小学校の図工の先生をしている敦美は、幼馴染の浩哉にスパゲティを作ってあげたことで、浩哉の祖父である菊次にも毎週スパゲティを作ってあげることになる。
良い、良い。とにかく良い。私の語彙力ではこの作品の魅力を最大限お伝えすることができないのですが、素敵な物語であることは私が保証します。
血のつながった家族ではない他者との関わりの中で、どこまで踏み込んでいいのか、どういう伝え方をしたらいいのか、悩む敦美の姿が丁寧に丁寧に綴られています。
様々なスパゲティの美味しそうな描写もさることながら、特にグッとくるのは風景の描き方。私たちが普段意識することなく通り過ぎてしまうような風景をひとつずつ大切に切り取り、色をつけていく。色彩豊かな世界にうっとりしてしまいます。
とっても面白かったです。温かいヒューマンドラマをぜひみなさんも堪能してみてください。あ、最後に一つ。敦美にすごく懐いているわんこのような浩哉がめっちゃ可愛かったです。
小学校の図工の先生を務める女性・淳美には、まるで自分の家族のように触れ合う隣家の家族がいます。
毎週土曜、そこで作るスパゲティは、家族のその時々の状況を語り合う大切な機会。
素直で明るい浩哉と、いつもじっくりと淳美に語りかけてくれる「菊次おじちゃん」との会話は特に心に残ります。
彼らと見つめた夕焼けの色。一緒に食べたスパゲティの色。
その「赤」は、菊次の「予後」に忘れられない色を添えていきます。
これまでも、これからも続いていく、大切な家族の思い出と共に。
まるで絵を描くように、様々な色を置いていく淳美の毎日。
鮮やかで温かな、じんわりと余韻を残していく、素敵な作品です。
『予後』とは、病気の経過と回復の見通しを表す言葉です。本来なら、それに『赤い』という形容詞は付帯すべくもありません。
しかし本作に関しては、『赤い予後』という言い回しがこれ以上なく物語の根幹を突いているのです。
この作品は、主人公の小学校教師・敦美が、隣家に住む「菊次おじちゃん」の最後の日々に寄り添うお話です。
豊かな色彩表現で綴られていく本文中、やはり印象的なのは赤い色。スパゲティや夕焼け空の色は、菊次おじちゃんとの時間の中で大きな意味を持ちます。
教師として子供たちと接するうちに、敦美は悩みます。誰一人として同じではない色の見え方を、どう伝えていくのか。
それは「どのように他者と接するのか」という、全ての人にとっての普遍的な問いのように感じました。
菊次おじちゃんとの関わりを通して、敦美は何を得るのでしょうか。
美味しそうなスパゲティの描写もさることながら、その風景に宿る情緒こそ、本作最大の魅力だと思います。
物悲しくも清々しい読後感を、ぜひ味わってください。