第9話 感染爆発

リベルタドル市、大ボリバル共和国首都 2012年12月31日 22時20分頃

ミラコスタ宮殿前


ヘルムートがミラコスタ宮殿の前に立っていた。

専用の黒いアサルトスーツと手にカスタムされたH&K G36のアサルトライフル、ホルダーにカスタムされたグロック18、ポケットに銀コーティングされたナックルダスター、銀の弾丸が入ってる複数のカートリッジ、背中に銀コーティングされたロングソードを担いでた。


入口に立っていたボリバル解放軍衛兵が中に呼び戻され、宮殿の中から銃撃戦の音が聞こえていた。


宮殿の前にある解放者ボリバル大広場で新年を迎えるため、バラバラに集まっていたリベルタドル市民が野次馬根性で宮殿の様子を携帯電話で撮影したり、見たりしていた。


ミラコスタ宮殿が元々は大統領官邸であり、住居ではなかったが、先ほど転生した大統領が最初の選挙で選ばれた時、力を示すために、自分の住居にした。


ヘルムートは衛兵のいない高い門のフェンスをジャンプで飛び越えて、中に入った。集まってた市民が驚きの声を上げたり、写真を撮ったりしていた。


ヘルムートが振り返り、市民に対して怒りを滲み出しながら叫んだ。


「早くここから逃げろ。」


とだけ言い、宮殿本殿に入った。


外に集まっていた野次馬たちは逃げなかった、中に何か起きているのは見たかった。独裁者と化した大統領に対する解放軍のクーデターを期待して、更に電話やSNSで連絡して人を呼んで大勢集まって来た。


ヘルムートが入るとすぐにあった、スクレ大広間で警備の衛兵たちがアサルトライフルAK-103を使って、数十人の屍(アンデット)に対して発砲しているのが確認できた。。何度撃たれて倒れても、また立ち上がり、衛兵を餌にしていた。銀の弾丸を撃ちながら、進むヘルムットの目の前、襲われている一人の衛兵の絶命と生き返りを見て、その時間を数えてみた。1、2、3、4、5、6秒になる前のカウントで倒れた衛兵が虚ろな目と灰色の肌となり、立ち上がり、周りにいる他の生者を襲い始めた。ヘルムートは戦慄の恐怖をした。


「本当に厄介な状況になった。」


恐怖混じりの顔でつぶやきながら、スクレ大広間を後にし、ボリバル大広間に入って、そこにいた、屍(アンデット)たちの頭を撃ち、2階にある大統領の寝室に繋がる階段を大股で上り始めた。


宮殿内にいた衛兵の誰一人もヘルムートを止めなかった。衛兵たちは突如現れた屍(アンデット)の大群に対して生死の戦いに集中していた。そして少しずつ衛兵たちの大半は屍(アンデット)の大群に加えられていった。


スクレ大広間で大勢の屍(アンデット)を止められないと悟った衛兵中隊の隊長をしている大尉が退却を命じた。ミラコスタ宮殿の警備に当たっていた重装備の衛兵200名のうち、宮殿の門にあるフェンスに辿り着いたのは大尉を含めて15名だった。


大急ぎでフェンスを開け、彼らはその場から必死に逃げ出した。そして彼らの後に続き、開けっ放しとなった門から、屍(アンデット)たちが解放者ボリバル大広場に雪崩のごとく、侵入した。そしてそこに集まってた野次馬市民を容赦なく襲い始めた。


そしてもの凄い勢いで屍(アンデット)の大群が更に拡大した。


大晦日の夜の打ち上げ花火が時折散るのを、新年を迎えるため集まった友人同士がそれを家の屋上や道端で見ていた。ミラコスタ宮殿の異変にはSNSにアップされていた動画で数名気が付いたが、ほとんどがボリバル解放軍は大統領に対するクーデターだと思っていた。


嘘八百の独裁者が倒れ、大ボリバル共和経済破綻中に軍事政権になるだけだとリベルタドル市民が思っていた。見に行きたい気持ちを抑えながら、少数の新年を楽しむ派と宮殿に行き、クーデターを応援する派に分かれて行った。数千名が宮殿方面へ歩き出した。市内の駐屯地にいたボリバル解放軍と警察隊も動いた。


解放者ボリバル大広場の一角に特別仕様で作られていたストライカー装甲車6台が停まっていた。その先頭車に牙(ファング)小隊(プラトーン)の隊長、小島純次と副官の田原一豊が座っていた。隊員70名も各車両に分散して、車内で待機していた。


車内モニター越しで外の様子を見ながら、小島が田原に話した。


「我がワトソン重工の創設者(ファウンダー)であり預言者(プロフェット)のあの方が言った通りの展開だね、田原君。」


と呑気にゴディバのチョコレートを食べながら言った。


「はい、小島隊長、そのままです。」


と副官が答えた。


「次の啓示(リベレーション)があるまで待ちましょう、田原君。」


と再度小島声をかけた。


「はい、小島隊長。」


と副官が返事した。


ワトソン重工の創設者(ファウンダー)と予言者(プロフェット)である指導者の指示が明確だった。次の啓示(リベレーション)が現れるまで、何もするな。


小島は常に不満に思っていたのは創設者(ファウンダー)と予言者(プロフェット)である指導者の指示方法。その詩篇(サーム)形式がどうしても理解し難いものだった。但しあれだけの報酬を貰えば、不満は鳴り潜めることが出来た。


そして今回の仕事(ミッション)で小島を含む小隊全員が亡くなることが暗示されていたが、奇跡の復活もきちんと書いてあった。そして2人の主にしばらく使え、最終的に創設者(ファウンダー)と予言者(プロフェット)である指導者の元に戻るとあった。


紅(レッド)の生存者(サバイバー)のあだ名と評判に反して、小島は死ぬことに関しては怖くはなかったが、どんな風に完全復活するのか気になっていた。


ゴディバのチョコレートより、昔駄菓子屋で食べた10円のチョコレートを美味く感じていたなと思いながら、モニター画面に映る屍(アンデット)たちが市民を餌食にしている映像を小島が無表情のままで見ていた。


装甲車を叩く助けを求める者と屍(アンデット)たちの音がうるさかったが、耐えられないレベルではなかったので牙(ファング)小隊(プラトーン)の隊員たちは普通に待機していた。


遡って8分前、宮殿の裏口から猛スピードで黒い装甲リムジンが飛び出した。中に副大統領、空軍大将、副大統領補佐官と運転手が乗っていた。ボリバル・スクレ空港方面に走ってた。


地面や壁を跳ねながら3つの影が同じく猛スピードで装甲リムジンを追っていた。

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