激闘編

第21話 それぞれの思い

日本国、東京都港区 汐留駅近辺

ワトソン重工の日本支社ビル

2025年3月某日 午前11時05分頃


中年男性はアラーム音を聞いて、休んでいた治療タンクからゆっくりと出た。

先ほど見てた夢はあまりにもリアルで、あまりにも自分が常に感じていた不安要素を的確に回答していたため、あの恐ろしい存在より、声(テレパス)ではない方法を使っての接触だと確信した。


大統領と呼ばれていたこの中年男性は12年間、ワトソン重工のジャブロー研究所内で治療以外、

様々な強化実験も受けて、約2か月前、日本へ向けて、大グラナダ連邦共和国のヌエバ・バランキージャ港よりまずドイツ連邦共和国のハンブルク港へ出発した。


12年前、自分の転生が原因で起きた屍(アンデット)の感染爆発(アウトブレイク)で負った深い傷は驚異の治癒能力を持っていても、回復はほぼ絶望的とされていた。ジャブロー研究所で集中的な治療を施されたおかげで回復し、能力を強化された。血入り治療タンクで休むことになった以外、12年前の転生時より力、能力、治癒力など数段強いものになっていた。


それで思い出した、ジャブロー研究所の責任者、ジェイ・ヘイミッシュ・ワトソン博士と呼ばれていた軍人っぽい大男はいつも業務的な態度で接していた、転化させた後も、あの態度は変わらず、中年男性はいつも困惑していた。他の研究員も配下になったはずにもかかわらず転化前、転化後もどこか自分を避けているような気がしていた。


時折ワトソン重工の本社から来訪していたあの監査官、ドリアン・グレイと呼ばれている若い男、最後まで転化せず、ずっとどこかで自分を見下していたと印象を受けた。


その時、違和感を感じていたが、あの忌々しい評議会のドイツ人戦闘員、ヘルムートと呼ばれていた男にやられいたことが腹立たしく、ずっとリベンジすることを考えていた。

自分の欠点はわかっていたとはいえ、転生したことにより、気が大きくなり、今まで以上に尊大な性格になったことを反省した。


大ボリバル共和国の大悲劇の元凶にされたことも我慢ならなかった、そして何よりも許しがたいのは自分で築いた、自分しか得しない夢な楽園を壊されたことだった。あの馬鹿(ロバ)な副大統領に全ての責任を押し付けられ、世界史に史上最悪の独裁者として名前を残すはめになったのを人生最大の汚点に感じた。核攻撃を行ったのは闇の評議会なのに、自分が怒りで我を忘れて、スイッチを押したことになっていた。自分の楽園は今、民主主義国家となり、悲劇からまだ復興中であり、国民は少しずつ豊かさを取り戻していることも納得できなかった。2002年に大統領就任した時、全ての利益、全ての豊かさを自分の物だけにするため、ずっと働いてきた。自分さえ全ての恩恵を受ければ、他者はただの駒に過ぎないと今でも思っている。あの恐怖の存在でずら、自分の利益になる、本当の意味で世界の王者にしてくれるのならば、解放し、そして必ず葬る方法を考え出して、自分はこの世界のトップに降臨できることを原動力に今から動き出そうと考えていた。


その時部屋の自動ドアが開いた、そして小橋と呼ばれているこのビルのセキュリティー責任者の若い日本人男性が入ってきた。


「我が主(マスター)、敵が攻めにきた。主(マスター)の力が必要です。」


と跪いてから言った。


「その敵とやらは何者か?我に教えろ。」


中年男性は命令した。


「日本の主(マスター)を名乗る、織田信長です」


若い男は答えた。


「我はこの国の主(マスター)となる者だ。そんなまがい物は我が滅ぼす。」


中年男性が声(テレパス)で強く叫んだ。



それより2分前。

セキュリティー責任者の小橋はあの大統領が休んでいる特別部屋へ急行していた。

半吸血鬼になってから10年は経っていた。死ぬ運命だった自分は今でもこうやって生きているのは

嬉しかった。そして、地下部屋にいるあの死臭する中年男性の血液を元に延命治療を受け、特別な存在になったのはワトソン重工の医療研究部門と役員の小島純次のおかげであると思っていたため、双方に対して心から感謝していた。


自分の意思で実験へ参加し、手に入れた命だった。その実験が始まる前から透明液体の血清をずっと飲んでいたが、恩人の小島さん曰く、力強い主(マスター)に自分の人生を操れないための防衛策であると聞かされていた。


取り戻した命は今は自分のものであったし、誰にも操られたくないと強く思った。あと最低250年生きる体なので今回の戦いでほぼ間違いなく滅ぼされる運命にあるあの死臭の漂う自己中心的な怪物(モンスター)に捨て駒にされたくないと心に誓った。


「あの者の前では献身的なしもべの芝居を毎回演じなければならないのでそれを忘れないでね。」


と恩人の小島さんに毎回言われていた。


「お任せください、小島様。」


といつも小橋は返答していた。


特別部屋に着く前、中の怪物モンスターが起きたのを感じた。あの中年男性が起きている間、彼の【恩恵】を受けた者全員、頭の中に一種の軽い不快感を感じていた。医療研究部門担当者より聞いたのは、透明液体の血清のおかげで軽い不快感で終わってるのと、飲まなければ完全にあの中年男性に頭の中を簡単に読まれ、操られ、意思を奪われることは可能であると、研究部門の責任者は彼に忠告していた。


小橋は献身的なしもべ役に瞬時芝居に入って、部屋のドアを開けた。



同時期

支社ビルの入り口ホールで待機していた田原一豊副隊長は外に集まっている信長が率いる日本の突撃隊を強化ガラス越しで見ていた。

先ほど隊長の小島より、連絡を受け、歓迎会の準備確認を行っていた。


本社のトップより、本日は一般社員の人間(ウォーム)たちは休日は与えられていた。朝のニュースで報道されていた東京湾コンテナ船大爆発事故で8時頃に一部の頃報道陣は本社を突撃取材をしてきたが、朝方の爆発より15分後に各社宛に送信されたメールやファックスには本日10時にワトソン重工の日本支社長は帝国ホテルで記者会見を行う予定と書かれていたため、支社ビルが閉まっているのを見て、すぐに帰って行った。


「守りを固めろ、我が隊の力を見せつけろ。」


と怒号を飛ばした。


「イエッサー!」


と隊員は一斉に返答した。


転化する前の傭兵時代、自分が一個小隊に匹敵する戦闘能力を持っていると言われていたのが懐かしいと思った。転化後はおそらく一個中隊の戦闘能力を持っているのはほぼ確実だと感じていた。


攻めに来た日本の主(マスター)の突撃隊はどれだけのものか見たかったし、強い敵と戦いたいと願っていた。特に気になるのはあの黒岩弥生と呼ばれる長寿者(エルダー)のことだった。


田原は命令に忠実、隊内規律に厳しいが、戦い後は欲望全開で女性や華奢な男性を餌食にするのを積極的に好んでいた。支社ビルでの3日前のブリーフィング会議の時、彼女の資料を見た時から、自分のものにすることばっかり考えていた。


写真に写っていたスリムな体、あの小麦色のツヤある綺麗な肌、大きく輝く黒い目、綺麗な鼻と肉厚ある色気たっぷりの唇、うねりのある長い髪の毛は美しいと思った。田原は彼女の手足を切った後、犯しながら首と胸に触手(テンタクル)牙(ファング)を刺して餌食と同時自分のものにすることを計画立てていた。12年前、転化してからワトソン重工の研究部門の手によって、能力強化、肉体改造を全開にし、彼女を必ず手に入れると確信していた。


「早くおいで、弥生ちゃん、待っているよ。」


と気味の悪い笑顔で一人でつぶやいた。



約4分前。

アラーム音が鳴って、副官の田原に電話確認した後、小島はエレベーターに向かった。

本社の会長より預言された日、ずっと待っていた日が来たと心から喜んだ。

喜びを感じると同時に悲しみも感じた。これから起こる戦いでたくさんの仲間を失うことになると

ずっと前にトップに言われていた。


必要な犠牲だったと自分で納得していた。あの中年男性のような外見をしている死臭する怪物(モンスター)から解放される代価。


あの男の力で転化し、特別な能力を手に入れたが、自分は持っていた品格、知性、上品さを失わなかった。何よりもあの中年男性の存在は不快以外何ものでもなかった。下品な言動、下品な声(テレパス)、下品な食べ方、死臭する体と口、ブランド物の服をダサく着ていることが大嫌いだった。

転化する前から飲んでいた血清のおかげで思考は読まれずに済んでいたのは嬉しかった。

エレベーターに乗ってすぐ電話がなり、ハンズフリーで出た。


「はい、小島です。」


と電話に出た。


「小島よ、忘れないでください。あの男の生きた残り物を必ず本社へ持ち帰ってください。」


と僅かなフランス語訛りの日本語で声の主は小島に命令した。


「はい、我が主(マスター)、必ず持ち帰ります。」


と小島は答えた。


「ご武運を祈る、忠実な小島よ。」


と声の主。


「勿体ないお言葉です、我が主(マスター)、今夜必ず本社へ向かいます。」


と小島は返事した後、電話の主は回線を切った。


小島は入り口ホールに行かず、先に田森先生が仮眠を取っているところへ向かった。


「田森さんはデビュー戦に備えたのかな?」


と自己尋問しながらつぶやき、田森へ電話をかけた。



上記ほぼ同時期

田森はアラーム音で起きた。何かあったのかを懸念し、驚いていた。

まだ昼間の11時を回ったところだったので、今から太陽光を少しでも浴びれば、滅びると小島に言われていた。そして思い出した、あの小島は今度自分の部下になったと言い、いつでも命令して良いと聞いた。


主(マスター)も、自分は右腕になったと言われた、筆頭だった、それを聞いた田森は満足だった、主(マスター)は日本を手に入れば、強くしてくれると約束していたし、何よりもワトソン重工の全面協力は確実となった。田森は日本を強くしたかった。合衆国より、中国より、ロシアよりも。失った領土を取り戻し、朝鮮半島と大陸を再び合併、東南アジア諸国に進行し、連邦皇国の形を取り、傀儡衛星国を作ることが夢だった。


英霊たちができなかったことは自分が必ずできると確信していた。強い日本が世界覇権を名乗り出るのは悲願だった。共和党の元大統領が始めた運動による合衆国の南北戦争以来の分裂危機問題、2022年に始まった戦争とその後の敗北によるロシアの弱体化、中国国内に活発となった反政府運動と独立運動、ヨーロッパ連合の多数の難民問題による経済圧迫は助けになると考えていた。


若返って、強くなった肉体、永遠と言える命を手に入れた田森は主(マスター)とワトソン重工の力で必ずや日本国を覇権国家にするのが目に見えた。


「英霊たちよ、必ずこの国を神州にする。」


と一人でつぶやいた。


持っていた携帯電話の着信で現実に戻されたのとやっぱり鳴りやまないこのアラーム音が気になっていたのですぐに電話にでた。


「はい、田森です。」


「田森先生?小島です。織田信長がこのビルを攻めに来た、先生の力が必要となった。」


と小島は電話越しで田森に話した。


「あの傾奇者(うつけ)の襲来か?今度こそ私はあのふざけた者を滅ぼすよ、小島さんよ。」


と田森は興奮気味に答えた。


「今回の戦いは田森先生の初陣です。思う存分力を使っていただきたい。」


と小島。


「やっと英霊たちの無念を晴らせる時が来た。」


と田森は嬉しそうに話した。


「もうすぐ着きますので初陣の準備を手伝います。」


と小島は伝えた。


「昼間での活動でも問題ないだろうか。」


と田森は聞いてきた。


「ご安心ください、田森先生、ワトソン重工の技術部の力をお見せします。」


と小島が言った後、電話を切った。


田森は先ほど頭の隅に軽い不快感を感じた。おそらく主(マスター)が目覚めたのだろうと納得していた。

約2分後、小島は自動ドアを開いて、入って来た。


「田森先生、出陣です。」との第一声だった。


「信長滅ぼし、私がやる。」と田森は強い決心のある笑顔で答えた。

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