第7話  転生

リベルタドル市・大ボリバル共和国、首都・2012年12月31日、22時頃

ミラコスタ宮殿


大統領の遺体は目を開けて、ベットに座った。

一瞬その場にいる全員は恐怖で凍り付いた。6時間前、キューバで亡くなったはずの大統領の遺体が皆の目の前で生き返った。


「大統領閣下?」


とベットの隣に立っていた首相は遺体を見ながら震声をかけた。


遺体の虚ろな目は首相に向けられ、ベットの上で立ち、そして空中に浮きながら口を開いた、その開いた口から声にならない声で大きく叫んだ。

大統領の部屋に居た全員は耳を塞いだ。その叫びは悲痛とも喜びとも受け取れるものだった。

ベットの一番近くに居た首相とその秘書、保健省大臣と官僚2名、目、鼻、口、耳から出血しながら倒れていった。副大統領を含むその他の人たちが頭を抱えながら大統領の遺体を見た。

大統領の遺体は痙攣しながら倒れている5人を見た、そして口をまた大きく開けた。

口が横に裂け始めた、その裂けた大口から触手みたいな舌は7本が出てきた。

触手のような舌の先端に鋭い一つの牙があった、7本のうち、5本は長く伸び始め、倒れている5名の首、顔、胸などに刺し、血を吸い始めた。残り2本、蛇は獲物が狙うかのように奇妙に踊っていた。

見る見るうちに灰色だった大統領の遺体は生きていた時の色に戻り始めたが、生者の色と違い、どこか蝋人形っぽく、嘘のような誇張された色になっていた。

部屋の大きなドアが開いた、官邸報道官と6名のセキュリティー要員が入って来た。そしてベットの上で空中に浮いている大統領の遺体を信じられないような目で見た。


「大統領閣下?」


と官邸報道官は言い終わらないうちに、長く伸びた余ってたうちの1本の触手が口から彼の中に入って、刺した。

倒れている5人を吸い尽くした後、5本の触手と踊ってた残りの1本がセキュリティー要員に素早く刺し始めた。

数名のセキュリティー要員は銃を出して、触手に対して発砲を始めたが、時が既に遅かった。一人また一人刺されていった。最初に倒れた5名はまた震え始めた、その震えが止まったかと思ったら、立ち上がり始めた。

5人の目が虚ろで灰色の乾いた皮膚をしていた。5人は近くに頭を抱えながら座っていた肥満体の陸軍大将と若い国会議長に襲い掛かり、彼らを噛み、食べ始めた。襲われた2人が苦しみながら悲鳴を上げたが、すぐに永遠に黙った。

副大統領は全てを見て、恐怖を感じて、尿を漏らした。頭は割れそうなぐらい痛かったが、本能的にそこから逃げなきゃと思ったが、足は思うように動かない。近くに頭を抱えて倒れている数十名の大臣や官僚も同じ思いだったと感覚的にわかった。隣に居た副大統領補佐官が立ち上がり、副大統領に声をかけた。


「逃げましょう、閣下。」


と手を差し伸べながら、立ち上がるように促した。


「ああ。」


と弱々しい声を出して、副大統領は立ち上がった。そして同じく立ち上がった空軍大将と裏の使用人用のドアに向かい、この地獄絵図のような所から逃げ出した。


大統領の遺体が官邸報道官と6名のセキュリティー要員を吸い尽くした後、触手を口の中に戻した。大きく裂けた口がまた普通の口になった。

一番最初に刺された5名が大将と議長を食い殺した後、近くに居た医者、看護師と海軍大将に襲い掛かった。恐ろしいことに、先に餌食になった陸軍大将と議長の噛み傷だらけの遺体も動き出して、無差別にそこに倒れている他の人を食べ始めた。

官邸報道官の遺体が痙攣し出した、そして痙攣が止まると同時に立ち上がった。大統領の遺体に虚ろな目を向けて、声をかけた。


「我が主(マスター)、私にご指示ください。」


とひさまづく行為をしながら言った。


6名のセキュリティー要員のうち、2名は報道官と同じ動作をしながら大統領の遺体に向けて、同じ台詞セリフを言った。

残りのセキュリティー要員4名が最初の5名同様、灰色の乾いた皮膚の屍(アンデット)に変貌していた。灰色の屍アンデットたちは部屋に倒れている数名を食べていた、必死に逃げようとするもの、神に祈りを捧げるもの、恐怖のあまりに尿を漏らして、失神するもの、全て噛まれて、餌食となった。

大統領は敬を示している3名に向けて、直接頭に響くように声(テレパス)を送った。


「逃げた3人、副大統領、その補佐官と空軍大将を捕まえろ。副大統領を生きたままに連れてこい、他の2人を吸い尽くせ。」


と命令を下した。


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


と3人が答えた。


ミラコスタ宮殿の隣にある国会議事堂の屋上で今回の出来事を全て見てたヘルムートが念じて、主(マスター)に報告した。


「我が主(マスター)、申し訳ございません。急いで向かったが、もう遅い、大統領が転生した、そして既に手下の一部を転化させたようです。」


と伝えた。


「ヘルムートよ、あの外道を滅亡させよ、転化された者諸共も一緒に。」


と命令した。


「はい、我が主(マスター)。」


とヘルムートは答えた。


ヘルムートは考えた、新しく転生した開祖(ファウンダー)の攻撃パータンが複雑で危険、恐らくそいつの複数ある触手のような舌にある牙が少しでも皮膚をかすめたら、開祖(ファウンダー)の配下か下手すれば思考能力のない屍(アンデット)になる。


「簡単に言ってくれますね、やれやれ、どうすればいいかを決めるのが先決。」


と数百年ぶりに恐怖を感じながら考えた。


ミラコスタ宮殿から約100メーターにある欧州系高級ホテル高層ビルの一室にウィスキーを飲みながら、宮殿が見える窓に向けて座っていたワトソン重工の実働部隊の隊長、小島純次は電話をかけた。


「田原君、一大イベントが始まったよ。」


「はい、準備が出来ています。いつでも出動が可能です、小島隊長。」


と副官の田原は報告した。


「では、行くとしますか。2分後、ホテルの前に来て。」


「了解、隊長。」


高級キートンのオーダーメイドスーツがダメになると考えながら、小島は部屋を出て、下へ降り始めた。彼は多国籍企業、ワトソン重工の悪名高き実働部隊、牙(ファング)小隊(プラトーン)の隊長、小島純次、別名:紅(レッド)の生存者(サバイバー)の小島。どんな過酷で酷い地獄のような任務でも必ず無事に生き残り、生還する凄腕の傭兵だった。


「今回の報酬でまた新しいスーツを注文しなきゃな。」


と一人でつぶやいた。

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