その2-2 もう止まらなくなっちゃったよ!

 「……行っちゃった」


 あやちゃんは、顔を真っ赤にして美術室を出て行ってしまった。


「あらら、逃げられちゃった。彼女ちゃん」


「だから、そういうのじゃないですって」


 美術の先生、村椿先生の冗談を軽く受け流す。

 ……冗談だよな?


 それにしても、実は俺も、内心ドキドキだった。

 

 何しろ、あやちゃんの好感度メーターが隣でぐんぐん上がっていくのだから。

 メーターの数字が、それはもう回って回って、めちゃくちゃドキドキした。


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鈴木彩奈 好感度:49→56

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 ノーズさん、ご丁寧に上り幅までありがとうね。


≪いえ≫


 俺は目の前にパッと現れた記録に、感謝をする。


 そんな脳内会話をしていると、村椿先生がまた話を持ち掛けてくる。


「君もいきよねえ。女の子に顔の絵を書いてあげるなんて、そんな容姿してないと許されない案件よ」


「……え、そうなんですか?」


「そりゃそうでしょ。普通なら、結構ですってなるでしょ。最悪の場合、気持ち悪っってなるわ」


「うっ」


「君に言ってるわけじゃなくてね」


 なんとなーく口走ってしまっただけなのだが、そういうことらしい。


 そもそも前世までは、女の子と話した事すら無かったので、何が悪くて何が良いのかイマイチ分からない。


もっとも、この容姿になってからは割となんでも許されてる気がするけど。

 “顔”かあ……残念だけどその通りなのかな。


≪今は整ってるので良いでしょう≫


 おい! 「今は」ってなんだよ!


≪これは失礼≫


 まったく。


「で? もうちょい書いていくかしら?」


「そうですね。時間もまだありますし」


 そう言いつつも……ちらっ。


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村椿さおり 好感度:40

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 うーん、今日初めて顔を合わせたのにこの好感度。

 好感度は0(微塵みじんも興味なし)から始まるらしいので、これでもそれなりに高い。


 やっぱり、世の中“顔”なのか?


 その後は目一杯、美人の村椿先生と一対一の個人レッスンを受けた。

 ……そういう意味じゃないよ?







 夕食後、自室のベットでごろんと横になる。

 俺の頭を巡るのは、今日のあやちゃんだ。


「そういえば、今日のあやちゃんはいつもとちょっと違ったなあ……」


 放課後だけじゃない。

 思えば、今日のあやちゃんはどこか俺を探るようだった。


 放課後の美術室にしても、下駄箱を過ぎないといけないわけだしなあ。

 もしかして、後を付けられてたり?

 

「なわけないかー」


 ってか何か知ってる?


≪……さあ?≫


 はい、もう絶対知ってる時の反応です。

 先生怒らないから、素直に言ってみなさい。


≪悪いようにはなりませんよ≫


 そうなのかあ?

 まあ一応、ノーズが言うなら信頼するけどさあ。


 こういう時のノーズこいつ、教えてくれないし。


≪……てへっ≫

 

 くっ、俺の推し声優さんのボイスで頭に流すな!

 ずるじゃねえか!


あるじもずるしてるではありませんか。私を使って≫


 ま、まあな。

 分かった、ここはお互い矛を収めようじゃないか。


 って、話が逸れてしまった。


「俺は、明日からどんな風にあやちゃんに接すればいいんだ?」


 遥ちゃんに対しては、これからも「ただ仲良くしたい」という方向で接することにした。


 こう言っちゃ悪いかもだけど、遥ちゃんはほぼ俺に惚れてたわけで。

 多分、好感度がギリギリで80を超えなかったのはに彼女自身の問題だったのだろう。


「けど……」


 今回は少し話が違う。

 

 あやちゃんが帰って行った時点で、好感度は65。

 惚れてるという好感度にはまだ全然遠いが、親友ラインの50は超えている。


 このままいくと……自分で言うのも恥ずかしいが、多分惚れられる。

 それを意識すると妙にドキドキしてしまう。


 加えて、遥ちゃんとあやちゃんは大の親友。

 それが、一人の男を奪い合うって、ちょっとまずいんじゃないの、って思う。


「それでも、悪い様にはならないってか?」


≪はい≫


 本当だろうなあ。


 まあいい、分かったよ。

 俺は変わらず、好感度も気にし過ぎず(多分無理だけど)、あやちゃんとは普通に接してみるよ。


≪それで良いかと。おやすみなさい≫


「うい~。おやすみ」







 そして、次の日の朝。

 HR前の廊下で、よく見る後ろ姿をみつけた俺は、声を掛けた。


「おはよ」


「りゅ、龍虎くん……! お、おは、よう」


 今までは見た事のない、きょどったあやちゃんがいた。

 見た目のギャルっぽさからは、到底想像できない態度だ。


「な、なにか、あったの?」


「ううん。挨拶だけ」


「そ、そう。じゃあ、また」


「うん」


 そうして、あやちゃんが歩いて行くのを眺める。


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鈴木彩奈 好感度:60

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「……ふう」


 いや、普通に接するの無理じゃねー!?


 俺の脳内には、大きな声が響き渡った。

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