5の怪・追記 ある夫婦との歓談と繋がる過去
ああ久しぶり。元気かな? 私達? 元気かと言われると……うーん、答えにくいけど……。まあ、まともにやっているとも。
色々あるけど、頑張って自分を保てている。心配はいらないよ。もし何かあったら……君に祓ってもらうことになるけれどね。
私達はあのふたりをたまにしか見れないから、心配はしているの。あの子はうまくやれてる?
暁星君の気持ちはわかるとも。君が私達を見逃してくれているだけでも嬉しいよ。暁星君からしたら信じられないだろうしね。
彼は優しいから、強い言葉で自分に言い聞かせている。優しい怪異なんて、人を理解する怪異なんて、いるはずがないと。
正確には私達は怪異には至っていないけれどね。この未練を残した残留思念……「人の思い」、それらが正しいものである限り、噂によって汚されない限り、自発的に歪むことはないわ。
……霊や怪異の出現する場所、吹き溜まりの場所。残留思念や人の思いがこびりついた場所。
その場所には、そこにまつわる噂が湧き、少しずつ形ができる。このとき、あまりに噂が拡散された場合そこでも出現するが……。
ふとしたきっかけ──事件や事故、強い念が作用し、噂は完全な形となる。人の思いは噂によって捻じ曲げられ、噂に適するように姿を変えられる。それが怪異。残留思念が怪異に変わるという暁星君の言い分はなんら間違っていないさ。
私達が例外中の例外だもの。私達を基準で見てはいけないわ。
……彼、新しいお友達。
結城君は優しい子だね。寂しい墓場で、取り憑くとしたら確かに彼だろうさ。彼のような子に取り憑いていたおかげで、あの夫婦はなんとか消えずに済んだ。死後十五年も経って、娘と再会することができた。
……この家で結城君が見た夢? ええ、そう。私達が手を貸したのよ。余計に怖がらせちゃったかしら?
私達はまだ余力があったから。少しだけあの子から離れて、ご夫婦に力を貸したの。結城君の記憶に、
怪異化には至らないにせよ、願いが叶わず消えてしまうのはあまりにむごいさ。余計なことをしてしまったかな? ……そう、ならよかった。
あそこまで干渉するのは、これが最後になるかしら。私達だってもう、この状態になって十年は経つもの……。いずれ、私達もあの夫婦のように、消えてしまう日が来るわ。君と話せるのも、もうあと何回か……。
悲しいね。
悲しいわ。
もう暁星君の霊感では察知されないほど、弱ってしまったからね……。その分、堂々とあの子の周りに張り付いていられるんだけど。
暁星君が察知できるくらいの頃は、よく御札貼られそうになったものね。
そうだったそうだった。中学生くらいの頃は凄かったね。私達もあの子から離れるしかなかった。
……消え去るその日まで、私達は怪異になんてならないようにするとも。私達は、あの子を、君達を見守り続けるとも。
だから
きっと伝えても信じないと思うから、黙っていてね。あの子はどうやったって、私達に気づくことはできない。そんな子に、「お前の両親は側にいる」なんて言っても、気休めにもならないから。
色々と面倒くさいし、付き合いづらい子だとは、親から見ても思う。それでも──どうか、
──────
ブルーライトの明かりが俺の目を焼く。数時間にも及んだネットサーフィンの結果、俺はひとつのスレッドへたどり着いた。当初はユースケクンが被害を受け始めた
──変なブログを貼っていくスレ。
それは集まった人々が、奇妙な内容や不思議な体験が書かれたブログを紹介していく、というスレッドだった。その中のひとつ、リンク切れだったためか貼られたスクリーンショットの内容に、俺の目は釘付けになる。
「匿名Hの毎日ブログ……」
それは、普通の「女子」! といった感じの女大生の日常が綴られたブログだった。内容は日々の出来事だったり、愚痴だったり、ごくごく普通だ。それらがどんどんスレッド内にぶら下げられていく。
前半はスレッドに集まった人達も、「早く怖いところだけやれ」「スクロール不快」「これどこが不気味なんだよ」と不満が爆発。だが、後半から彼らの期待に答えるように内容が怪しくなる。
Yという友人──本人曰く「一緒にいただけ」──の悪口や逆恨みがどんどんと増えだす。明らかに偶然だろう出来事に、真似をされたと憤慨している。
女子怖〜、そう思った矢先に流れが変わった。イケメン店員に惚れ込み、アピールが実を結んだという惚気に変化。何が怪しいのかと思ったら、後半に上がった二つのスクリーンショット、それを見て凍りついた。
五月十六日 「意味不明」
待って待って待って、無理、え? なんで?
なんか、Yとイケメン店員さんが一緒にいたんだけど、は? え? なんで?? ウソ、え、アイツ待って。
落ち着け落ち着け……スー(深呼吸)
……は?? ふざけんなまじでふざけんな。
偶然?? だとしても、え、無理なんだけど。
六月二十日 (無題)
許さない。なんでずっと真似するの? 意味分かんない。
最初は向こうが可哀相な子だから声かけてあげたのに。なんで恩を仇で返すの? 最低。
私が先に目をつけてたのに! 私が先に声をかけたのに! 私が先に動いたのに!!
最悪、最低、気持ち悪い。死ねばいい、死んでほしい。
家族にも恵まれて、私の欲しい物全部横からかっさらって、なにがしたいの? じゃあ私が全部盗ってもいいよね? 月城さんを返して。
白木優里奈、絶対許さない。
「
白木優里奈の名前、その名で何度も検索は繰り返したが、この記事には辿り着けなかった。当たり前だ、そのブログはリンクが切れ閉鎖されている。ここに上がっているのもスクリーンショット、画像だ。
スレッド内はなんだコレ、という疑問とこれもしかして、という推測で溢れかえる。貼られた事件記事のリンク、一気に
え、これガチじゃん。
怖、犯人のブログってこと??
これ男が悪くね? HにちょっかいかけておいてYが本命だったんだしょ?
女怖〜。
どんな経緯でこれ見つけたんだよ。
好き放題言う彼らに対し、再び投下されたスクリーンショット。貼った人物曰く、「たまたま色んなブログ見てたら見つけた。これは事件の直前に書かれて、一晩で消された記事。やばいと思ってスクショは残した」とのこと。
貼られた画像、その内容、俺は恐る恐る視線を落とす。
六月二十八日 (無題)
父さんに会いに行った。何日も大学に行ってないし、家にも連絡していない。母さんやユミ、そしてあの憎たらしいYから色んなメッセージが来る。Y、許せない。何を白々しく「話を聞いて」? 死んでしまえ。
父さんは二年前に事件を起こして捕まってる。私と歳の変わらない女の子をつけ回して、殺したらしい。どうしょうもないクズだと思っていたから、今まで会いに行こうなんても思わなかった。でも、今は会わなきゃいけない気がした。
逮捕されたときは化け物みたいだった父さんだけど、今はだいぶ落ち着いたらしい。私を見てぐったりしてた。
なんで殺したのか、私は聞いた。気になったから。どんな気持ちで父さんは好きになった子を殺したの? 父さんは一言、「わからない」。なんの参考にもならなかった。
だから聞いた。好きな人が大嫌いな奴に取られた、どうしたらいい? 父さんはじっと、私を見て言った。取り返さなきゃって。
そうだ、取り返さなきゃ。取り返さないと、あの女から、あの人を。
女大生をつけ回して、殺した、当時服役中の父親。まさか、まさか。
「────繋がった」
二十二年前、当時交際相手がいた女大生
二十年前、好きだった男を奪われた腹いせに、友人だった
ふたりは親子だった。被害者が女大生という以外なんの繋がりもなかった事件が、加害者という点で結ばれた。
だがそれがなんだ? 何になる? 結局ユースケクンの悪夢が始まったきっかけとは何も────。
「……オカルト研究会?」
貼られたスクリーンショットを読み返す。間宮華が惚れ込んだイケメン店員さん、彼との会話の中で出てきた言葉を振り返る。
────元処刑場のキャンプ場の話とか、店員さんの大学にある呪いのロッカーと幽霊の話とか!
身に覚えがある、というか、身近で聞いた話。
オカルト研究会、次に調べるテーマは決まった。俺はキーボードを叩き、大きく伸びをする。
三人寄らばバカの知恵〜怪異が出たならお呼び怪?〜 夏野YOU霊 @OBAKE_summer
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。三人寄らばバカの知恵〜怪異が出たならお呼び怪?〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます