第14話 宮殿での対決

リベルタドル市、大ボリバル共和国首都

ミラコスタ宮殿

2012年12月31日 22時35分頃


ヘルムートは大急ぎで宮殿の2階へ駆け上った。

転生したばかりの大統領を滅ぼさなければ、この恐ろしい悪夢は終わらないと思った。

時折、どの主(マスター)の系統や眷属でも、転化に失敗し、思考能力の低い喰食(グール)が誕生することも稀にあるものの、このような屍(アンデット)化はしないのが普通である。


今回のような、即座に屍(アンデット)化する現象は歴史上に数百年ごとに現れる生ける死体(ゾンビ)と呼ばれる集団と似ても似つかない。生ける死体(ゾンビ)の原因は化学物質の汚染、呪い、ウィルスなど様々だが、闇の評議会と人間の評議会が専用部隊を持っているし、生ける死体(ゾンビ)が発生すると短時間で根絶する能力を有している。


このように感染後、数秒で変化し、他者を襲い、とんでもないスピードで数を増やすのは前例がないとヘルムートは思った。

何故大半は屍(アンデット)化するとごく一部眷属化するのも謎である。その原因は感染源である大統領を滅ぼした後、何かと解明しなければならない。そして将来的に同じことが起きたら、対策を立たなければ、このような悲劇を2度と起こさないことにしなければならない。

宮殿の外を一瞬2階の大きな窓から見た、地獄絵図だった。逃げ惑う人々、襲い掛かる屍(アンデット)の波、時折夜空で爆発する花火が更にその印象を強めた。


闇の評議会が今回の事態を重くみて、恐らくこの巨大都市に対して核攻撃を容認すると思った。この感染爆発(アウトブレイク)の凄まじいスピードを止めるのはそれしか方法がない。問題なのは道連れになるこの巨大都市に住んでいる数千万人の人間(ウォーム)たち。


リベルタドル市、大ボリバル共和国の首都には700万人以上の人間(ウォーム)が暮らしていた。南米有数の大都市で極左政権誕生前、合衆国やヨーロッパ連合の大都市に負けない発展と美しさを持っていた。スペイン植民地時代の歴史ある古い建物や教会、宮殿、南米最大の鉄道及び地下鉄駅、解放者ボリバル駅、南米最大のロープウェイ複数路線、ボリバル・スクレ・ロープウェイなど、観光地として人気が高かった大都市だった。石油がもたらす発展と経済成長は合衆国の次に移民者の移住先として20世紀後半から近隣の大陸諸国やカリブ海の島々から大勢の移民を引き寄せていた。

そのような夢物語の国は突如に終わった、あの大統領が就任した時。天性のカリスマ性と演説力でこの国の人々、特に若い世代を魅力し、2002年の大統領選で圧倒的な投票数で就任した。

それから夢物語が悪夢に変わった。現在経済破綻しているこの国はそれまで北米にある合衆国を除き、同じ北米にあるメヒシコ・アステカ連邦共和国、南米の大ブラズィル連邦共和国、ラ・プラタ連合共和国、チイレ・マプチェ共和国、プェルー共和国、大グラナダ連合共和国より発展していた。


ヘルムートが大統領寝室の前に着いた、そして入った。

大統領はキングサイズの豪華なベットの上に浮いてた。座っていたわけではなく、ベットの上に言葉通り、宙に浮いてた。寝室に突然入ったヘルムットを睨んだ。


「何者か?、答えろ貴様。」


と声(テレパス)で命令してきた。


「お前を滅ぼす者だ。」


と声に出して、ヘルムートが答えた。


「貴様は我に勝てん。我は転生した、この世界の王者になる運命を持つ者なり。」


と大統領は強い声(テレパス)でヘルムートを威嚇した。


大統領の口が開き、その蝋人形のような顔が引き裂き、7本の触手のような舌が出てきた。寝室の入り口の近くにいたヘルムート目掛けに様々な角度から攻撃してきた。ヘルムートがグロック18を撃った、4本の舌が一瞬怯んだ、残りの3本は一瞬止まった。大統領が撃たれた舌に凄まじい痛みを感じた。


「どうだ、銀の弾丸の味は?」


とヘルムートが大統領を挑発した。


「貴様、我の糧になれ!!」


と強い声(テレパス)と口で叫びながら、大統領が更に威嚇した。


7本の触手のような舌がヘルムットに迫ったが、辿り着く直前に彼が消えた。

大統領が驚いたが、すぐに後ろから気配を感じた、ヘルムートだった。

彼はグロック18を近距離から大統領の後頭部目掛けを撃った。大統領はそれをかわすのが精一杯だった。そしてヘルムートもまた消えて、今度は目の前に現れ、顔目掛けてまた撃った。

それを何とかギリギリでかわすことが出来たが、銀の弾丸は頬をかすった。大統領がまた凄まじい痛みを感じた。


ヘルムートの主(マスター)の系統眷属は全員、この短距離の瞬間移動(ワープ)能力(スキル)を持っていた。特に短距離戦闘にはかなり有利な立場にしてくれる能力だった。ヘルムートは転化する以前は戦闘のプロだった。この能力が使えるようになってから闇の評議会一の戦闘員になっていた。危険な任務、危険な悪の長寿者(エルダー)たちを幾度となく葬ってきた。移動距離は短いが、標的(ターゲット)の背中や正面を一瞬で取れるようにヘルムートが特化していた。


「貴様!!」


と口に出して、大統領が叫んだ。


ヘルムートはこの大統領の異常な禍々しいオーラに恐怖を感じていたが、それでもこの怪物(モンスター)を葬らなければならないと思っていた。

銀の弾丸在庫が尽きるまで、色んな角度から大統領目掛けて撃った。かすった時やもろに当たった時には大統領は大きな悲鳴を上げた。


ヘルムートが背中に担いでたロングソードを出した。


「仕上げと行くか。」


と武者震いと歓喜を感じながら、ヘルムートがつぶやいた。

瞬間移動し、また大統領の背中を取り、ロングソードを力いっぱい振り下ろした。

大統領が目の前から消えた。


ヘルムートは一瞬驚いたが、すぐに後ろを振り向き、ロングソードで触手のような舌を3本を受け止めた。残りの4本が左右から2本ずつが迫ってきた、後ろへ倒れながら、瞬間移動し、距離を取った。


「舐めるな貴様、我はこれでも大国の長、軍人で戦士だぞ。」


と叫びながら大統領が言った。

時折いる、能力見切りできる者、だがまさか、こんなに早く見切ったのにはヘルムートは心底驚いた。


「貴様の瞬間移動はもう我に通用しない、今度は我が攻撃する番だ。」


と声(テレパス)で大統領が伝えてきた。


大統領が猛スピードで迫って来た。瞬間移動ではなかったが、ヘルムートが迫る本体と様々な角度から攻撃してくる触手のような舌をかわすのは苦労した。形勢逆転になった。それでもヘルムートは3本の触手のような舌を切り落とした。

大統領が痛みで叫んだ。切り落とされた舌が蛇のように床で踊り、やがって動かなくなった。


銀でコーティングされたロングソードだったため、吸血鬼の新人者(ニューボーン)なら細胞完全に再生不可能にする、長寿者(エルダー)なら再生を数十倍遅らせる。主(マスター)級のこの大統領には遅らせることしかできなかった。もの凄く遅く、それでも長寿者(エルダー)より早く、切り口から細胞再生始めていた。


この接近戦闘で寝室がボロボロになっていた。どんなに瞬間移動しても、猛スピードで追いつくあの怪物(モンスター)大統領がいた。それでもヘルムットが何とかこいつを葬ることを考えながら動いてた。ロングソードで切り裂いても、段々と大統領は痛がる様子が鳴りを潜めた。ヘルムートは焦った、銀でも止められないとなる、今までに遭遇したことのない厄介さ。

その時だった、触手のような舌の1本がヘルムートの左腕のボディーアーマーとアサルトスーツを破り、皮膚を刺して、血を吸い始めた。ヘルムートが何の躊躇もなく、一瞬で肘下から腕を切り落とした。5~6秒で屍(アンデット)化若しくはこの大統領の配下には絶対になりたくなかった。


瞬間移動で隣の部屋へ行き、ロングソードをまた背中に担ぎ、次の手を考えた。

突然壁を突き破り、大統領が侵入してきた。


「貴様、逃げるな、我の糧になれ!」


と大統領は怒り狂って怒鳴った。


それと同時、数十人の灰色の肌をした屍(アンデット)も流れ込んで来た。大統領は声(テレパス)で呼び寄せていたのだろうとヘルムートは思った。


「諦めろ貴様、我の糧となり、配下になれ。」


と大統領が声(テレパス)で威嚇してきた。


「断る。」


とヘルムートは冷静になりながら答えた。


ヘルムートは残った右手で特殊スタングレネードと特殊銀入り手りゅう弾の入ったコンバットベルトを脱ぎ、特殊スタングレネードのピンを抜いた。

この特殊スタングレネードには30メーター以内の近距離に太陽放射の数十倍の光を放つ能力があった。新人者(ニューボーン)であれ、長寿者(エルダー)であれ、主(マスター)級であれ、爆発をまともにくらえば、消滅するか、再生不可能になるかの二つに一つ。それと同時に爆発する2つの銀入りの手りゅう弾も半径30メーター以内の全ての食物連鎖の頂点となる者たちを消し去る能力があった。

ヘルムートは瞬間移動最大の距離、80メーター先へ移動することに集中した。

移動する直前、大統領が目の前に来た時に、微笑みを浮かびながらつぶやいた。


「地獄へ落ちろ。」


と大統領の驚いている赤い目を見て、瞬間移動(ワープ)能力(スキル)で消えた。


ミラコスタ宮殿の2階は大きな爆発に巻き込まれ、消えた。

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