えても良くない?
そう思うのは強欲なのか?
≪強欲ですね≫
うるさいよ!
ていうか
ここまで来たらおかしいと思わないか?
≪いいえ、全く≫
何だよ、また「私は全て分かってますので」みたいな態度しやがって!
≪私は全て分かってますので≫
はいはい。それもう言ったからね。
それに、気のせいかもしれないが、なんとなく避けられてるようにも感じる。
話しかけるとちゃんと応じてくれるんだけど、なんか会話が長続きしないというか、途中で遥ちゃんがどっか行っちゃうんだよね。
さっきみたいに。
「難しいなあ」
ノーズの好感度メーターは信頼しているので、好感度の問題ではないとして、何が原因なのだろう。
文武両道イケメンだけじゃダメか。
我ながら贅沢な悩みではあると思うけど。
≪本当、贅沢ですね≫
あなたのおかげでね。
★
「青井さんとうまく話せない?」
「そうなんだよねー」
昼休憩、屋上でパンをかじりながら友達に相談してみる。
友達というのはすっかりいつメンの、太一、西川、大沢だ。
「それは、龍虎が恥ずかしくてってことか?」
「いや、そうじゃなくて。うーん……避けられてるっていうか?」
「避けられてるか……」
三人はうーんと少し上を見上げ、また同時に俺に顔を向けた。
「「「好きじゃん!」」」
「はい?」
よくハモったなーと思いながら話を引き続き聞いてみる。
「それはなー、好き避けだよ、好き避け」
「好き避けぇ?」
そんなの
俺が前世で妬みながらも読んでいたラノベなり、漫画なりには山ほど出てきたけど。
第一、好きな人とは話したいものなんじゃないのか?
「ああ、間違いない。青井さんはシャイそうだからな」
「俺もそう思うぜ」
「わいも」
「そうかなあ」
一人、こっち側のオタクが混じっていたような気がしたが華麗にスルー。
今は遥ちゃんの話だ。
「まあ、俺はそう思うってだけだよ。気になるなら聞いてみれば良いじゃねえか」
太一はそう言ったが、西川と大沢は同意しなかった。
「いや、それは無理だろ」
「うん。ないない」
「お前ら! 何だよ急に!」
正直、これには俺も同意しかねる。
「聞くったって、どう聞くんだよ。あなたは私のこと好きですか? ってか」
「そりゃあ……そうだな、俺もよく分からねえや」
なんなんだよ、一体。
俺たち三人はもれなく目を細めた。
まあ、難しく考えすぎっていうのはあるかな。
聞いたりはしないけど、太一のような気楽さも必要なのかもしれない。
「まあ、いいわ! なんとなく気が楽になったよ」
「おっ、そうか。それは良かった」
太一の横で、西川と大沢も「うんうん」と頷いてくれている。
しかし、矢は突然飛んできた。
「ところでさ」
「なんだ?」
西川が真剣な顔でこちらを見てくる。
「龍虎って、遥ちゃんのこと好きなのか?」
「へっ?」
そう言われると……あれ。
俺って……。
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