1の怪・追記 ある女性の手記と事の顛末
一月一日。晴れ。
今日から日記をつけることにしました。華は続けられるかななんて言ってましたが、頑張って続けます。
……でも、なにを書けばいいのかわかりません。
一月十日。晴れ。
日記をつけ始めて十日。そんなに毎日出来事があるわけではないので、もうすでに難しい。続けられるのか不安です。
一月二十七日。雪。
今日この御霊市に雪が降りました。雪だるまを作って写真を撮りましたが、昼間になると溶けてしまいました。少しだけ悲しいです。
二月四日。曇り。
今日はすごくいい天気で、由美や華と遊びに行きました。素敵な服があったのですが、お金がなくて買えなくて、とっても悔しかったです。
二月二十二日。曇り。
先日買えなかった服を買いに服屋へ行きました。でも、その服はもう売り切れてしまっていました。由美に笑われたのが、とても悔しいです。
新しくできたカフェに行って、イケメンな店員さんを見かけました。華は大騒ぎです。でもその帰り道、ブレスレットを落としてしまいました。本当に最悪。
三月一日。晴れ。
母さんが雛人形を出していました。健やかな成長、なんてもう遅いのに。私ももう二十が来てるのよ。
そんなことを言っても母さんは聞いてくれません。ちゃんと早く仕舞わなきゃね……失礼ね!!
三月三日。晴れ。
母さんにちらし寿司を作るのを手伝わされました。一時間くらいうちわで仰いだせいで手がクタクタ! 今日は湿布を張って寝なくちゃ!
三月十日。晴れ。
先月落としたブレスレットが見つかりました。もう諦めてたから本当にびっくり! 落としたカフェの店員さんが預かっててくれたそうです。本当にいい人で良かった! 今度は桜も連れて行こ!
三月十九日。雨。
桜や華とまたカフェに行きました。華がイケメン店員さんにどうにか連絡先を聞き出そうと四苦八苦しています。直接は聞けないから遠回しに言っていましたが、すっごく面白かった!
四月四日。雨。
華は今日もカフェに行こうと誘ってきます。コーヒーもスイーツも美味しいからいいけど……今度駅前の新しい服屋に着いてきてもらおっと。
四月十五日。晴れ。
そろそろ毎日書くことがなくなってきた。でもこんなに早くやめたら馬鹿にされちゃう。ちゃんと書こう。
四月二十四日。曇り。
華の猛アピールが実を結んで、月城さんの連絡先を手に入れることができました。華だけじゃなく、華に付き合わされて通っていた私達にも教えてくれました。迷惑じゃないかな……。庭のさくらんぼを半分くらい持っていこう。家にあっても量が多いし、なにかの役に立てばいい。
四月三十日。曇り。
月城さんから連絡が来て、週末遊びに行くことになりました。華や桜も一緒かなと思ったら、私とふたりだって……。どうしよう、でも断るのは……。
五月三日。晴れ。
月城さんから告白されちゃった……。華に知られたら大変、でも、彼のことは嫌いじゃないし嬉しいし……。保留にしてもらったけど、どうしよう。
五月十五日。曇り。
月城さんは御霊市の大学に通っているらしい。あそこはうちに近いしいろんな学科があるけど、服飾系はなかったから選ばなかった。でも、偶然出会えるなんて素敵だな。変わったサークルに所属しているって聞きました。オカルト研究会? だったかな。漫画みたいで面白い。
六月二十日。雨。
大変なことになった。月城さんとの関係が華にバレた。ずっと怪しいと思っていて、今日私の鞄からこの日記を見たらしい。ケータイはまだ見られてないけど、すごく怖い。日記を持ち歩くのはやめよう。
六月二十五日。雨。
華が学校に来ない。連絡も繋がらないらしい。大丈夫かな。
七月一日。雨。
父さん達と喧嘩した。私の進路なんだから口出ししないでほしい。もう口も効きたくないけど、実家暮らしだから仕方ない。月城さんの家に泊めてもらうのも迷惑がかかる。困った。
七月四日。晴れ。
華から連絡が来た。謝るよりも、心配するよりも先に「週末双葉の森キャンプ場に来て」と言って返事はない。電話も繋がらない、どうすればいい? 月城さんに聞いても、どうにもならない。連れて行くなんてもってのほか、私だけでどうにかしなきゃ。
大丈夫、キャンプ場は住宅街にも近いし休みの日には人もいる。どうせ家にはいたくないんだ。華に心を込めて謝って、ふたりでどこかへ遊びに行こう。
──────
あの合コンの日から半月。僕は
ここに来たのには理由がある。僕はやはり、あの日消え去った彼女が憐れでならないのだ。あの後、僕は必死になってこの双葉の森で起こった事件を調べた。
そして見つけ出した被害者、「
処理もせず放置されたため、すぐに見つかったらしい。白木さんの日記から、彼女へ恨みを持っていた間宮さんのことはすぐにわかった。そして彼女は二日後、大学付近の公園で首を吊っているのが発見された。自殺だった。
僕は献花台に添える花束と、
事件の詳細を知った僕は、愛用しているカメラを手に、市内にある白木さんの自宅へ向かった。古き良き一軒家、その表札には「売家」の文字。門越しに見える庭、沢山の実をつけたさくらんぼの木が生えていた。
そんな景色を覗いていたら、僕をジャーナリストか厄介な若者かと勘違いした近所のお年寄りが飛び出してきた。いくらなんでも幽霊の白木さんに会ったと言うわけにはいかない。適当な理由をつけて説明すると、向こうから様々なことを教えてくれた。
娘を亡くした白木夫妻は酷く塞ぎ込んでしまったという。なんでも事故の数日前、彼女の進路にまつわり大喧嘩をし、口も効いてなかったらしい。
彼女が亡くなってから五年経ち、ようやく前を向き出した矢先──ふたりは自動車事故に巻き込まれ、亡くなった。
白木さんはこの森の中で亡くなった。そしてその土地に溜まる念に絡み取られ、縛り付けられた。
帰りたい、あの願い。僕の耳には確かに聞こえた。盆は死者が帰る季節、どんなに迎えられても彼女は帰れないし、両親の死後彼女を迎える人もいなくなった。
きっと、寂しかっただろう。
僕みたいな、何も知らない人間に言われたくはないだろうが。
何もできない僕なんかに、言われたくはないだろうが。
憐れむなんておこがましいかもしれない。それでも、僕は見捨てられない。もうここに彼女はいないとしても、もう彼女は祓われていたとしても────
開ける森、古びた、小さな献花台。その上に置かれた、三つのものに視線が行く。こんなもの、あの夜にはなかった。
けして派手ではなく、それでいて地味ではない仏花の束。色鮮やかなマカロンやクッキーの入った箱。そして──彼女の家、その庭先でも見た……さくらんぼ。
思わず笑みが漏れる。なんだかんだと言いながら、
僕も花束を置く。そして──紙の封筒を置いた。
封筒の中身、それは現像された沢山の写真だ。彼女が帰りたいと願い続けた家、帰る場所。
手を合わせ、目を閉じる。彼女はもうここにいない。彼女が祓われる瞬間を僕はこの目で見た。それでも構わない。僕は祈る。
もし────向こう、天国と言うものがあるのなら。そこで貴女が、両親と仲直りできますように。
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