第3話 初めての感覚(恋!?)

 いつの間にかグーになっていた俺の拳は、いきなり男を殴った。

 理屈は分からないが、確実にやったのはこいつ。犯人はノーズこいつなんです!

  

「ガキィ……覚悟は出来てんだろうなあ?」


 ピキピキ、といかにもキレた様子の男(殴った方)は拳を温めている。

 って、おい、やめろよ!


 ボコッ。


「「「……」」」


 明らかにさっきよりも強く、今度は俺の左手を使って男を殴った。


≪ぷくく……あっはっはっは! 面白すぎます!≫


 この中で笑ってんのお前だけだからな!?

 しかも周りには聞こえてないし!


 でも……


「ぷっ」


 ちょっと面白いかも。

 俺は脳内と目の前の状況のギャップに、思わず吹き出してしまった。

 あっ、やべ。


「殺す!」


 俺の噴き出した様子が男を完全にキレさせたらしい。

 男のパンチに咄嗟とっさに身構えようとするが、体が言うことを聞かない!


≪お任せを、と言ったでしょう?≫


 ぱしっ。


「「!?」」


 俺(なのか?)は男をパンチを華麗にかわしたと思えば、そのまま腕をキャッチ。

 自分で自分の動きに驚く。

 そしてそのまま……


≪さあ一緒に!≫


「せいやっ!」

≪どっせーい!≫


 男を背負い投げした。


「……」

≪……≫


 言葉が合わなかったのはご愛嬌ということで。 


「てめえっ!」


 それを見たチャラ男Bがすかさず殴りかかってくる。

 でもノーズさんの対応は冷たかった。


≪こいつは雑魚なのでこれで≫


 チーン。


「――があっ!」


 俺の足が、男の弱点である股下を本気で蹴り上げる。


 うわあ……。こりゃ立てませんわ。


≪では、ごゆるりと~≫


「へ?」


 そう聞こえた瞬間に体に自由が戻る。

 なんていうか、主導権が返ってきた感じ。


「あ、あの……」


 女の子がもじもじしている。

 多分感謝を伝えたいのだろう。だが女の子から話させてどうする。


 俺は調子に乗った。


「大丈夫ですか、姫」


「え、えっとー……」


「……」


 一瞬経って冷静にる。

 き、きめええええ、俺!


 しまった、なんてことだ。

 こんな絶好の機会なのに!

 ここにきて乙女ゲーでしか女の子と話してこなかった弊害へいがいがああ!


「あ、あの……」


「ひゃいっ!」


 緊張と後悔で、こちらが女の子みたいな声が出る。

 ああもう、めちゃくちゃだよー!


「面白い、方ですね」


 そう言ってうふふ、と笑いながら頬を赤らめる女の子。


 ああ、たった今確信に変わった。

 この子、俺のこと好きだな。

 オタク特有の勘違いで瞬時に悟る。


「いえいえ、助けられて良かったです」


 そうと決まれば会話はうまくいく。

 俺が何度、女の子をトゥルーエンド・ハッピーエンドに導いたと思っている。

 こうなってからの俺の立ち回りは、すでに洗練されているのだ。


「ところで、お怪我はありませんか」


「はい。あの……守って、下さったので」


 可愛いいい!

 胸の前で両手を抑えてるところなんかが特に!


「おーい、遥ー?」


「あ」


 公園の敷地外からこちらに手を振っている女の子。

 お友達だろうか。

 それにしても遥ちゃん、か。


「では、私はいきますね」


「はい、お元気で」


 やはりそうだったらしい。

 聞こうとしていた名前も聞けたし、右手をさっと上げて真摯しんしに見送る。


 去って行く彼女を目で追いかけ、ノーズに話しかける。

 ふっ、ノーズ君、好感度チェッカー例のものを出したまえ。


≪はいはい≫


 なんだ、その言い方は。

 主がモテ期を迎えているというのに……って、え?


ー---------------

青井遥 好感度:78

ー---------------


 あ、あれ……?


「ガチ?」


 先程聞いたノーズの説明によると、80以上が大体惚れた数値だという。

 つまり……ほとんど恋!?


 ドクン、ドクン。


 そう思うと、急に鼓動が激しくなる。

 半分冗談(もちろん半分は本気)だったのに……こんなことってあるの?


「え、ええぇ……」


 急な展開に、ただ腑抜ふぬけた声を出すしか出来なかった。







「はああ……」


 まだドクン、ドクンいってる。

 二次元の女の子しかいらない、そう思ってた時期が僕にもありました。


 あれからベンチでぼーっとした後、やはり落ち着かないのでとりあえず歩いている。

 体はノーズに任せたまま、俺は自分を落ち着かせる時間を作った。


≪それにしても、あるじは体格は意外と良いですよね≫


「え? あー、そうなのかな?」


 確かに悪くはないのかもしれない。


 大学に入ってからはポテチに魔剤エナジードリンク、とにかく肉といった不健康極まりない生活のせいでかなり太っていたが、身長は低くないしな。


≪身長は180cmちょうどですね≫


 へー、さすが頭脳パイセン。

 瞬時にお分かりとは。


「それで、どこに向かってんの?」


≪それは内緒です。ですが、有用な場所ですよ≫


 ほう、それは興味深いですなあ。

 ……俺の勘違いでなければ、なんとなく行き先は察しているのだが。


 そんな思いを隠しつつ(多分筒抜け)、俺は文字通り身をゆだねてひたすら道を歩いていく。


 気分はすごく良かった。

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