二百万字で駆け抜けた青春

 かつて私が完結させた長編小説の中に、二百万字を超えるものが一作ある。

 私がまだ「一初いちはつゆずこ」ではなく、名字を持たないただの「ゆずこ」として、小説投稿サイトで活動していた頃のことだ。日本に古来より存在する言霊ことだま信仰から着想ちゃくそうを得て、大好きなジュブナイルと絡めて展開した、中学生の少年少女たちが主人公の現代ファンタジー・サイコホラー群像劇ぐんぞうげき『コトダマアソビ』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891269535)を書き始めた。2014年から2018年にかけて完結させてから数年後に、改稿かいこう版の連載をカクヨムで開始。現在も細々と不定期で連載している。

 冒頭で二百万字と書いたが、あの頃はまだ筆力が未熟みじゅくであり、特に推敲すいこうの能力が育っていない時期だったこともあり、いざ改稿にいどむと、出るわ出るわ……重複ちょうふく表現・冗長じょうちょう表現・もたついた展開・不要な台詞せりふの数々が……!

 物語のスタート地点に再び降り立って、要修正箇所をなぎ倒していくと、あっという間に十三万字のダイエットを成しげてしまった。十三万字である。これは、快挙かいきょと言ってはいけない気がする。まだカクヨムに公開していない改稿分を計上すれば、十八万字になるだろう。現在(2023年9月)の最新作であり代表作の完結済み長編小説『油彩画ゆさいが・夜明けのミモザ』(https://kakuyomu.jp/works/16817330647802604101)は、約二十一万字で物語をたたんでいるが、この文字数すらも余裕で超えるはずだ。長編小説一本分のシェイプアップが成り立ったことに、眩暈めまいを覚えずにはいられなかった。当時の読者さまには、本当に頭が上がらない。

 そんな未熟さを内包ないほうした二百万字だが、私はこのお話を書いているとき、心から楽しかった。あまりにも幸せで、こんなにも素敵な時間を、自分自身で作れたことも嬉しくて、いとしい登場人物たちと手を繋いで、ラストシーンまで一緒に走れたら、もっと清々すがすがしい気分になれるだろうなと思っていた。ゴールテープを切って、繋いだ手を離すときは、きっと心が千切れそうなほどに寂しくなると知っていても、彼らにラストシーンの景色を見せたいから、怒涛どとうの四年間をけ抜けた。もちろん、私ひとりの力で完走できたわけではなくて、連載期間中に温かなお言葉で応援してくださった皆さまからも、力強さをいただいていた。本当に、ありがとうございました。

『コトダマアソビ』を完結させてから、私はヒューマンドラマ小説をたくさん書くようになった。この二百万字という武者むしゃ修行のような執筆しっぴつ経験があったから、書ける幅が広がったのだと思う。それらの多くが短編で、いくつかは有難ありがたくも賞をいただき、一作は書籍に収録される幸運にも恵まれた(2020.10.26 河出書房新社『5分後に美味しいラスト』に『おはよう、白雪姫』収録)。超長編に没頭していたあの頃からは、見える景色も、人間関係も、否応いやおうなしに変わった気がする。

 これからも、私が小説の上達を願い続ける限り、物語がきっかけで新しい道が開けたり、新しい人間関係が生まれたりするかもしれない。

 そんなとき、『コトダマアソビ』の改稿に当たる時間は、私をただの「ゆずこ」だった頃に戻して、初期衝動しょうどうの熱さと、小説を書く楽しさ、大好きなものを自分で作り出せる嬉しさと自信を、目の前にりんと示してくれる。そういったかけがえのない存在を、わくわくしながら形作っていった時間は、間違いなく私の青春だった。



(※文字数の減量を進めても、トータル文字数は百万字を余裕で超える見込みです。作者読みのお気遣いは、お気持ちだけで十分嬉しく存じます。お好みに合いそうであれば、楽しんでいただけますと幸いです)

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