その1-2 バズった動画から動きを再現

 「今日サッカーなんだってー」

「龍虎くん、絶対スポーツ出来るよねー」

「早く見たいなあ」


 女子のキャッキャする声がどこかしこから聞こえてくる。

 ていうか、俺の話題だ。


「……」


 あれ、なんか逆にプレッシャーを感じてきたぞ……?


 ここで下手なことがあれば、かっこいい龍虎くんから一転、ダサい男になってしまうのでは……?


「なーに、辛気臭い顔してんだよ!」


「た、太一……」


 太一が後ろから肩をかけるように話しかけてくる。


「お、もしかしていっちょ前に緊張してんのか?」


「し、してねえよ」


 多分、してる。


 だって……。


 俺はちらっと女子たちが集まる方に目を動かした。

 遥ちゃんやあやちゃんが見てるし。


 はっ、そういえば!

 ノーズ、あれを出してくれ!


≪了解です≫


ー---------------

鈴木彩奈 好感度:51.4

ー---------------


ー---------------

青井遥 好感度:79.7

ー---------------


 また上がってるー!


 って、待てよ。

 おいノーズ、たしか好感度80で恋愛対象って言ってたよな?


≪そうですね≫


じゃあこれもう俺のこと……


「!」


 そんなことを考えながら女子の方を見ていると、遥ちゃんと目が合ってしまう。


 遥ちゃんは、風になびかれる黒髪のショートカットを左手で抑えながら、右手で控えめに手を振ってきた。


 可愛いなあ。

 応じて俺も手を振り返すと、少し顔を赤らめてにっこりと笑う。


「よし」


 ドキドキが止まらないが、遥ちゃんにも良いところを見せるためにも頑張ろう。


「なるほどなあ……」


「はっ!」


 そこでようやく、俺はずっと隣に人がいることを思い出す。


「な、何がなるほどなのかな、太一君?」


「ああ、わかる。可愛いよなあ、青井さん」


「!?」


 今の一連のやり取りを見られていたか……。

 これはやらかした。


「お前にもそんな人がいたとはなあ。これは収穫だぜ」


「ぐっ、うるせえ」


 惚れてるのはあっちだ! と言いたいところだが、俺もドキドキしているのには変わりがないので、無理やり否定する。


「まあ、お互い頑張ろうや」


「お、おう。……って、お前も誰か気になる人が?」


「さあな」


「おぁ! ずるいぞ!」


「もう集合時間だぞー」


 自分の話になった途端に、太一は行ってしまった。

 あの野郎。


 そうこうしているうちに、サッカーの授業が始まる。

 男子と女子で分かれてはいるが、聞いていた通り今日は合同でやるらしい。





 先生の指示で、ストレッチと軽いランニングを終えた後、まずはリフティングから始まる。


「すごーい」

「やっぱり上手なんだね~」 


「こら、女子もリフティングをせんか!」


 そんな声が女子側から聞こえてくるが、注目を浴びているのは俺じゃない。


「へへっ。楽勝、楽勝」


 サッカー部の太一だ。


「ちっ、あの野郎」

「サッカーだからって目立ちやがって」


 隣にいる西川と大沢が嫉妬している。

 普段、足を使っちゃいけないバスケをしている二人は、サッカーは得意ではないらしい。


「ねえねえ、龍虎くんはどうなのかな?」

「出来るに決まってるでしょ!」

「今は様子見って感じ?」


 控えめの声だったが、ノーズによって身体能力が向上された俺の耳は見逃さない。


「ふう……」


 準備は出来てるか?


≪いつでもいけます、マスター


 よし、いくぜ。


「ほっ!」


 わざとらしくボールを高く蹴り上げ、リフティングを開始した。


「「おおー!」」


 隣の西川の大沢の声に反応して、女子たちもこちらを振り向いた。


「すごーい!」

「やっぱりスポーツ出来るんだ!」

「かっこいいー!」


 頭から胸、膝、足先へと、順にボールをタッチしながらリフティングをする。

 たまに首の後ろに乗せるなんかすれば、どれだけでも格好がつく。


「「「きゃー!」」」


 ちらっと女子の反応をうかがって振り向いただけだが、どうやらファンサービスのように思われたらしい。


 昨日、サッカー関連の話題になったバズった動画を見まくり、ノーズに学習させたからな!


≪万が一にもボールを落とすことはありません≫


 さっすが!


≪ついでにかっこいいです≫


 神!


 心強いノーズの声もあり、ボールを目で追う必要すらなくなる。


「このやろ、やっぱ出来たか!」


「絶対落とさねえよ」


「それなら勝負だ!」


「いいぞ!」


 



 主に女子の黄色い声援を受けながら、サッカー部の太一とリフティングを続けるもどちらも落ちることはなく、


「キリがないからそこまで!」


 とうとう先生が止めに入った。


「ちぇっ、勝負つかなかったか」


「ああ、こりゃ持ち越しだな」


 そう口にしながらも、


「「……」」


 俺たちはボールを足先でコントロールしながら落とさない。


「おい、もう終わりだろ龍虎」


「そっちこそ」


「ったく、ガキかよ。じゃあ俺はやめるぜ」


「じゃあせーのでやめよう」


「「せーの!」」


 ポーン、ポーン……二つのボールは跳ね続ける。 


「「ぐぬぬぬ」」


 これだけは譲れん!


「「終わりだって言ってんだろ!」」


「「ぐあっ!」」


 バスケ部の西川と大沢が投げたボールが顔面に当たり、俺たちは同時に途切れた。

 ……いや、多分俺が勝った。


「なにしてんだか」


「ふふっ」


 あやちゃんの呆れた声と、遥ちゃんの笑い声が聞こえたような気がした。


「アップも済んだし、次は試合をするぞー」


 俺たちがようやく終わったところで、先生が呼び掛ける。


 これだ!


「次負けねえよ」


 太一が宣戦布告をしてくる。


 対して俺はもちろん、


「ああ、次俺が勝つ」


 クラス内の『スポーツが出来る人』、決定戦第2ラウンドだ!

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