4-3 バカと泊まりとアパートの怪
「へぇー、ここが例の……」
どうも! 俺ら「スペシャリスト」こと「左右コンビ」、
「二階の二番目の部屋だ。しゃんしゃん行け」
「
本日はなんと俺達だけでなく、魁さんもご同行。たまんないね! 俺らは喜さん達三人に、返しきれない借りがある。まぁそれだけじゃなくて人間的にも慕っているけどね。
「俺は眠い」
「先に寝ないでくださいよ……?」
「とっとと入るぞ」
「うえ〜ん……」
「魁さんを困らせるな、右太郎」
まあこの時間である程度把握できた。
このアパート「
周辺には先程も述べたように裏山、標高はさほど。あまり手が加わっておらず、わりと荒れ放題。
部屋の中、玄関に靴はあまり無い。ふーむ、靴は拘らない派か。玄関上がって右手に扉、開けて中を見れば洗面所兼脱衣所。トイレへの扉もある。なるほど?
奥を見れば六畳間への引き戸。その手前、左側の壁。のれんがかかった奥はキッチン。掃除がきちんとされている。キッチンだけに? はいはい恥ずかしい。
さてこれでユースケクンとやらの使ってるシャンプー・リンス、ボディーソープの銘柄は判明。キッチン家具の統一からしてよく通う商業施設も把握した。
「ここが例の部屋ですか……」
「結城曰く夢で見る部屋は違うらしいがな」
そんなこんなで奥の六畳間に入る。目に入るのは、カーテンがかかった大窓。奥のベランダへ繋がる窓だ。畳まれた布団、部屋の隅に置かれた三段のカラーボックス。小物や本が積み重なったこたつ机、座椅子。平凡な部屋だ。
「さてさて家探しと行きますか!」
「やめろ右太郎」
なんでだ!? 人の家に来たらまずえっちな本探しだろ!? そう訴える俺の頭を相棒と魁さんが引っ叩く。冗談だってのに……。
「黙れネットストーカー」
「今はその場合じゃないだろ」
「まっじめぇ〜。はいはい調べますよっと」
魁さんが床に寝袋を並べ、その上に座る。持ってきた鞄から参考書を取りだして眺め始めた。俺と相棒も座り込み、それぞれノートパソコンを取り出す。
背中に丸めた寝袋を挟み、膝を曲げて座る。背中がずり落ちた形だ。腹と太ももの角にノートパソコンを設置し、角度を整える。相棒は座椅子を借りて机に向かった。
今回任されたのは怪異の調査。夢を見せるという怪異が、ユースケクンに憑いてるのかこの家に憑いているのか、それを見極めるのが今回の仕事。そのための魁さんだ。
今回の怪異が家に憑いていた場合、ここで眠れば夢を見る。奴の領域に取り込まれる。俺と相棒は霊感があるので、被害を受ける可能性があった。
そこで魁さん。
「怪異なんていねえ」
「はいはーい、いないいない!」
「何だその態度……」
お決まりの言葉で文句を言う魁さんをたしなめると、思いっきり背中を蹴られた。痛い。そんな俺を相棒は笑いながら指さしてくる。さて、そろそろ真面目にやるか。
「左吉、この近辺の施設、事件、行方不明者を頼む」
「任せろ。お前は?」
「俺はこのアパートの過去住民と、アパート関連の噂を探すよ」
「情報共有は?」
「一時間後」
「了解」
俺は被っていた帽子のつばを少しだけ持ち上げた。時刻は夜の十時、小一時間である程度情報をさらっておきたい。
すでに使える記事はブクマ済、ここに来る前に目星をつけたサイトを見て回るだけだ。
さあ、いっちょやりますか!
──────
「完了」
「あっクッソ〜負けた! 完了!!」
約一時間後、正確には五十六分後、俺達はそれぞれキーボードを叩き終えていた。左吉に負けた〜悔しい。
「やっぱりキモいなお前ら」
「ひでぇ!!」
参考書から顔を上げた魁さんがうんざりした顔で言う。俺らの特技に対してなんて言い草だ!
「じゃあ俺から。明日メールで
そう前振りをして、相棒はパソコンの画面を見せてくれた。わざわざPDFをファイル作成したらしい。
「この近辺にあるめぼしい施設は、スーパーマーケット、郵便局、コンビニ、ガソリンスタンド、そんなものです。おそらくこれが当たりだと思うんですが、このアパートの裏山の中に、小規模ですが霊園があるらしいです。それ以外は特筆することはありませんね」
霊園、なるほど? まあ俺はそんなの開始三十秒で目をつけていたが。左吉はスクロールしながら説明を続ける。
「直近二十年の事件を漁りました。そしたらビンゴ。二十二年前、このアパートと同じ土地、ここができる前に人が死んでます」
見せてきたのは一枚の新聞記事、よくもまあ画像が残っていたものだ。
「ストーカー殺人……その頃はまだストーカーなんて言う呼び名も浸透してませんでしたね。犯人はかつてここに建っていた一軒家に住んでいた女大生を付け回し、殺した……夜、窓から室内に侵入したらしいです」
ユースケクンから聞いた夢の内容を思い出す。夜の部屋、窓を叩く手、お邪魔しますの挨拶……完全ビンゴ。
「それから考えるに、おそらく怪異は結城令助さんではなく、この家に憑いているかと。それにしても、彼がここに住みだしたのは一年近く前らしいってのが気になりますがね……何故二週間前から見始めるようになったのか」
ふむふむ、俺はわざとらしく考え込む素振りを見せた。顎に手を当て思案するふり。
「……馬鹿にしてるのか右太郎」
「えぇ〜? してないけどな〜相棒ひどいぜ〜」
長い前髪の下で口を尖らせる相棒をたしなめ、俺の番だ。
「さーて、ざっと過去二十年このアパートにいた住民を漁ったんすけどね、あんまりめぼしいものは見当たりませんでした! でもその住人らしき人らの書き込みで、気になるもんは見つけましたよ〜?」
見せる画面、ネット掲示板に掲載されたスレッドの一部だ。ふたりが訝しげな目でタイトルを読み上げた。
「変な夢を見るんだが……?」
「これ、本物か?」
「本物かと。このスレ主がしてる他の書き込みも漁りましたが、御霊市の住民だったんで」
それは十二年前に立てられたスレッドだ。男が変な夢を見るという相談を、スレッド内の人々にしている。結果として釣りだなんだと叩かれていたが、その中である事件について触れられていた。
「その事件ってのが……相棒が見つけた女性の殺人事件ってわけよう」
そこで魁さんが口をとがらせた。顎に当てた手を滑らせ、頬を触る。
「だが、おかしくねえか? ……殺された女性がこの場所に──このアパートができる前の土地に住んでいたんだろう? わけもわからず、怯えながら殺された側が……見ず知らずの奴をビビらせるか?」
彼の言葉も頷ける。だがそれ以上にまずいこと、俺は様々なスレッドのスクリーンショットを見せた。
「……同じような書き込みや他サイトへの相談は、いくつもあったんすよ。そんでもってそのどれもが……
噂百パーセントの
噂と事実五十パーセント同士の
噂は怪異を作る原因にもなるが、その噂が歪んで崩れることにより、弱体化の要因にもなる。噂に助けられることもある。
──だが、
「今回は実像型……原因と思われる事件は見つかれど、不明点が多数……。ちと、まずいかもっすね」
実像型は突く隙が無い。とにかく調べ、対策を練り、なんとかするしかない。
「……ちょっと見せろ」
「はいはい」
魁さんの催促に、俺は大人しくパソコンを渡す。彼は俺が取ったスクリーンショットを眺めていた。魁さんは、口では怪異なんて信じないと言いつつ、なんだかんだ手伝ってはくれるし理解は示している。素直じゃない人なんだから〜。にやける俺を左吉が凄い顔で見ていた。
「……事件は二十二年前、このスレッドが立てられたのは十二年前、それ以前はねぇ」
いいところに気がついた。俺は頷く。
「何故このタイミングだ? それ以降はわりと高頻度で同じような話が上がっている。それなのに、二十二二年前から十二年前までの十年間、奇妙に間が空いている」
「そこなんすよね……そもそも、今回の夢も変なんすよ」
俺の言葉に、次は相棒が頷く番だった。
「ああ。被害者が怪異になったとしても、虚実型がいいところだ。それこそ以前のキャンプ場みたいに。事件前、この土地に何かしらの噂は一切なかったし、殺された側がそんなに怨念を持つわけもない」
そう言って相棒はキーボードを叩き始める。様々な情報をまとめた資料を作っているのだろう。後で俺も手伝う。
「ひとまず、寝てみなきゃわかんねえっすね。相手が何者なのか、何が目的なのか……それを探んねぇと」
拍子を打ち、俺はパソコンを閉じた。実物を見ればもっと深く切り込める。そのためにも、一度寝て会ってみようではないか。アパートに憑いているのなら会えるはずだ。魁さんも側にいるし、ユースケクンと同じくらいの被害で住むだろう。多少不眠になろうが俺は構わないしね。大学行ってないし。
「そうだな……寝るか」
魁さんは参考書を置き、さっさと寝袋へ潜り込んだ。相棒はまだ資料をまとめるらしい。俺もクッション代わりにしていた寝袋を広げた。
「俺はまだもう少し起きてます」
「ん、俺も〜」
ブルーライトの光が室内を照らす。それに目を細めながら「眩しいぞ」と魁さんが俺を蹴った。
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