心が六軒島に囚われている

 私の創作に大きな影響を与えた作品として、必ずタイトルを挙げるゲームがある。

 それは、『うみねこのなく頃に』である。

 同人サークル・07th Expansion様によって製作されたノベルゲームで、ドラマを演出する音楽の数々と、竜騎士07先生が描くキャラクターの立ち絵と、贅沢なまでに重厚なストーリーが、私の心を楽園のようなぬま垂直すいちょく落下させた。それでは、沼の底から『うみねこのなく頃に』のあらすじを、簡単に紹介させていただこうと思う。

 物語の舞台は、1986年10月4日の六軒島ろっけんじま富豪ふごう右代宮うしろみや家の私有地しゆうちである小さな島にて、年に一度の親族しんぞく会議が開かれる。高校生の主人公・右代宮戦人うしろみやばとらは、いとこたちと久々の再会を喜び合うが、大人たちのひそかな議題ぎだいは、戦人ばとらの祖父であり一族の当主・右代宮金蔵うしろみやきんぞうの「死後の財産分与ぶんよ問題」という、波乱はらんを呼び寄せるものだった。

 六軒島ろっけんじまには魔女がんでいて、右代宮うしろみや家に「十トンの金塊きんかい」という莫大ばくだいとみさずけたと言い伝えられている。その黄金によって築かれた財産をめぐって、対立を深める親族と、金蔵きんぞうに寄り添う主治医、さまざまな葛藤かっとうかかえた使用人たち……合計十八人で過ごす夜は、台風の訪れと共にけていき、やがて朝を迎えたとき、酸鼻さんびきわめる連続殺人事件のまくが開けた。

 犯人は、一体誰なのか。そして、動機どうきは何なのか。そもそも、殺害現場の密室をたくみに作り上げた犯人は、果たして本当に人間なのか? 全ては、魔女による犯行ではないのか……? 右代宮戦人うしろみやばとらは、六軒島ろっけんじまで過ごした五日間に起きた出来事は、全て人間の犯行であることを立証するために、止められない死の連鎖れんさを目の当たりにして慟哭どうこくしながら、蔓延はびこる魔女幻想に屈服くっぷくせずに、何度でも立ち上がる。

 私が『うみねこのなく頃に』を知ったきっかけは、前作に当たる『ひぐらしのなく頃に』のアニメだった。ラストシーンを見届けたときに、もっとこの作者様の紡ぐ物語を知りたいと思い、Webで検索したところ、出題編に当たるエピソード4までが発売された『うみねこのなく頃に』に行き着いた。閉鎖へいさ空間で巻き起こる疑心暗鬼ぎしんあんきのギスギス感と、極限状態ではぐくまれるきずなとうとさと、真実と虚構きょこう境目さかいめあぶり出していくシナリオ進行にせられて、今も心が六軒島ろっけんじまとらわれている。

 こうなってくると、困ったことが一つ出てくる。

 それは、語り合える仲間がいないことだ。

 私が『うみねこのなく頃に』を知ったときには、まだ解答編が発売されていなかった。次のエピソードを待つ間に、脳裏で巡らせた考察を、誰かと語り合えたらいいのに。そう願った私は、友人の一人に白羽しらはの矢を立てた。高校時代のクラスメイトで、共に文芸部で活動した戦友だ。

 自分の好きなものを誰かにすすめるとき、普段の私は「こればかりは好みがあるから」という考え方を大事にしようと決めているが、この友人は私と好みがよく似ている。長い付き合いでつちかった気安きやすさと信頼しんらい感もあり、私は友人に『うみねこのなく頃に』の素晴らしさをプレゼンした。いわゆる布教ふきょうである。

 ぬま垂直すいちょく落下した仲間が増えたのは、それから間もなくのことだった。

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