卵の殻を割るたびに

 創作歴の長さに比例するように、作中で扱う回数が増えていった料理が、ラーメンの他にもう一品ある。

 それは、目玉焼めだまやきである。

星架せいかランナー』(https://kakuyomu.jp/works/16816452220801588020

油彩画ゆさいが夜明よあけのミモザ』(https://kakuyomu.jp/works/16817330647802604101

『恋はスクランブルエッグ』(https://kakuyomu.jp/works/16817330655861643234

 思わず「自分、目玉焼きめっちゃ好きやん……」と二度目のセルフツッコミを入れるほどの目玉焼きくしである。ファンタジー長編『星架せいかランナー』にいたっては、ラーメンと目玉焼きの両方をあつかっている。わけあって終末世界に漂着ひょうちゃくした人たちの物語なので、温かい料理が彼らの支えになればいいな、と願ったことを覚えている。私の作品で扱う料理に、温かいものが多いのは、『星架ランナー』が授けてくれたこの意識が、心に根付いているからだろうか。

「自分の小説で扱ったことがある料理を、また別の作品で扱う」際に、食事シーンの表現が、以前のものとかぶらないようにしよう、と気を配ったことも覚えている。『油彩画・夜明けのミモザ』(https://kakuyomu.jp/works/16817330647802604101)に出てくる「目玉焼きを載せたナポリタン」は、出来上がった料理を学食で食べるシーンだったが、他の二作は自分たちで調理をしている。それに、目玉焼きを作るという行動が同じでも、食べる人間が変われば、味わい方だって変わるはずだ。そんな意識を心にとどめて、作中で卵のからを割るたびに、表現の難易度がじわじわと上がっていく実感があった。同時に、それぞれの登場人物にぴったりな表現を探す時間は、とても楽しいものだった。

 ちなみに私は、目玉焼きには醤油しょうゆをかけて食べる派で、『恋はスクランブルエッグ』(https://kakuyomu.jp/works/16817330655861643234)の登場人物も、塩で下味したあじをつけた目玉焼きに、醤油をかけて食べている。ソースではなく醤油にした理由は、私自身が「一番美味おいしい」と思うものを、登場人物に食べさせたい、という気持ちの表れかもしれないし、「目玉焼きには醤油」と意識にり込まれているからかもしれない。あるいは、別の理由があるかもしれない。自分自身でも分からない感情を知るためにも、また新しい物語で、卵のからを割ろうと思う。そのときには、執筆の難易度がまた一段階いちだんかい上がるはずだから、気合を入れてのぞみたい。

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