桜を見上げて思うこと

 通勤つうきんで歩く道に、桜とツツジが目印の廃墟はいきょがある。

 その桜は、いつも二月のうちに花を咲かせて、あとを追うようにツツジも花期かきより早く開花かいかする。桜だけなら、そういう品種なのかなと思っていたが、ツツジも生き急ぐようにつぼみふくらませる姿を見ていると、少し不思議な感慨かんがいがあった。

特異点とくいてんでサヨナラ』(https://kakuyomu.jp/works/16816452221388415907)は、早咲はやざきの桜と出会って数年目の冬に、ふと思いついた話だった。とある〝場所〟が、過去にも未来にもつながっていることを突き止めた少年少女が、時間遡行じかんそこうの実験を重ねることによって、何者かに殺されたという同級生の死をくつがえそうとする復讐譚ふくしゅうたん。美しい桜を見上げながら、私は物騒ぶっそうな物語の構想をっていた。

 心の中で温めていたお話の種に、水を上げて育て始めたのは、かねてより交流がある創作仲間・百百百百ささももさん主催しゅさいのアンソロジー『動くまたは動かないアンソロジー〈動くのか、動かないのか、それが問題だ。〉』に参加を決めてからだった。作家陣は、『動く』と『動かない』のうちどちらか一つをテーマに選び、短編小説を書き上げる。私が選んだテーマは『動かない』で、閉鎖へいさ空間の闇を書かせていただいた。

 私の短編小説は、明るい話やさわやかな話、少し寂しいけれど温かい話が多いので、この『特異点でサヨナラ』は、異質いしつな作品かもしれない。殺伐さつばつと冷えた闇をえがくことも大好きなので、お話の種を手に入れたら、今後も積極的に育てたいと思っている。

 桜といえば、もう一作。『となりの神様はWeb小説家』(https://kakuyomu.jp/works/16817139556117071137)も、作中の季節が春で、桜色が物語のテーマになっている。こちらは、サスペンスの『特異点でサヨナラ』とは打って変わって、穏やかなヒューマンドラマなので、同じ桜から毛色けいろが違う物語が花開はなひらくことが、やっぱり少し不思議で、面白いなと感じた。

 桜の季節がめぐるたびに、自作のことを振り返る時間が、私は好きだ。こういう楽しみをもっと増やしていきたいと思っているわりには、季節のイベントを題材にした小説が、真夏の肝試きもだめしをえがいたホラー短編『学校わらしのカシマさん』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054934965857)だけなので、もっと、こう……バレンタインとか、クリスマスとか、ハロウィンとか、ロマンチックだったり、恒例こうれいだったりする行事をあつかった作品を、少しは増やしていきたいと思う。創作歴が長く、公開している作品数も多いのに、季節のイベントをえがいた小説が、本当にカシマさんの肝試きもだめししか見当たらないことが、一番不思議なことかもしれない。

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