第3話 外交官

リベルタドル市、大ボリバル共和国の首都・2012年12月31日、夕方17時頃

コンテナ船より12年前。


ヘルムートがホテルの一室で暗くなるのを待っていた。

彼のような長寿者(エルダー)は日光でもある程度活動ができるものの、エネルギー消耗が激しいため、なるべく夜で動くようにしていた。


主(マスター)の命令でこの国について早5日。彼の主(マスター)はある予感がしていて、徹底的に調べるように命令していた。主(マスター)の命令により政府から外交官用旅券の発給して貰い、実際ドイツ連邦共和国の大使及び領事が空港まで出迎えに来てくれた。彼らは緊張の面持ちと隠し切れない恐怖で一流ホテルに連れて行き、セキュリティー要員も手配してくれた。そして一番大事な食事もお世話してくれた。


昨夜にそのもてなしを受けて、今は渇き(サースティー)を感じていない。

元々ヘルムートは大食いの方ではないし、渇き(サースティー)にしても、無意味な流血と消費を嫌っていた。


彼の主(マスター)は死にゆくこの国の大統領に対して嫌悪感を抱いていた。品格と教養が欠如していると考えていたし、ヘルムートも同様の考えを持っていた。嫌悪感を持っていても、確かにこの国の大統領のオーラは異質で薄黒く、人間にしては壮大で悪意に満ちていた。ヘルムートの主(マスター)、ここの大統領が恐らく転生するとお考えになっていた。要するに自身で転生する場合、新たなる系統の開祖(ファウンダー)となる。


ここ数百年新たなる系統が現れてない。一番新しい系統は日本で現れた系統であり、基本は闇の評議会に参加していた。カルロス5世、アイヴァン雷帝、ナポレオン、ヒトラー、スタリン、毛沢東やポル・ポットでずら転生しなかった。ヘルムートの主(マスター)も比較的若い系統の開祖(ファウンダー)だった。同じく比較的若い一派は東欧の小国で誕生したの600年前のあの攻撃性が激しい変身能力持ちの系統だった。一時期数を増やしたものの、人間の手及び他の系統の開祖(ファウンダー)たちにより衰退していた。今はその系統の開祖(ファウンダー)は合衆国内にいるが、表立った活動はしていない。


ヘルムートの主(マスター)はポーランドで発生した寄生虫を使って、感染した人間の遺伝子組み換えし、別の生き物に変身させる系統の一部をつい最近滅ぼしたばかり。丁度ドイツ経由で合衆国に出発する直前。彼はそこの主(マスター)を名乗っていた長寿者(エルダー)を自分の手で滅亡させた。合衆国内に先兵として派遣されていた元ナチスの将校と協力していた投資家もヘルムートの優秀な部下によって跡形もなく消されていた。その系統の残った冬眠中の開祖(ファウンダー)と長寿者(エルダー)たちはヘルムートの主(マスター)の軍門に下った。


世界はバランスにより不完全ながら動いていた。そのバランスを壊そうとする勢力、闇の勢力、人間の評議会と闇の評議会の手により、滅亡する。


ヘルムートはここの大統領はカリブ海の島国であるキューバ人民共和国にいるのは知っていた、そして帰国する前に死亡するだろうと思っても間違いない。亡くなっても、すぐに転生すると限らないし、数日かかる可能性もある。

考えている最中にヘルムートの携帯電話がなった。


「はい、フォン・ブランケンブルクだ。」


とヘルムートが出た。


「フォン・ブランケンブルク閣下、ここの大統領がキューバで亡くなったと連絡が入った。情報部よりの秘密情報です。大統領遺体はこれから首都に大統領専用機のエアーバスで運ばれる。4時間以内にボリバル・スクレ空港に到着する予定。」


と電話かけてきたのはドイツ連邦共和国大使だった。


「わかった。」


と電話を切り、ベットに座った。これから忙しくなると思い、昨晩のもてなしの残り物で少し渇き(サースティー)を癒そうと考えた。その残り物は若くて、美しい日焼けした女性であり、床に座っていて、手足縛られていて、恐怖の目でヘルムートを見ていた。


「朝食の時間だ。」


彼女の目を見ながらヘルムートは言った。


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