第27話 主と女戦士
日本国、東京都港区 汐留駅近辺
ワトソン重工の日本支社ビル内・入り口大ホール
2025年3月某日 午前11時18分頃
織田信長は凄く喜んでいた。
3人の女戦士は彼に襲いかかり、様々な角度から攻撃を繰り返していた。
特にあのチェチェン人女戦士、ゼンフィラと名乗った女の攻撃は的確、素早く、力強いものだった。
彼は自分の名刀、2刀を抜刀し、3人の連携された攻撃を防いでいた。
「楽しい、実に楽しい。」
笑顔でつぶやいた。
ゼンフィラは他の2人に命令を出した。
「全員、高速戦闘モードに転換しろ!3連同時コンボ!」
「アイアイマム!」
他の2人は返答した。
彼女らの足のふくらはぎから高速移動用小型タービンがアサルトスーツのズボンを破り、むき出しとなった。脳に埋め込まれた高速戦闘用チップが起動し、自分たちが動いていることをスローモーションに感じながら、信長を捉え、左右と上から同時攻撃をした。
信長は非常にゆっくり動いているように見えた、ゼンフィラは勝利を確信した。
「日本の主(マスター)織田信長の首を取った!!」
と叫び、西洋ソード2刀を信長の頭の上に思い切り降り下ろした。
ゆっくり動いていたはずの信長は彼女たちの視界から消えた。
左から攻撃しかけていたフランス人女性隊員の頭が胴体から切り離された、そして彼女の体が燃えだし、灰とインプラントは地面に落ちた。
右から攻撃していたベトナム人女性隊員の右腕が切られ、顔も大きな切り傷を負った。
上から攻撃しかけていたゼンフィラは思い切り足蹴りを胸にくらい、後ろへ飛ばされた。
「楽しいな、久しぶりに楽しいな。」
笑顔を見せながら、信長が彼女たちに声かけた。
ワトソン重工技術部自慢の高速攻撃用タービンと制御チップはこの男には通用しないとゼンフィラは悟った。
「攻撃態勢を立て直すよ。」
ゼンフィラはベトナム人隊員に命令した。
「アイアイマム!」
彼女は返答した。
「どうした?来る?来ない?来ないならば、私から行く。」
と笑顔の信長。
言い終わったところ、信長はまた視界から消えた。
今度はベトナム人隊員は頭のてっぺんからまっぷたつに切られて、燃えだし、灰とインプラントだけとなり、地面に落ちた。
ゼンフィラは重い攻撃を西洋ソードで受け止めたが、2刀耐えきれなかった。彼女は信長の重い一太刀を間一髪で避けて、距離を取った。
「これで一騎打ちになった、ゼンフィラとやら。」
彼女は銀コーティングされたサバイバルナイフをホルダーから出して、構えた。
「我が人生に悔いなし。」
真剣な眼差しで信長を見た。
日本の主マスターは名刀を置き、サバイバルナイフを抜いた。
「では本気で行くぞ。」
と信長。
彼は彼女の顔を刺そうとしたが、ゼンフィラはそれを止めた。
それと同時に彼女は信長の脇腹に蹴りを入れ、左拳で腹部を殴った。
信長も彼女の右足にローキックを入れて、左拳で胸を思い切り殴った。
両者がまた距離を取った。
「ゼンフィラとやら、君は中々やるな。」
と信長。
「チェチェン人は絶対に負けないからね、信長殿。」
ゼンフィラは勇ましく答えた。
信長はこの女戦士を大変気に入った。主(マスター)級に対しても、怖がることなく、常に攻撃をしかけていた。
今度はゼンフィラが動いた。信長の顔を捉え、ぶん殴ろうとすると同時に、サバイバルナイフを腹部に刺そうとした。
彼女の拳が届く前、サバイバルナイフが刺さる前に信長はまた消えていた。
「ゼンフィラ、私はここだ。」
彼女の後ろから声をかけた。
女戦士は驚いたがすぐに攻撃に転じた。
サバイバルナイフを信長めがけて投げた。信長はそれを軽くかわすと右側からパンチング連打を浴びせた、信長はそれをブロックし、右拳でパンチを打ち、ゼンフィラの顔にクリーンヒットさせた。
ゼンフィラは後ろへ飛ばされた。顔が酷く腫れたが、すぐに元に戻った。
「正直、使いたくなかった。あなたをこれ無しで倒したかった。」
ゼンフィラは信長に話した。
彼女の口が大きく裂け、2本の触手(テンタクル)牙(ファング)を出した。
「受け止めてやろう。全力で来い、ゼンフィラ。」
パンチの連打と同時に触手(テンタクル)牙(ファング)の攻撃で信長を抑え込もうとした。
ゼンフィラの触手(テンタクル)牙(ファング)の1本は信長の左手にささり、血を吸いこもうとしたが、皮膚を破れなかった。
信長はその1本を掴み、口に持っていき、牙で一気に切った。ゼンフィラが痛みで悲鳴を上げた。
「不味いわ、これ。」
信長がつぶやいた。
ゼンフィラのもう1本の触手(テンタクル)牙(ファング)が信長の胸を刺そうとしたが、信長は右手で掴み、思い切り引っ張った。
触手(テンタクル)牙(ファング)は根元から外れて、ゼンフィラの口は血の海となった。
噛みちぎられた1本、根元から抜かれた1本、ゼンフィラは攻撃能力を失った。
彼女は信長を睨んだ、そして脳内にあるチップの高速攻撃用リミッター解除をした。
「私は負けない。」
口から血を流しながら信長に伝えた。
そして彼女は信長の視界から消えたと思ったら、信長は後ろから後頭部を蹴られ、
反応する前に今度は顔面蹴りを食らい、後ろへ飛ばされた。
信長が立ち上がろうとした時、胸を蹴られ、顔は拳の連打を数回くらった。
やっと立ち上がったところに背中を蹴られ、前へ倒れていると顎にアッパーをくらい、また後ろへ飛ばされた。
信長が仰向けに倒れ、彼の頭はボールのように強く蹴られた。
「今度頭をもぎ取ってやる。」
とゼンフィラは倒れている信長に対して宣言した。
彼女は高速に動き、信長の頭を掴もうとした時、彼は目を開け、そしてまた前から消えた。
今度は彼女の頭が信長の大きな手に掴まれ、体ごと壁に向けて投げられた。
思い切りぶつかり、ゼンフィラは背骨を含む複数の骨が折れたのを感じた。
「本当に楽しい、久しぶりにこんな戦いをした。」
信長はゼンフィラを見ながら言った。
彼には傷一つなかった。嬉しそうな笑顔をしていた。
壁にぶつかった影響でインプラント、タービンと脳内チップが壊れ、噛み切られたと抜かれた触手(テンタクル)牙(ファング)は少ししか再生していなかった。
「私の負けだ、信長殿、殺してください。」
ゼンフィラはまた勇ましく信長に対して話した。
信長は彼女をじっと見た後、真剣な顔をした。
「そんなことはしない、ゼンフィラ殿。」
「恥をかかせないでください、信長殿、私はあなたに負けた、滅ぼしてください。」
「ゼンフィラ殿、私からの提案、聞いてみてくれるか?」
「勝者のあなたが決める。私は負けた。」
「聞くか。聞かないか。それだけ答えろ、ゼンフィラ殿。」
信長は力強い声で彼女に聞いた。
「聞きます、信長殿。」
「我が軍門に入らないか。君のような強い戦士は大歓迎。」
信長は提案した。
「先まであなたを滅ぼそうとした私ですよ。」
「それは先までの話。今は今。」
「裏切る可能性だってある、信長殿。」
「これだけ真剣勝負に命をかける猛者は裏切らないと私は見ている。」
ゼンフィラは思った。ワトソン重工に入ってから、強い仲間と出会い、戦場で大きく活躍した、そこで骨を埋める予定だったし、小隊の隊員とも仲良かった。あの南米人中年男性の主(マスター)の配下になる前まで。転化人(インヒューマン)化してからの日課となった血清の飲用、ワトソン重工技術部での実験、あの死臭する中年男性の下の世話まで。耐え難かった。
確かにワトソン重工の会長の偉大な計画の一部だった。後少し耐えれば、全て報われると聞いたが、思い出す度、あの中年男性に抱かれたことはおぞましかった。ゼンフィラは自分が汚れていると感じた。
「嬉しいです、信長様、本当に嬉しいです。でも私は汚れている。」
と涙を流しながら訴えた。
「ゼンフィラ殿は素晴らしい戦士、私のそばで戦ってほしい。」
信長は優しく答えた。
「信長様、あなたが私を滅ぼす相手で良かった。本当に感謝します。」
とゼンフィラ。
「ゼンフィラ、君を滅ぼさない。」
と彼女の体を持ち上げながら、首を優しく噛んだ。
信長は主(マスター)である自分だけが持っている能力(スキル)、上(オーバー)書(ライト)きを発動した。ゼンフィラの血を吸い、自分の血を注入した。
彼女は震えた、そして蝋人形のような肌が普通の肌の色に戻り、短く切っていた赤い髪はツヤを取り戻し、虚ろな青い目は輝きだし、機械インプラントが体の中から追い出され、傷が治り、細胞は再生し、触手(テンタクル)牙(ファング)の根元の残りが地面に落ちた。代わりに上下の犬歯が少し大きくなった。
ゼンフィラは今までの辛い記憶、感じていた自己嫌悪など全て浄化されていくと感じた。
「信長様。」
信長の目を見て、笑顔でつぶやいた。
「ようこそ、美しい戦士ゼンフィラ。」
信長は彼女に囁き、抱きしめた後、キスをした。
移動中の小島は気配の変化を感じた。ワトソン重工の会長から聞いていた、仲間のうちの1人は敵側に寝返る、そしてそいつは将来的大きな障害となる。
「やはり君か、ゼンフィラ。」
少し悲しみがにじむ声でつぶやいた。
その時、彼は目的地、黒岩弥生と田森元首相が戦っている場所に着いた。
「予言通りの展開。回収する用意をしなきゃ。」
真剣な口調で独り言を呟いた。
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