エピローグ

第34話 エピローグ 会長と男

タウレッド王国、首都・トレード市

2025年3月某日 未明 3時30分頃

多国籍企業・ワトソン重工本社ビル

地下研究所・最下層


会長は大変満足していた。

長年悲願だった実験が成功し、完全制御可能の主(マスター)1体を手に入れた。

成功の証として、先ほどまでグレイとヴィクターを除いた円卓のメンバーと楽しい宴会を行った。

全員飲んで、騒いで、女と遊んで、その後、その血肉を食べた。


あの男との出会いから数百年が経っていたが、会長には昨日のことのように思えた。

円卓のメンバーしか入れない地下研究所の最下層に専用エレベーターで下りて、数年ぶりに特別監禁室にいるあの男に会いに行った。


「お久しぶりですね。」


会長は陽気な口調で話しかけた。


「貴様!!」


男は声(テレパス)で怒鳴った。


男は培養液たっぷりの透明な大きなタンクに入っており、手、足首、腰が頑丈な銀で出来た鎖で縛られていた。銀の鎖は男の皮膚を常に焼いていたが、同時に男の治癒力が常にそれを治していた。常に焼かれる感覚を感じながら、男が存在していた。

男の体中に様々なカテーテルが挿入されていて、血を抜いたり、液体を入れたりしていた。


「もっと優しい返事できないのかな?せっかく遊びに来てるのに。」


会長は皮肉たっぷりで男に話した。


「バカにするな。小者の分際で余を監禁し、いつか余の怒りが放たれた時、許しを得られると思うな。」


男は怒り狂った声(テレパス)で会長を罵った。


「自分で頼ってきたくせに、よく言うわ。」


会長は男を見下すような目で強く答えた。


「必ずこの報いを受けることになるぞ!!」


男は会長に対して怒りの言葉を浴びせた。


「楽しいお知らせを持ってきたのに、それはないね。」


会長は苦しんでいる男を挑発した。

男は返事せず、会長を怒り溢れる赤い目で睨んだ。


「念願だった主(マスター)級の能力(スキル)を持った制御可能な1体を手に入れたよ。」


男は怒りの目から興味がある目に変わった。


「やはり興味があるのね。最後に出現した主(マスター)の転生から12年かけて、ついに手に入れたよ。これであなたの体の未知なる部分の解明ができる、更に能力(スキル)の原理と引き出し方も。嬉しいことに絶対に死ぬことができないあなたを殺す方法もわかる可能性が出てきたよ。」


会長は生き生きと男に話した。


「余を殺すように頼んだが、ずっと余の体をいじってきた貴様の言うことなど信じるものか!」


「頼んだあなたが悪いね。私が人間(ウォーム)だった頃の特別な能力(スキル)は知っていたはずだよ。」


「余には未来が見える貴様、錬金術師である貴様、医師である貴様が必要だった。」


「あなたが来るのはわかっていたよ。だから待っていたよ。」


「貴様は余を愚弄した、絶対に許さん。」


「そんなことばかり言っていると死なせない、不可触民(パリヤ)よ。」


「貴様は余を数百年監禁しているぞ。約束も守らずに。」


「数百年?たったの120年ぐらいだよ。それまであなたはずっと私と世界を回っていたし、円卓のメンバーのスカウトも一緒にやっていたじゃないか。」


「その円卓のメンバーとやら、貴様主催の奇人の集まりじゃないか。」


「奇人だよ、確かに、でも特別な能力(スキル)と知識(ナレッジ)を持っている選ばれし人間(ウォーム)たちだよ。」


「人間(ウォーム)か?笑わせるな。」


「あなたの血を元に作った血清より不老不死を得た時から確かにそれ以上の存在になったよ。そしてあなたから人間(ウォーム)の血肉へ欲望(ディザイア)も引き継いだ。」


「余を騙して、監禁した貴様とその円卓のメンバーを含めて、滅ぼしてやる、道連れにしてやる。」


「暴君と化したくせに、よく言うわ、本当に。」


「ワトソン商会を設立したのは余だ。」


「違うね、私があなたの思い付きを現実にした。そして今はワトソン重工だよ。」


「貴様のクーデターを見抜けなったのは悔やむ。」


「あの南米人の主(マスター)と夢を使って、連絡取ったでしょう。気が付かないとでも思ったのか?」


「ああ。夢を使って、連絡取った。貴様とその仲間が約束が守らんから。」


「転生したあの男は全然使い物にならなかった。制御できないし、最低で底辺な存在だった。そんな男は例えば主(マスター)級の吸血鬼に転生したとしても、あなたを死なせることができなかった。」


「余を裏切った貴様よりはマシ。」


「裏切った?あなたのせいで円卓の優秀なメンバー3名を失うはめになったのではないか。」


「奇人はどうでもよい存在だ。余との約束を守れ。」


「あなたはやはりここから出すべき存在ではない。私たち、円卓のメンバーがあのうっとしい闇の評議会を滅ぼし、世界を手に入れた後、あなたを滅ぼすことに全力を注ぐ。」


「余は死にたいのだ。殺せ!!今すぐ約束守れ!!」


「無理だね、もうしばらくの辛抱だよ、あなたに永遠の闇夜が訪ねてくるのは数年先の話だね。」


会長は嫌味たっぷりの笑顔で男に伝えた。


「余との約束を守れ!!ミシェル・ノストラダムス!!!」


「そんな名前は使ってないよ。今、私の名前はマイケル・アラン・ド・ノートルダム、かの有名な預言者の子孫にして、世界最大の多国籍企業、ワトソン重工の若き会長だよ。」


声(テレパス)で喚く不可触民(パリヤ)を残して、鼻歌を歌いながら、ノートルダム会長は地下の特別監禁室を後にした。



タウレッド王国、首都・トレード市

トレード国際空港

2025年3月某日 未明 3時50分頃


ヴィクターは小型ジェット機の前に立っていた。

【息子】がこれから乗る予定のヴィクターのプライベート・ジェット機だった。


「息子よ。必ず日本の吸血鬼の主(マスター)、織田信長のところへ行け。私の研究データとこの世界の全生き物に対して私の罪を伝えるんだ。」


「父上、あなたも一緒に避難してください。」


2メーター以上の大男はヴィクターにお願いした。


「できないのだ、我が子。」


「父上、あなたは悪くないのに。」


「悪いのだ、あのノートルダムの話に乗った時から。」


「父上、お願いです。」


「ダメだ、早く行けアダム、我が子よ、ノートルダムにばれる前に。」


ヴィクターは息子を強く抱きしめた後、ジェット機に急いで乗るように伝えた。

大男は悲しみの溢れる顔でジェット機に入った後、ドアが閉まり、離陸の準備に入った。

数分後、ジェット機は日本へ向けて出発をした。

ヴィクターは自分の車に乗り、円卓のメンバー専用のコンドミニアムに戻っていった。


ヴィクター・フランケンシュタイン博士の助手でイゴールと呼ばれている背骨の曲がった若い男は空港の展望デッキでジェット機が出発したことを双眼鏡で確認した後、スマートフォンで電話した。


「ノートルダム会長、ジェット機が出発しました。」


「そうか、知らせてくれてありがとう、イゴール君。」


「よろしいのですか?フランケンシュタイン博士は円卓同盟を裏切ったのではないでしょうか。」


「いいんですよ、イゴール君、全ては私の計画通り。明日、ヴィクターの処分をするので君は彼の席に座って欲しい。彼の研究を一番よくわかっているので。」


「ありがとうございます、会長。このイゴールは全身全霊をかけて研究を完成させます。」


「期待しているイゴール君、失礼、円卓同盟の新規加入者、イゴール博士。」


電話を切った後、イゴールは嬉しさのあまり、大きな声で笑いだした。



※第2作目【闇夜の追撃】へ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る