第13話 公安部第五課

日本国 東京都千代田区 警視庁地下

2025年3月某日 未明


森成利警視監が神妙な顔で作戦室の自分の椅子に座ってた。

彼は今、日本系統最古の長寿者(エルダー)として、人間だった時と転化した後の期間を含む、人生最大課題に直面している。


南米の大ボリバル共和国の首都、リベルタドル市の2012年12月31日の大悲劇を思い出し、それをこの東京に起こり得ることを想定しなければならない。あの恐怖の感染爆発(アウトブレイク)、迅速に闇の評議会が取った非情な決断、数千万人の犠牲者と行方不明者を出し、そこで封じ込め、世界に飛び散る前、ギリギリで止めた。その原因である張本人が不法入国し、並外れた権力欲を持つ元首相と黒い噂が絶えない謎の多国籍企業の協力による策略だった。


あの大悲劇から12年が経っていた、大ボリバル共和国がまだ復興の途中で、数百年枯れることのない石油の力を最大限に活かし、悲劇を生き残った政府関係者の政策転換により、あの南米式極左政権が誕生する以前に近い経済的豊かさを取り戻している。


最初、あの大統領がそこで滅んだと思われていたが、最近情報部により、ワトソン重工の南米アマゾンの地域、ジャブロー工業団地内にある特別研究所に隠れていたことが発覚。

崩壊した首都から大統領の脱出に手を貸したのはワトソン重工であったことが明白となった。

これは一大事だった、そしてあのお方は94年間が冬眠中だが、今回の件で起こさなければならない。起こさなければ、この国が亡びる。


「全員が集まりました、森警視監。」


中山理事官が声をかけた。


森警視監がそこにいる全員を見た。あのお方の護衛で黒岩の一族の最後生き残り、黒岩弥生理事官。

イギリスの主(マスター)との同盟の証である中山新一理事官。闇の評議会の実力者の一人、ノスフェラトゥ卿の側近のヘルムート・フォン・ブランケンブルク特別顧問。各突撃隊の隊長たち、そして自衛隊の特別対策部隊。


これは全部、あのお方が設立したもの。政府筋とは別に、田森のような権力欲の強い政治家には絶対に利用できない。


「この国に対して敵対的侵略を企んでいる巨大な主(マスター)とそれを手引きした政府内の裏切り者どもと更にそれをサポートする謎の巨大多国籍企業を排除しなければならない。」


森警視監が言った。


「あの怪物系統の開祖(ファウンダー)はワトソン重工の日本支社の地下にある特別シェルターの中にいる。裏切り者の田森元総理もそこにいて、ずっと出ていない。」


黒岩弥生が報告した。


「ヘルムート殿、あなたはあの怪物と戦ったことがあるので、助言していただければ助かります。」


森警視監がヘルムートに声をかけた。


「12年前、転生して間もない時に戦った。兎に角、攻撃パータンが多方面から来る。転生した時の特徴は舌の変化、あの怪物には少なくとも7本の触手(テンタクル)牙(ファング)がある。先端に鋭い牙がある、その1本、1本の動きが速くて、特殊アサルトスーツの強化ボディーアーマーを簡単に貫くことが可能。そこから血を吸われると配下になるか、屍(アンデット)になるかの二つに一つ。血を吸われなくても、切り傷でもそうなる可能性が非常に高いとみている。」


ヘルムートは淡々と話した。


「あの怪物開祖(ファウンダー)以外、ワトソン重工の私設軍隊の中のエリート戦闘部隊も相手しなければならないとみている、牙(ファング)小隊(プラトーン)、と呼ばれる凄腕傭兵団。」


黒岩弥生が話した。


「あの小隊の隊長は小島純次元フランス軍外人部隊少佐、別名紅(レッド)の生存者(サバイバー)と呼ばれている、伝説の傭兵です。どんな過酷な任務必ず完遂し、無傷で帰還する。」


中山理事官が付け加えた。


「隊長以外、副官の田原一豊元フランス軍外人部隊大尉も一個小隊に匹敵する殺傷能力を持っていると言われている。約70名の隊員たち、あの2人自ら世界中の特殊部隊、テロリスト組織などからスカウトした選りすぐりの兵たち。」


黒岩理事官が言った。


「小島は約10年前、35歳になった時、表向きには傭兵業から引退し、ワトソン重工の日本支社の役員及びセキュリティー対策責任者に就任した。あれから田森元総理と頻繁に密会を開き、ジャブローの研究所とヨーロッパのタウレッド王国にあるワトソン重工の本社を複数回訪れている。」


と中山新一が更に付け加えた。


「情報部からの報告によると約12年前から昼間で活動しているところが記録されていない。」


と黒岩弥生がそこにいる全員に伝えた。


「おそらくあの開祖(ファウンダー)により転化していると思われるが、確証はないか。」


と森警視監がつぶやいた。


「あの開祖(ファウンダー)を滅ぼすことは可能だが、かなり大きな犠牲を払うこととなる。私は左腕を失い、危うく彼の配下になるところだった。」


ヘルムートが言った。


「厳しい戦いになるが、あの怪物開祖(ファウンダー)の侵略を撃退せねばならない、私はこれからあのお方を起こしに行く、あのお方の力と機転が必要。」


森警視監が皆に言った。


「田森元総理とその他の政府協力者をどうすればいいでしょうか。」


突撃隊の隊長の一人が聞いてきた。


「全員処刑する。どんな理由であれ、あれをこの国へ招き入れたことがこの国、我々の主(マスター)への明確な裏切り行為。」


森警視監が冷たく答えた。


会議は10分で終了した。監視するグループ、攻撃をするグループ、情報集めるグループ、各機関との連絡を行う班などに分かれて、各自準備にかかった。



会議には転化した者だけではなく、人間(ウォーム)の公安部係員も参加していた。終わった後、公安部情報部の分析官、植田緑巡査長は車に乗り、準備のため一時帰宅を許された。

自宅に着いた途端に暗号化された回線を使うスマートフォンを取り出して、電話した。


「対策本部会議で決まったことを送付しました、小島隊長。」


植田が話した。


「流石田森先生が自ら選んだ優秀な潜入工作員ですね。」


電話口から人間の温かみがない小島の声が聞こえた。


「主(マスター)と田森先生に是非私の働きをご報告ください、小島隊長。」


植田が懇願した。


「心配しないでね、必ずお二方の耳に届くようにする。」


あの笑っているようで笑ってない声で小島が答えた。


「ありがとうございます、小島隊長。転化するのは私の夢です。」


植田が喜々とした声で言った。


「必ずそのご褒美が我が主(マスター)より与えられますよ、植田さん。」


小島が芝居かかった声で分析官に言った。


「新しい情報も常に知らせてね、頼りにしている有能な植田分析官。」


小島が付け加えた。


「はい、必ずそうします、小島隊長。」


嬉しそうに植田が答えた。


小島が電話を切った。確かにあの分析官は有能。おそらく主(マスター)か田森先生が彼女の転化をすると思った。食物連鎖の頂点のうちの一人の存在になるかただの屍(アンデット)になるか、彼女の素質次第だなと小島が思った。

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