第11話 大晦日の救出

リベルタドル市、大ボリバル共和国首都 2012年12月31日 22時35分頃

リベルタドル市ーボリバル・スクレ空港間の高速道路



大晦日の夜、空港へ行く高速道路に走る車はほとんどなかった。

副大統領が乗っている装甲リムジンは別だった。猛スピードで高速道路を走り、

追いかけてくる猫から逃げる怯えた鼠のようだった。


副大統領が感じていた恐怖がいくらか和らいだ。先ほど宮殿で見たあの恐ろしい光景が信じ難いものだった。あの大統領、あの死んだはずの大統領が蘇り、何者かに変身した、そしてその何かが悪だった、今まで見たことない、感じたことのない純粋で濃厚な悪だった。


「副大統領閣下、この水を飲んでください」


と補佐官が水のペットボトルを差し出した。


「ああ、ありがとう。」


と震えた手で副大統領が取り、がぶ飲みした。


「副大統領閣下、大統領専用機のエアーバスが空港で待機している、我々が着くのを待っている、そしてキューバか近隣諸国か、どこへでも行ける。」


と空軍大将が言った。


「私の家族はどうなったか?。」


と副大統領が心配そうに聞いた。


「信頼している部下を迎えに行かせた、幸い空港の近くのモリナ地区政府関係者専用別荘地にいたので、私の家族や補佐官の家族も空港にはそろそろ着くと報告を受けた。」


と空軍大将が安心した表情で答えた。


「良かった、本当に良かった。感謝する。」


と副大統領が安堵した表情を浮かべながら言った。


「解放軍の幹部と連絡を取ろうとしたが、ミラコスタ宮殿へ向かう民衆と衝突しているの報告を受けた。」


と補佐官が報告した。


「大統領が何をしたかのは見たか、あれはもう人間ではない、あの触手に刺された者もう人ではなくなった、あれが増えたら、この国が終わる。民衆をほっとくようにしろ、ミラコスタ宮殿にいる邪悪な者と化した大統領とその異形な者たちを始末するように行かせるんだ、最大の攻撃力で。」


と頭を抱えながら、副大統領が補佐官と空軍大将に命じた。


「ただちにそうします。」


と2人は同時に答えた。


装甲リムジンの2キロメートル後ろに走っていたトレーラーの運転手が信じがたいものを目にした。


3つの影が高速道路の地面を跳ね、まるで蛙のように高くジャンプしながら高速移動していた。


運転手は見た3つの影がトレーラーの前に止まり、ブレーキを必死にかける運転手を見つめた。


ギリギリのところでトレーラーが止まって、運転手が恐怖に襲われた眼差しで3つの影を見た。


その3つの影から合計3本の触手のようなものが現れて、先方トラクターの大きなガラスを割り、運転席から運転手を引っ張り出し、アスファルトの上で餌食にした。吸い尽くした後、運転手の遺体を残し、高速移動を再開した。


3つの影が去った数秒後、運転手の遺体は立ち上がった。


副大統領は嫌な感覚が走り、後ろを振り向き、暗い高速道路を眺めていた。


車がなかった、但し暗闇の中から何か追ってきてるのは気づいた。貧相なテールランプが照らした


装甲リムジンが走った道に3つの猛スピードで地面に跳ねる影を見た。また恐怖に襲われた。


「何なんだあれは!」


と悲鳴に近い声を出した。


補佐官も空軍大将も後ろを見た。3人とも悲鳴を上げた。


3つの影が装甲リムジンを飛び越して、前に止まった。


「車を止めるな、引き殺せ。」


と副大統領が運転手に叫んで、命令した。

だが、命令を出すのは既に手遅れだった、運転手が驚いていて、思い切りブレーキを踏んだ。


急ブレーキの影響で3人は前に倒れ、運転手も驚きの表情で装甲リムジンの前に立っている3つの影を見た。


官邸報道官とセキュリティー要員2名だった、乾いた血の汚れたスーツを着ていた。

前に立っていた3人は虚ろな目、蝋人形のような肌をしていた。


彼らのズボンと靴はボロボロだった。3人は運転手を見て、3人同時に口を開いた、その開いた口から


触手のような牙のついた1本の長い舌のようなものが伸びて出て来た。装甲リムジンの強化フロントガラスを易々粉々にし、運転手を車から引きづり出して、高速道路のアスファルト上で餌食にした。


装甲リムジンの後ろに座ってた副大統領たち3人は恐怖で思い切り叫んだ。


運転手を吸い尽くした後、触手が口の中に戻った。そしてリムジンの運転手の遺体は灰色の乾いた肌と虚ろな目をした屍アンデットになって、立ち上がった。


報道官は運転手の遺体に命令をした。


「そこで止まれ。」


と乾いた声で命令した。


遺体はその場で立ったまま、止まった。


「我が主(マスター)は副大統領、あなたを生きたままで宮殿に連れ戻すように命令をくださった。」


と乾いた声で言った。


「大人しく抵抗せず、私の指示に従い、このリムジンに乗ったままで待機しろ。」


と報道官が命令口調で強く副大統領に言った。


「他の2人が出てきなさい、お前たちは我々の糧になってもらう、抵抗しないようにね、逃げ道はお前たちにはない。」


と冷たい蝋人形のような笑顔を浮かびながら話した。


その時だった、暗闇からまた3つの影が飛んできた、一つの影は運転手の遺体の首を一瞬で刎はねあげ、残りの2つの影がセキュリティー要員に対して、運転手の遺体と同じ運命を負わせた。


驚いた報道官が怒り、触手のような牙のついた舌を出したが、運転手の首を刎はねた影が、その触手を切った後、報道官の首を銀でコーティングされた日本刀で胴体から切り離した。


地面に落ちた報道官の首の額を更に刺したのち、リムジンに振り向き声をかけた。


「安心してください、あなた方を我が主(マスター)の命により、助けに来た。」


小麦色の綺麗な肌とうねりのある黒い髪の毛をした美しい若い女性は声をかけた。


「私は日本国大使館の黒岩弥生特別警備対策官です。」


とその美しい女性が言った。


副大統領は驚いていた、この若い3人はあの化け物たちを一瞬で片づけた、この若い3人も絶対人間以外の何かである可能性が非常に高い。声をかけた女性は専用のアサルトスーツを着ていた、ずらりとした美しいシルエット、細長い足、上品な顔立ちとその風貌からするおそらく東洋人と黒人の混血であったと推測した。他の2人にも目をやった、そのうちの一人はアサルトスーツを着た茶髪の身長の高い東洋人とおそらく白人の混血の男性、もう一人は同じく特殊アサルトスーツを着ていた赤のかかった金髪の美しいヨーロッパ系女性。


「私はウィルヘルミナ・ハーカー合衆国全権臨時特使、本国にいる我が主(マスター)の命により、あなた方を避難させるため、ここに来た。」


とヨーロッパ系女性が微かなイギリス訛りで言った。


「私は中山新一、日本国大使館の臨時特別警備対策官です。黒岩特別警備対策官と同様、あなた方を助けに来ました。」


と茶髪の男性が言った。


副大統領たちがリムジンから手を上げて、出て来た。


「あなたたちは一体何者だ?。」


と思わず副大統領は質問した。


「我々は闇の評議会が急遽に設置した特別救出部隊です。」


と黒岩弥生が答えた。


副大統領が思い出した、以前噂で聞いたことがあった、闇から人間の裏評議会と共に世界のバランスを保つ巨大組織。


「あなたたちにはこれから起きる大惨劇の後に、この国を立て直す使命を授かりに来た。」


とハーカー合衆国全権臨時特使が副大統領に言った。


副大統領は確かにあの大統領の蘇り劇は大惨事の幕開けと感じた。


「大統領に起きたあれは何だ、確かにキューバで死んだはず、なのに蘇って。」


と副大統領が聞いてきた。


「あれは蘇りでのではない、転生(リーボーン)です、人間の上に立つ存在への。数百年前から起こってなかった出来事です、それで我々はそれが起こるかどうか監視していた、そして起こった、最悪な形で、そのため闇の評議会が急遽救出作戦を立てた。」


と中山が答えた。


「空港へ連れて行きます、付いてきてください。我々の部下たちはあなた方の家族も保護している、安心して。」


と黒岩弥生が彼らに話した。


「人間の上に立つ存在とは?。」


と空軍大将は聞いた。


「地球の食物連鎖の上位の存在です。」


とウィルヘルミナ・”ミナ”ハーカーが牙を見せながら彼に答えた。




ストライカー装甲車の先頭車両に座ってた小島はまだモニター画面を見ていた。


ワトソン重工の創設者(ファウンダー)と予言者(プロフェット)の次の啓示(リベレーション)が現れるまで動いてはならないと明確に言われていた。


そしてその掲示(リベレーション)が突然やって来た。ミラコスタ宮殿の2階の窓、大統領の部屋に当たる場所から大きな爆発が起きた。


「田原君、待ってた掲示(リベレーション)だよ、ほらこの脳無し屍(アンデット)を引き殺し、宮殿に行きましょう。」


と副官に話した。


「了解、小島隊長。」


と副官が答えた。


ストライカー装甲車6台が屍(アンデット)や逃げ惑う市民を引き殺しながら、ミラコスタ宮殿に入って行った。


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