いざ、幽玄の世界へ

 現代ファンタジー・サイコホラー群像劇ぐんぞうげき『コトダマアソビ』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891269535)は、実在する文学作品を、物語の中で取り上げている。文豪ぶんごうたちと名作については、書籍やネットで調べられるが、文学についてもっと深く知ったうえで、それぞれの作品の素晴らしさを、読み手の皆さまに伝えたい。そう一念発起いちねんほっきした私は、文学館で知識を得るために、特急サンダーバードで石川県に向かった。初めての一人旅だった。遠方には、複数人で出掛けることはあっても、一人ではめったに行かないタイプなので、異例いれいの行動力を発揮したと言えるだろう。

 どこの文学館を目指したのか、行き先で見当がついた方々もいらっしゃると思う。かの文豪は、短編の名手めいしゅであり、美しい幻想げんそう文学を世に生み出したことで知られている。幽玄ゆうげんの世界を唯一無二の筆致ひっちえがき出す文豪について、貴重な資料をめぐることで、知識を格段に拡げることができた。

 それに、館長の方がとても親切で、私が展示品を凝視ぎょうししていると(かの文豪を愛しているため、今にして思えば、凝視としか言いようがない熱の入りようだった)、遺稿いこうなどにまつわる歴史を教えてくれた。書籍やネットだけでは知り得なかった事柄ことがらは、現地におもむいたからこそ得られたものだったと思う。

 文学館を出てホテルに着いてからは、教えていただいた知識の数々を、持参したノートに書き留めた。知識が増えた分だけ心も豊かになった気がして、有意義で幸せな時間を過ごせた。その日の昼食に食べた海鮮丼も、とても美味おいしかった。でも、誰かと一緒だったら、もっと美味しかったかもしれないな、とも思った。私は、たぶん一人旅に向いていない。

 二日目は、兼六園けんろくえんをゆるゆると散策さんさくしてから、文学館の方にすすめていただいたおでんと、どぶろくアイスを食べた。お酒はあまり飲めないのに、好奇心を抑えきれなかった。そして、十四時頃には観光を早めに切り上げて、神戸に戻るために金沢駅に向かった。もし複数人で出掛けていたら、もっと観光を楽しんでから帰ったと思うが、一人では気持ちが「小説を書こう!」にシフトするから、その日の晩にどこまで書き上げられるか、気づけば算段さんだんを立てていた。やっぱり私は、一人旅に向いていない。

 帰りのサンダーバードで、かれこれ九年のお付き合いになるWeb作家仲間・陽澄ひずみすずめさん作『楽園の子どもたち』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054880431033)を読んだことが、旅の締めくくりの思い出だ。九年……! 昔を振り返るときに、当時楽しませていただいた物語の記憶がよみがえることもまた、旅情りょじょうだなとしみじみ思う。

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