屋台が叶えてくれる夢

 2019年の冬に、小説の同人誌を完成させた。『いつか屋台やたいのラーメンを食べに行けたら』というタイトルの短編で、文学フリマ京都で頒布はんぷしている。イベント参加だけでなく、初めての自家通販にも取り組めたので、慣れない作業に四苦八苦しくはっくしつつも、楽しい経験を積むことができて嬉しかった。

 その後、現在はカクヨムに公開済みの中編『予後よご、夕焼け、スパゲティ』(https://kakuyomu.jp/works/16817139555691655923)も同人誌の形にして、文学フリマ福岡で頒布すべく、私は友人と共に福岡へ向かった。その友人は、中学生時代から付き合いが続いていて、文学フリマでは売り子として、私の文学フリマ出店しゅってんを手伝ってくれた。

 福岡といえば、食の町。食べ歩きを楽しみにしていた私と友人は、「もつなべは絶対に押さえよう」「ラーメンも!」と言い合いつつ、家族やX(旧Twitter)のフォロワーさんにおすすめの店を教えてもらい、一日目は食を満喫まんきつして、翌日は文学フリマに行く旅程りょていを組んだ。

 福岡といえば、もう一つ。私は、屋台で食べるごはんに興味があった。同人誌『いつか屋台のラーメンを食べに行けたら』は、タイトルが示唆しさするように、屋台のラーメンに思いをせる短編で、主人公は屋台のラーメンを食べていない。作者の私も、屋台は見かけたことがあるだけで、暖簾のれんをくぐったことは一度もなかった。それは友人も同様で、「どこの屋台に行こうか」と楽しそうに話していた。

 福岡で過ごす一日目の夜が近づくと、交差点の角の歩道で、屋台の準備が始まった。やがて提灯ちょうちんともる頃には、歩道に並んだ屋台それぞれに客のれつができていて、食欲をそそる匂いがした。

 さまざまなメニューに目移めうつりした私たちは、「レミさんち」という屋台に並ぶことにした。フランス料理の屋台という珍しさにかれて、エスカルゴを注文しようと決めたからだ。私も、友人も、エスカルゴを食べるのは初めてだった。

 私はジュース、友人はお酒で乾杯かんぱいしてから、ドキドキしながら食べたエスカルゴは、淡白たんぱくな貝の味がして、優しい風味が素晴らしかった。良い時間を過ごしてから、二軒目は「日中に行列ができていたラーメン屋さんに並んでみよう」という話になり、わくわくしながら屋台を出た。

 同人誌のタイトルのような、屋台でラーメンを食べるという夢を叶えるチャンスだったかもしれないけれど、屋台で食事をするという夢は、最高の形で叶った。それに、福岡にはまた必ず遊びに行くから、いつかまた改めて、屋台でラーメンを食べる夢を叶えられたらいいなと思う。

 ただ、福岡には美味しい料理がとても多い。今年の秋にまた出掛ける際には、Web作家仲間たちと焼肉店でホルモンを食べると決めているので、この夢が叶う日をむかえるのは、当分先になりそうだ。

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