概要
初夏のある日、隣家に住む三つ年下の幼馴染・浩哉にスパゲティをご馳走した出来事がきっかけとなり、病で療養中の浩哉の祖父・菊次にも、毎週土曜日にスパゲティを振る舞うことになる。
淳美はさまざまなメニューに挑戦し、菊次を支える浩哉の母・佳奈子を交えて、露原家の人々と週末の昼限定で、疑似的な家族生活を送っていく。
そんな日々に慣れた頃、淳美は教え子の小学生・美里が同級生から疎まれている問題に直面する。さらに、菊次の病の後遺症が、露原家の平穏な空気を少しずつ変え始めて……。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!色づく世界に魅せられて
小学校の図工の先生をしている敦美は、幼馴染の浩哉にスパゲティを作ってあげたことで、浩哉の祖父である菊次にも毎週スパゲティを作ってあげることになる。
良い、良い。とにかく良い。私の語彙力ではこの作品の魅力を最大限お伝えすることができないのですが、素敵な物語であることは私が保証します。
血のつながった家族ではない他者との関わりの中で、どこまで踏み込んでいいのか、どういう伝え方をしたらいいのか、悩む敦美の姿が丁寧に丁寧に綴られています。
様々なスパゲティの美味しそうな描写もさることながら、特にグッとくるのは風景の描き方。私たちが普段意識することなく通り過ぎてしまうような風景をひとつずつ大切に…続きを読む - ★★★ Excellent!!!共に見つめた夕焼けとスパゲティの赤。それはかけがえのない家族の軌跡。
小学校の図工の先生を務める女性・淳美には、まるで自分の家族のように触れ合う隣家の家族がいます。
毎週土曜、そこで作るスパゲティは、家族のその時々の状況を語り合う大切な機会。
素直で明るい浩哉と、いつもじっくりと淳美に語りかけてくれる「菊次おじちゃん」との会話は特に心に残ります。
彼らと見つめた夕焼けの色。一緒に食べたスパゲティの色。
その「赤」は、菊次の「予後」に忘れられない色を添えていきます。
これまでも、これからも続いていく、大切な家族の思い出と共に。
まるで絵を描くように、様々な色を置いていく淳美の毎日。
鮮やかで温かな、じんわりと余韻を残していく、素敵な作品です。 - ★★★ Excellent!!!予後、予後、赤い予後——
『予後』とは、病気の経過と回復の見通しを表す言葉です。本来なら、それに『赤い』という形容詞は付帯すべくもありません。
しかし本作に関しては、『赤い予後』という言い回しがこれ以上なく物語の根幹を突いているのです。
この作品は、主人公の小学校教師・敦美が、隣家に住む「菊次おじちゃん」の最後の日々に寄り添うお話です。
豊かな色彩表現で綴られていく本文中、やはり印象的なのは赤い色。スパゲティや夕焼け空の色は、菊次おじちゃんとの時間の中で大きな意味を持ちます。
教師として子供たちと接するうちに、敦美は悩みます。誰一人として同じではない色の見え方を、どう伝えていくのか。
それは「どのように他者と接す…続きを読む