第30話 追跡と対決

日本国、東京都港区 汐留駅近辺

ワトソン重工の日本支社ビル内・入り口大ホール

2025年3月某日 午前11時28分頃


弥生は炎の剣と化した日本刀で突如現れた、容赦なく襲ってくる屍(アンデッド)の大群を素早く切っていた。

屍(アンデッド)の大群の中、明らかに異質な存在も混じっているのを彼女はすぐに気づいた。


数十人の喰種(グール)と呼ばれている出来損ない種だった。


屍(アンデッド)のような灰色の肌と虚ろな目は同じだが、裂けた口からぬるぬるとしたおぞましい触手(テンタクル)牙(ファング)を出していた。


「大変なことになった。」


弥生がつぶやいた。


その時だった、森警視監、ヘルムート、ミナ、新一とマモールデが弥生と並んで、壁から湧いてくる大群を切り始めた。信長の特殊部隊の隊員も加勢していた。


「弥生、我が姪よ、裏切り者の首を取りに行け、ここは我々が対処する!!」


信長の声はホール全体に響いた。


弥生は振り向いた、主(マスター)の信長、元牙(ファング)小隊(プラトーン)の副官補佐、チェチェン人戦士のゼンフィラととも、大群を切りさばいていた。


「はい、我が主(マスター)。」


弥生は返事した。


彼女はジャンプし、先ほど小島たちが逃げた隠し扉に入っていった。


隠し扉に入ってすぐ、長い廊下があった、その奥にエレベーター3台が見えた。


急いでそちらに向かい、3台のうち、真ん中のエレベーターが最上階に向かっていた、左と右はまだそこにあった。弥生は右のエレベーターを選び、中に入って、最上階のボタンを押した。


田森の残り物を抱えたまま、最上階に着いた小島は、すぐにヘリポート行きの階段へ登り始めた。


右のエレベーターが上に向かっているのを見て、黒岩弥生が自分たちを追いかけてきていることをすぐに理解した。


「流石日本系統一戦闘のプロだね。」


笑顔でつぶやいた。


小島が抱えていた田森の頭が意識を取り戻した。


「どうなっているのか?小島さんよ?」


田森は弱くつぶやいた。


「先生、黙っていてください、今救出中です。」


小島が答えた。


「我が主(マスター)となったのか?」


と再度声をかけた。


「はい。主(マスター)です。それが最初からワトソン重工の狙い。」


小島が打ち明けた。


「我を?」


「はい。あの外道に代わる、完全制御可能な主(マスター)に。」


「制御可能とは?」


驚いた声で田森が質問した。


「ワトソン重工の意のままに動くパペットです。」


蠟人形の笑顔で小島が答えた。


田森が目を開き、何か言おうとしたが、小島は素早くズボンから取り出した注射器を田森の眉間に刺した。田森の残り物が再び意識を失った。


「眠っていてくださいよ。自我があるうちに。」


と皮肉を込めてつぶやいた。


小島が最後のドアを開けて、屋上に着いた。ヘリポートのところにいるグレイ監査官を見た。


それから猛スピードでヘリコプターの前に着いた。


「遅いぞ、小島。」


クレイ監査官が彼をヘリコプターに乗せると同時に話した。


「少々戦いが長引いたもので。」


小島が答えた。


弥生が屋上に着いたのはちょうど小島がヘリコプターに乗っている時だった。


彼女は凄まじい速さでヘリコプターの前に立ち、炎の日本刀を構えた。


「裏切り者を置いておけ。」


彼女は怒鳴った。


ヘリコプターのエンジンの爆音でもはっきりと聞こえるほど。


グレイ監査官が持っていた仕込み杖を抜いて、彼女の前に立った。


「初めまして、黒岩弥生理事官。私はワトソン重工のドリアン・グレイ監査官。」


笑顔で自己紹介した。


「どけ。裏切り者を逃がすわけにはいかない。」


真剣な表情で弥生が言った。


「渡すわけにはいかないですよ。」


とグレイ。


「邪魔したら切る。」


と弥生。


「切ってみたらどうですか?」


グレイが挑発した。


弥生は無言で剣をグレイに向けて、切りかかった。


彼の細い仕込み杖の刃、弥生の剣を受け止めた。


「邪魔するな、グレイ。」


「会社の利益がかかっているので。」


弥生とグレイの刃同士がぶつかり、両者は互角に渡り合った。


「あなたは何者?人間ではないな。」


刃をぶつかりながら、弥生が聞いた。


「私はドリアン・グレイ、それ以上でもなく、それ以下でもない。」


「吸血鬼でもないな。」


「まさか。吸血鬼より強いけど。」


グレイは笑顔で答えた。


その一瞬、弥生は素早く、グレイの仕込み杖の刃を折り、彼の頭を刎ねた。


倒れている彼を後にし、ヘリコプターに乗っている小島に向けて怒鳴った。


「小島、降りろ、裏切り者を置いていけ。」


と弥生が小島に迫った。


「何勝手に先に進んでいるんだよ。」


と弥生の後ろからグレイの声が聞こえた。


弥生は後ろへ振り向き、グレイの両手が刎ねた頭を掴み、首の上に置いた。


切り傷はすぐに塞がり、頭と首は結合した。


「そんな。」


と弥生。


「今度は私の番、お嬢さん。」


グレイは笑った。


グレイは素早く彼女の頭を掴み、膝で顔に蹴りを入れた。


後ろへ倒れた彼女の上に乗り、日本刀を握っていた手を殴り、落とさせ、彼女の顔と胸を殴り始めた。


「私は君たちより強い。よく理解しろ、野蛮人なお嬢さん。」


彼女に暇を与えず、殴り続けた。


「私は不死者だよ、不・死・者、よく理解しろ、お嬢さん。」


弥生は殴られながら、怒りが頂点に達したと感じた。彼女の目が赤く光った。


グレイは彼女を殴りながら笑っていたが、急に弥生が彼の両腕を掴み、一瞬で折った。


それから立ち上がり、グレイの頭を掴み、もぎ取った。


取った頭を牙で噛み、顔の皮膚を剥がした。剥がした皮膚を床に吐き出した。


右腕を嚙み切って、左腕を複数回折りたたんだ。胴体を右手で貫き、心臓を掴み、手でつぶした。


「舐めるなガキ。」


軽蔑の籠った声でバラバラとなったグレイを見た。


バラバラとなったグレイの体は彼女の前で急速に再生し始めた。


顔のないグレイの頭から声が聞こえた。


「何をされても、私は死ぬことはない、理解しろ、お嬢さん。」


弥生はこの手の存在と戦うのは初めてだったが、不思議と怖くなかった。


数秒でグレイは再生されて、彼女の前に立った。


「第2ラウンドだ、吸血鬼のお嬢さん。」


とグレイ。


「再生追いつかないほど、バラバラにしてやる、不死者グレイ。」


その時、弥生を後ろから小島が日本刀で刺した。


「自分の刀で滅ぼされるのはどんな気分?」


笑顔で小島が言い、弥生の倒れていく体を蹴った。


彼女の体は軽く燃え始めた。


「これから面白くなるところだったのに。」


とグレイ。


「急がせてたのはあなたでしょう、グレイ監査官。」


と小島。


「そうか。急いで本社へ戻ろう。」


とグレイが付け加えた。


2人がヘリコプターに乗り、それからヘリコプターが離陸し、羽田空港に向けて空を飛んで行った。


そこでタウレッド王国政府のチャーター機が待っていた。


数10秒後、弥生はゆっくりと立ち上がった、体が少し燃えてたが、幸い刺された時に急所を一瞬の判断でずらして、滅ぼされずに済んだ。だが今、怪我していた彼女には血が必要だった。


「田森、小島、グレイ、絶対狩ってやる。」


と静かな怒りを感じながら、弥生がつぶやいた。




同時、ビルの入口ホール


信長は周りをゆっくり見ていた。

数百人の屍(アンデット)の大群が外へ出ようとしていた。


新一、ヘルムート、森成利、ゼンフィラ、ミナ、マモールデと生き残った特殊部隊の隊員が必死にその大群の進行を止めようとしていた。


生き残ってたワトソン重工の転化人(インヒューマン)一般戦闘員はほとんど戦う意思を失ったし、大群を怖がり、一部も噛まれて、滅ぼされていた。手慣れの牙(ファング)小隊(プラトーン)の隊員は隊長の小島同様、入口ホールから既に脱出していた。


「全員敵味方関係なく、今すぐ私の後ろに立ってろ!早く!!」


と叫んだ。


急いで全員、信長の後ろに立った。


「全員、目をつぶれ。」


信長は命じた。


全員は目をつぶった。


屍(アンデット)の感染爆発を止めなければならない、日本のため、世界のため。


信長は主(マスター)である自分が持っている独自の究極(アルティメット)能力(スキル)を使用しなかればならないと思った。


【劫火(ディストラクション)発動!!】


大きな声で叫んだ。


信長の体全体から激しい炎が発射され、入口ホールを埋め尽くした屍(アンデット)と喰種(グール)の大群は灰も残らないほど焼き尽くされた。

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