エビとアンチョビのトマトクリームパスタ

 片栗粉かたくりこと白ワインで下処理したしょりほどこしたエビを、塩と黒胡椒くろこしょうで味付けしてから、ニンニクと共にフライパンで加熱する。続いて、アンチョビを火に掛けて、ふつふつと溶け崩れるようにえて拡がり、ふんわりと香りが立ってきたら、ホールトマトを投入する。多めの砂糖でトマトの酸味さんみを和らげて、生クリームなどで味を調整しつつ、同時進行で鍋に水を張り、パスタとアスパラガスをでていく。仕上がったソースとパスタをからませれば、エビとアンチョビのトマトクリームパスタの出来上がりだ。

 同居していた祖母が、生前によく食べてくれた料理だった。

予後よご、夕焼け、スパゲティ』(https://kakuyomu.jp/works/16817139555691655923)は、この頃の経験がなければ、生まれなかった物語のような気がする。初出は、文学フリマ大阪で頒布はんぷした同人誌で、後にエピソードを加筆してWebに公開した。

 九州生まれの祖母は、小柄でも身体が大きく見えるほど性格が明るく、いつだって矍鑠かくしゃくとした人だった。だが、晩年ばんねんは目に見えて体力が落ちてしまい、いつの間にか丸まった背中が小さく見えたときは、ショックで息が詰まったことを覚えている。

 食も細くなっていたのに、私が作るパスタは、不思議といつもたくさん食べてくれた。可愛い孫が作った料理だから、食欲がないのに無理して食べてくれた……というわけではないと思う。ニンニク料理が好きな人だったから、本当に美味しいと思って食べてくれたんじゃないかな、と想像している。

 今では、このパスタを作るときに、祖母のことを思い出すことも少なくなったが、時々ふと「おばあちゃん、このパスタ好きだったな」と過去を振り返る。そういえば『予後よご、夕焼け、スパゲティ』のタイトルに、「パスタ」ではなく「スパゲティ」を採用した決め手も、祖母がそう呼んでいたからだったな……と。

 作中では、ペスカトーレを始めとしたパスタ料理をあつかったが、まだまだ全然書き足りないので、他のごはん小説で、また同じ題材を扱えたらいいなと思っている。私は、祖母ほどに明るい人間ではないと思うけれど、創作を楽しむことにかけては、その道のプロだと自負じふしている。次は、どんなパスタのお話が生まれるのか、私が一番楽しみにしている。

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