第2話 他に出来ること

 ねえねえ、他に何か出来ないの?


 朝食や朝の支度を済ませ、こいつの能力の見たさに「散歩をしてくる」と言って、俺は公園に来ていた。

 ……なんとなく、家にも居づらいしな。


≪何か、とは?≫


 例えば、魔法をばーん放ったりさ、剣でキンキン! って敵を斬ったりさ。


≪……ライトノベルの読み過ぎですね≫


 お前に言われたくないわ!

 正確には読んでいるかは知らないが、とりあえずそうツッコミたくなった。

 まったく。


「ふう」


≪どこに行くのですか≫


 トイレだよ。

 一旦落ち着くためのトイレというのは、男(?)あるあるだ。


≪付いていきます≫


 くんなよ。


≪ぷぷーっ! 脳内に生息しているので一緒に決まっていますのに≫


 知ってるわ!

 なんなんだ、こいつまじで。


「はあ……」


 良い奴かと思えばなんか胡散うさん臭いし、微妙にノリが合わないし。

 そうして用を足した俺は、ふと目に付いた鏡で衝撃を受ける。


「……って、えええ!?」


 なんだこの顔……。これ、俺?

 鏡を前にして、顔を見るために屈んだ目の前に写ったのは、イケメン。

 自分を褒めちぎるマインドではなく、ガチのイケメン。


「かっけえ……」


 自分でもそう言ってしまう程だった。

 セットもしていないはずの髪は自然と無造作に整えられ、くっきりとした大きな目、今時風の小さめの顔に、それぞれのパーツが完璧に整えられている。


≪どうせならそっちの方が良いでしょう?≫


「え、お前がやったの?」


≪そうですよ≫


 これが“世界の頭脳”か?

 やべえな。


≪正確にはあるじを目に映す者の脳をハッキング、誤認識させているのですがね。まあ、トリックが破られることはないので、イケメンと思って良いです≫


 誤認識とは。

 失礼、まあ失礼なこと!


 だが俺は信じた。

 こいつ、本当に凄い奴だったんだ!


 なんだよ、てっきりポンコツで空気が読めなくて好感度覗きおじさんでのただの意地っ張りなエセ世界の頭脳とかいう意味不明な──


≪イケメン、解除しますよ?≫


「すみませんでした」


 調子に乗るのはやめておこう。

 その言葉は俺に効く。


「やめてください!」


「ん?」


 そんなやり取りをしていると、外から何やら女の子の声がする。


「なんだろう」


 明らかに何かを嫌がっている声だった。


 トイレの外に出た俺は、いかにもチャラいですって格好をした男二人に絡まれる、一人の女の子を見つける。

 

 こうしちゃおけない。


 そう思ってずんずんと近づいていくが、近づいていくにつれて足取りが重くなる。

 ここでも人間嫌いが出るのかよ。


 チャラ男まであと一歩まで近づいた俺は、精一杯の声を上げようとする。

 だがそれは、悲しくも喉元で詰まってしまう。


「あ、あの……て、手を」


 声が出ない。

 チャラ男=陽キャではないが、俺のトラウマを思い出させるには十分過ぎる奴らだ。


「あぁ? 誰だお前」

「正義のヒーロー気取りか? 声も出せてねぇじゃねえか」


「「ぶわっはっはっは!」」


 男たちは高笑いを上げる。

 俺は勇気を振り絞ったにもかかわらず、下を向くことしか出来ない。


「!」


 だが、精一杯上を向こうとした時に、男二人の間から女の子と目が合う。

 可愛い。けど怯えている。


 ……ここは!


「手を離せよ!」


「「は?」」


 下を向きながら、今度ははっきりと声を出す。

 俺が声を上げたことに、イラつきを見せる男たち。


 ああ、終わりだ。

 もう怖くて目も合わせられない。


≪よく声を上げましたね≫


 え?


≪後はお任せを≫


 はい?

 心の中でノーズに対して首を傾げていると、俺の右腕が上がった。


 そしてそのまま……ボコッ。


「え?」


「は?」


 ちょおおお!?

 何やってんのお前!?


 何が起こったのか、目の前には男を殴る俺の拳があった。

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