その1-2 これって恋なのかな。分からないよ(遥視点)
「はあ……」
またやっちゃった。
こそっと隠れて、今喋ってた龍虎くんをちらっと陰から覗く。
「はあ……」
「はーるか!」
「ひゃっ!」
ため息をついていた時に、後ろから突然を声を掛けられる。
すっごく高い声を出してしまった。
「も~、あや! びっくりするでしょ!」
私にそんなことをするのは、あやしかいない。
「ごめんごめん。てか今の声、可愛かったな~。もう一回言って?」
「やだ」
こっちだって恥ずかしかったんだから。
周りにも見られたし。
「で~? どうしたの? なんか元気なさげじゃん」
「そういうわけじゃ……」
ちょっと見透かされた気分になって、さっとあやから顔を
本当に鋭いんだから。
「ははーん」
「な、なに?」
にや~としたあやの顔が、下から覗いて来る。
「当ててあげましょうか」
「なにをよ」
「ずばり、恋
「!」
“恋”という単語に、顔がかーっと赤くなっていくのが分かった。
やっぱり、そうなのかな?
「……」
「あれ、違った?」
あやに、相談してみようかな。
「あ、あのねっ」
★
「じゃあね、遥ちゃん」
「う、うん!」
龍虎くんとバイバイして、教室を出ていく。
そんな顔しないで。
私だって話したいけど、今はとても話せる状態じゃなくて……。
それに、
「行きますかー、遥」
「うん……!」
今日はあやとの会議なんだ。
近くのファミレス。
何日か前、龍虎くんと来たところとは違う場所。
違う場所にしたのは……なんとなくっ!
「では、お聞かせ願いましょうか、お嬢ちゃん」
「な、なに、その話し方」
「雰囲気出るでしょう?」
「そうかなあ」
占い師みたいな話し方になったあやに、今の状況を相談してみる。
「なるほどねー、うまく話せないか」
「そうなの。話したいのは……山々なんだけど」
「体育もすごかったもんねー」
「!」
頬にちょっと熱を感じる。
「あれぐらいからでしょ、遥が話せなくなったの」
「……知ってたの?」
「あたしは、遥のことはぜーんぶお見通しだからね」
「もう」
あやって、やっぱり鋭い。
本当にぜんぶお見通しなんじゃないのかな、って思う。
「あと、それだけじゃないでしょ」
「! う、うん……」
「自分の言葉で言ってごらん」
「えっと……」
本当にお見通しみたい。
私も、自分で整理しながら言葉にしてみる。
「多分、話せないのって緊張しちゃってるからだと思うの」
「うんうん」
「理由を考えたら……なんとなく、分かるんだけど」
「そうだね。恋だね」
「も、もうっ!」
「ごめんごめん」
あやのあまりの直球ぶりに動揺するけど、私も今の気持ちを言葉にして続ける。
「でも……分からなくって」
「ん?」
ここで初めて、あやが不思議な顔をした。
「分からないって、どういうこと? 遥」
「えと、なんていうか……」
「ゆっくりでいいよ」
「うん……」
なんて言えば良いのかな、この気持ち。
「状況から見たら、恋なのかなって自分でも思うの。でも私、今まで好きになった人がいなくて、それで……」
「なるほどね~。あやは、これが果たして恋なのかが分からないと」
「うん。あと体育できゃーきゃー言ってる人達を見てると、私にはとても出来ないって思っちゃって」
「ふむふむ」
「だから、本当に本気で恋してるのかなって、自分でも分からなくなっちゃって」
「ほうほう」
うーん、とあやは少し見上げて考えた後、また私を見た。
「そういえば、遥の恋らしい恋って聞かなかったよね~。めちゃくちゃモテたけど」
「え? めちゃくちゃモテた……って私が?」
「そりゃそうよ~。何人にも告られてたじゃん」
「でも、あの人たちは本気っぽく見えなかったって言うか……」
「いんや~、本気の人もいたよ? 遥にフラれた奴をどんだけ励ましたか。あ、これオフレコだった」
「そ、そう……」
あの人たちも、本気で恋してたんだ。
「ごめんごめん、話が
あやが話しかけてきたので、こちらに思考を向ける。
「……そう、かな。でも、体育の人達は?」
「あれはファンみたいなもんだから。大事なのは遥自身の気持ちだよ」
「私の気持ち……」
多分、好きなんだろうとは思う。
まだ迷っているけど、あやもそう言っているし。
てことは、私も告白したり……しなきゃいけないのかな。
そう考えると、なおさら顔が赤くなった気がする。
「けどね、焦らなくてもいいと思う」
「?」
あやがふっと笑った顔で、私を見つめてきた。
「遥は、賢いけどたまに抜けてるからね~。どうせ今、私も告白しなきゃとかって思ったでしょ」
「ど、どうして分かったの……」
「遥は意外と単純だからね。可愛いところでもあるけど」
「もう、どういみ意味っ」
あやが「まあまあ」と手で抑えて話を続ける。
「けどね、絶対に告白する必要はないよ。付き合いたいなら……行くしかない気もするけど。あっち、相当モテるだろうし」
「うん」
「でも、大切なのは遥の気持ち。遥の今の気持ちが“好き”だって分かったら、龍虎くんとはどうなりたいの?」
「どうなりたい……」
私は……。
★
「お、おお、おはよう!」
「え。お、おはよう」
最近、龍虎くんからしてくれるまで出来なかった朝の挨拶。
今日は自分から頑張ってみた。
ちょっと
ちらっと見ると、ふふっ、やっぱり驚いた顔してる、龍虎くん。
先に登校してたあやの方をち見ると、「ぐっしょぶ」と親指をこちらに向けてきた。
あやに言われて、あれから家でも色々考えてみた。
私は、龍虎くんとどうなりたいか。
やっぱり、付き合うっていうのはまだ私にはピンとこなくて。
でもこれが恋なんだって受け入れると、今の状況にすごくモヤモヤして。
だから今は、とにかくもっと龍虎くんと話をしたい。
また、普通に話をしたり、放課後にカフェに行ったりしてみたい。
だから、私からも頑張って話しかけてみる。
嫌われてしまわないようにね!
「龍虎くんっ!」
「!」
龍虎くんはちょっと驚いた顔をして聞き返してくれた。
「どうしたの?」
やっぱり、かっこいいな。
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