第29話 初陣

日本国、東京都港区 汐留駅近辺

ワトソン重工の日本支社ビル内・入り口大ホール

2025年3月某日 午前11時15分頃から11時27分まで


黒岩弥生と田森元首相は強くぶつかり合っていた。

両者の日本刀がぶつかり合う音が入り口ホール全体に響いていた。

田森は刀を振り回しながら、触手(テンタクル)牙(ファング)で弥生を攻撃していた。


「女の分際で俺に楯突くことは絶対に許さん!!」


声(テレパス)で威嚇した。


「女、女って、ずっと繰り返して喚くお前みたいな傲慢で誇大妄想癖な男はそんなにえらいのか?」


弥生は挑発した。


「黙れ女!!小娘のくせに俺を邪魔するな!!」


怒り狂った田森は声(テレパス)で怒鳴った。


「小娘?私はお前よりずっと年上だよ、悪童め!!」


笑いながら、弥生は更に挑発した。


田森の怒りは頂点に達していた。自分はどれだけこの国のために犠牲を払い、汗を流し、世界の覇権国家にするための努力を一日も怠らなかった。


巨大な日本帝国、強力な日本の影響圏をずっと夢見ていた。原爆を落とされ、戦争に負けた国のままにしたくなかった。英霊たちの野望と願いを叶えるのは自分の使命であると選挙で初当選した時から心に誓っていた。


「異人の血混じりの小娘が男に対して偉そうにほざくな!!」


再度弥生を強く罵った。


弥生はもう答えなかった。この異常な男を葬るために全身全霊で集中することにした。


「やっと黙ったか、汚れた女!!」


田森は嬉しそうに挑発した。


「どうした?俺が怖いか?そうだろうな、俺は今、我が主(マスター)の寵愛を受けて、無敵の力を手に入れたからな。震えるがよい、か弱い女よ!!」


田森は更に追い打ちをかけた。


その時だった、田森の目の前に居た弥生は消えた。田森は驚いたが、気が付いたら、触手(テンタクル)牙(ファング)2本と日本刀を握っていた両腕、切り落とされていた。


田森は強い痛みと恐怖に襲われた。


「女!!何をした?」


と田森。


弥生はまた目の前に現れた、日本刀を構えながら、無言のままで田森を睨んだ。


「答えろ女!!」


弥生は日本刀を鞘に収め、未だに一度も負けを知らない、本来、子相伝と門外不出古の格闘術の構えをしてから、自分の強烈な戦いのオーラを全開に解放した。


田森は怯んだ、こんな小娘に何故そんなことができるのか恐ろしかった。


「その構えは?」


恐怖を感じながら田森は弥生に質問した。


弥生はただ微笑んだ。


次の瞬間、弥生は田森の残った1本の触手(テンタクル)牙(ファング)を素手で引き抜き、口を血の海にした後、驚いている元首相の脇腹に拳を当て、全身のパワーを一気に相手に叩き込んだ。


当てられたところが陥没し、元首相は衝撃で倒れた。


「こんな小娘に。」


苦しみながら田森はつぶやくだけで手いっぱいだった。


最初に切られた腕と2本の触手(テンタクル)牙(ファング)が急速再生されたが、受けた衝撃で立ち上がるのがやっとだった。


弥生は距離を取って、構えたままだった。


「女!!許さん!!」


と毒を吐いた。


田森は落ちていた自分の日本刀を拾い、示現流の構えをしながら、触手(テンタクル)牙(ファング)を口に収納し、人間(ウォーム)の目には絶対に追えない速さで攻撃しかけてきた。


「チェスト!!」


と地声で叫びながら、刀を振り下ろした。


弥生は両手で白刃取りで受け止めると同時、田森の股間に素早い前蹴りを打った。


田森はまた凄まじい痛みを感じ、悲鳴を上げた。その隙に弥生は田森の刃を手で折った。


「女、貴様、必ず殺してやる!!」


痛みに耐えながら、田森は弥生を罵った。


地面に膝が付いてた田森の顎に弥生の膝蹴りがさく裂し、体ごと強烈に後ろへ飛ばされた。


田森は仰向けに倒れ、入り口ホールの天井を見ていた。


地面に倒れているところに弥生が飛んで行き、田森の腹部を思い切り踏んだ。田森は口から血とともに触手(テンタクル)牙(ファング)3本を出し、弥生を攻撃した。


弥生は両手で2本を止め、もう1本に足蹴りを入れた。掴んだ2本を強く引っ張り、根元から引き抜いた。残った1本を自由になった手で捕まえ、口に持っていき、4本の上下の牙で噛み切った。


残った部分もまた手で引っ張り、田森の口から血が溢れ出した。


弥生はマウントポジションを取り、田森の顔に拳を連打した。


田森の顔が腫れて膨れ上がった。それを見た弥生は連打するのを止めて、怪我が急速治癒されるのを待った。


田森は右手で弥生を殴ろうとしたが、逆に腕を折られた。


左手は肘から下、弥生に力任せにちぎられ、田森は痛みで叫んだ。


顔の腫れは引き始めたところでまた弥生が拳の連打を田森に浴びせた。


田森は強烈な痛みを感じながら、泣き出した。


こんなはずじゃなかった。信長の子飼いの混血女に自分がやられるとは信じられなかった。


急速再生能力と治癒能力は仇となり、回復しそうになった時に、弥生また凄まじい速さと激しさで田森の体を壊した。


「止めろ、止めてくれ、女!!」


弱い声(テレパス)で弥生に話した。


弥生は攻撃を止めず、逆に激しさが増した。


「止めてくれ、お願いだ。」


田森は悲願した。


その時だった、田森は頭の中に感じていた軽い不快感、主(マスター)による干渉と小島から聞いていたが、突然消えた。田森はまさかと思った、自分が連れてきた主(マスター)は何者かの手により滅ぼされていた。元首相は自分の壮大な計画が崩れ落ちるのを感じた。


あの南米出身の主(マスター)は全ての要だった。ワトソン重工の協力があっても、あの力がなければ、強力な軍隊を作り上げることは不可能と田森は考えていた。


絶望を感じていると頭の中に激痛が走った。殴られている激痛ではなく、別の原因の激痛だった。


激痛の後、一気に頭の中に複数の思考を感じられることになった。その複数の思考も識別できた、小島が単純なことを考えているのはわかった。そこにいるワトソン重工の戦闘員全員分の意識を自分の頭の中に感じた。田森は気付いた。思考以外、中からみなぎってくる絶大な力も感じた。


田森は声(テレパス)で叫んだ。


「我が主(マスター)だ!!」


自分の上にマウントポジションが取っている弥生の顔を再生された右手で素早く殴り、思い切り後ろへ飛ばした。


飛ばされた彼女の鼻は折られたが、すぐに治癒力で元に戻った。


「女!!後悔するがよい!!我は新しい日本の主(マスター)だ!!覚悟しろ!!」


田森は立ち上がった、そして体が宙に浮き始めた。


弥生は彼を冷たい目で見ていた。


「震えるがよい、異人の汚れた血を引き継いだ女、我は容赦せん!!」


田森の口が裂け、8本の強力な触手(テンタクル)牙(ファング)を出した。


宙に浮きながら、弥生のところに田森が近づいた。


「女!死ぬがよい!!」


と嬉しそうに声(テレパス)で叫んだ。


弥生は相変わらず、田森を冷たい目で見ていた。


「恐怖を感じるがよい、女!!お前を殺すが、その前にお前の体で楽しむ!!」


と下品な顔の表情を見せてから、触手(テンタクル)牙(ファング)、全本を弥生目掛けに延ばし始めた。


弥生は日本刀を抜き、構えた。


彼女は信長の系統の独自な能力(スキル)、【業火(ヘルファイヤー)】を発動した。


弥生はまた田森の視界から消えた。


田森の触手(テンタクル)牙(ファング)を一瞬のうち、炎の剣で素早く焼き切った。


下品な表情していた田森の顔、苦痛の顔に変わった。


「女!!」


怒り狂った田森が声(テレパス)で叫んだ。


弥生は更に別の能力(スキル)を発動した。


右手を上げ、田森の頭を銃で狙っているかのように人差し指を向けた。


信長の系統中で弥生だけ持っていた個人の能力(スキル)、【銃砲(たねがしま)】だった。


光の弾丸は指から発砲され、田森の左目から上に当たり、その部分をえぐり取った。


田森また激痛に襲われて、叫んだ。


「女!!許さん!!!」


急速再生能力で触手(テンタクル)牙(ファング)がまた生えた、そしてまた弥生を攻撃した。


能力(スキル)全開で戦っている弥生にとって、主(マスター)となった田森の攻撃パターンは単純で、幼稚なものに見えた。


弥生は田森の単純攻撃をかわし、口から出ている彼の触手(テンタクル)牙(ファング)8本うちの5本を切り落とした。


光の弾丸で飛ばした目左上の頭はゆっくりと再生されていた。


田森は頭の一部を飛ばされたことにより、強い痛みと激しい怒りを感じていた。


宙に浮いていた系統の新しい主(マスター)は弥生に対して強い憎しみと怒りに侵されていた。


弥生は大きくジャンプし、田森を炎の剣で切ろうとしたが、左わき腹を拳で殴られ、飛ばされた。


彼女は複数の肋骨が折られたのを感じた。弥生の表情が激痛で歪んだ。


「今更、いくら泣いても許さんぞ、女よ、お前の死体で楽しむとしょう。」


と気味の悪い笑顔で田森は彼女を脅した。


弥生の再生治癒力はゆっくりと折れた骨を治していた。彼女は迫りに来る宙に浮いている気持ち悪い男を睨んだ。


「そんな目で我を見ると余計にお前の死体を侮辱したくなる。覚悟しろ、女よ。」


弥生はゆっくりと構え、軽蔑な目で怪物(モンスター)と化した元首相を見た。


「女が男に楯突くのは許さん!!女は男の所有物だ!!」


歪んだ笑顔で田森が言い放った。


弥生には光の弾丸を撃つ力は残ってなかったが、まだ炎の剣を握っていた。


彼女は田森を切ることに集中し、彼が攻撃を仕掛けてくるのを待っていた。


「異人の血が混じった女!!死ね!!そして死んだ後、我のものになれ!!」


気味の悪い、恐ろしい笑顔で弥生を襲った。


田森が新しく再生された触手(テンタクル)牙(ファング)を彼女に向けて、伸ばした。


彼女の血を全部抜き、残った体を犯し、最後にその肉を食らうことを田森が嬉しそうに想像した。


弥生は恐ろしい速さで田森の視界から消え、一瞬で薄汚い触手(テンタクル)牙(ファング)を切った後、大きなジャンプした。


炎の剣と化した彼女の日本刀は田森の首元を右から斜めに左わき腹まで一刀両断した。


切られることを想定してなかった田森は信じられない表情で彼女を見た。


「何故だ、何故だ。」


田森がつぶやくのは手いっぱいだった。


2つに切られた田森は地面に落ちた。弥生は炎の剣で彼の眉間を刺そうとした瞬間、1人の影が素早く頭を含む部分を拾い上げて、弥生から距離を取った。


「邪魔するな!!」


弥生は怒鳴った。


影の男は振り向いた、牙(ファング)小隊(プラトーン)の隊長、小島だった。


「黒岩弥生理事官、先生を滅ぼされても、わが社として困りますよ。」


小島は事務的な口調で弥生に返答した。


「そんなの知るか。裏切り者を滅ぼすのは私の使命。」


弥生は小島に向けて強く言い放った。


「それはダメですよ、黒岩理事官、ワトソン重工は田森先生に大変大きいな投資を10年間しているんですよ。簡単にあなたの都合でここで滅ぼされたら、利益生まないじゃないか。」


「お前たちはあの男を裏で操っているのはわかっている。あの男を逃がすわけにはいかない。」


「わが社は今までずっと投資してきたのでたった今、田森先生を回収しますね。」


弱々しく唸っている田森を小島が抱えていた。


「その裏切り者を置いていけ。」


怒りを表し、弥生が小島に対して威嚇した。


弥生は構えた、今度この蝋人形のよう顔の男と元首相の残り物ごと切ろうと思った。


小島はズボンのポケットからリモコンを取り出し、青いボタンを押した。


彼の後ろの壁が開き、中から数百人の屍(アンデッド)が一気に入り口ホールへ流れて来た。


「先生を切りたいのならまずは彼らを切ってね。」


と皮肉っぽく言い、屍(アンデッド)の大群をジャンプでかわし、開いた壁の隣の小さい隠し扉に田森の残り物を抱えて消えていった。


弥生は焦った、この数百人の屍(アンデッド)がどこから来たのか、まったくわからなかった。


唯一確信しているのは1匹でも逃がせば、東京を含む首都圏は壊滅する。


大ボリバル共和国の大晦日の再来だけは止めなければならない。


信長、ヘルムート、新一、ミナ、マモールデ、森とゼンフィラがすぐに異変に気付いた、弥生のいるところへ急行した。




遡って11時05分頃


小島はこれから始まる戦いに備えて、持っていたリモコンの赤いボタンを押した。


同時に地下最下層にあった監獄の秘密の扉が開かれ、中に入っていた屍(アンデッド)と喰種(グール)が一つ上の階に避難していた250名の人間(ウォーム)の戦闘員と夜間職員を襲い始めた。


「会社は君たち、献身的な社員の犠牲を忘れないよ。」


蝋人形のような笑顔でつぶやき、エレベーターで下りていった。




11時29分頃


ワトソン重工の日本支社ビルの屋上にあるヘリポートに社名入りのCH-47・チヌーク、1機がゆっくりと着陸した。


中から1人のひげを生やした若い白人男性が下りた。不死者、ドリアン・グレイ監査官だった。


会長の預言と計画の通りにことが進めば、後3分以内に小島が【物】を抱えて、登ってくることになっていた。クレイ監査官は腕時計を見た。


「早く来いよ、小島。」


クレイは独り言をつぶやいた。

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