零れた金平糖を集めて

一初ゆずこ

昴が教えてくれたこと

 小学生の頃に、家族と出かけたプラネタリウムで、星の写真をもらったことがある。写っていたのはスバルで、漢字で書くとすばる。プレアデス星団せいだんと呼ばれる青く輝く星の集まりであり、肉眼でも確認できるほどまばゆいため、視力がいい人は二十個以上もの星を見分けることができるという。夜色の宇宙に十字の光芒こうぼうえと刻みつけたすばるの写真は美しく、当時の私のちょっとした宝物になった。

 そんな写真をどこに仕舞い込んだのか、忘れてしまうくらいに時が流れて、大学生になった頃。私は、すばると新しい形で再会することになる。

 ちょうどアニメに熱を上げていた時期で、レンタルDVDで『新世紀エヴァンゲリオン』や『ひぐらしのなく頃に』をていた私が、次に興味を持ったアニメが、2002年に放映されていたという『.hack//SIGN』だった。仮想現実の異世界で遊べるオンラインゲーム『The World』のプレイヤーである主人公・つかさが、ログアウトできなくなり――すなわち、ゲームの世界から現実世界に帰れなくなり、脱出の方法を探しながら世界の謎にせまっていくというストーリーだ。

 この『The World』で、つかさをサポートするプレイヤーの一人が、すばる。同じ名をかんした夜空の星とそっくりな色のショートボブに、華奢きゃしゃな身体には似つかわしくない大きなおのたずさえた女の子。庇護欲ひごよくき立てられるほどの覚束おぼつかなさを感じるのに、重い武器を自らの力で支える姿が、彼女の性格や信念を象徴しているように思えてならない。

 青い星の彼女は、私にたくさんのことを教えてくれた。『The World』内の自治じち集団のおさつとめる彼女が言った「ノブレス・オブリージュ」という言葉が、「高貴なる者の義務」という意味を持つことを、彼女に出会ってから初めて知った。誰かに助けを求めることに、引け目を感じる必要はないことを、責務せきむを一人でかかえ込んでいた彼女にいた、得難えがたい仲間のとうとさも。他者の考えを受容じゅようする柔軟じゅうなんさをはぐくんでいく一方で、どうしても相容あいいれない存在と相対あいたいした際には、きっぱりと拒絶の意思を伝えることも、時には必要だということも。

 その選択によってむかえる決別が恐ろしくても、ひどく傷ついて倒れても、世界は続いていくということも。それでも、同じ痛みや孤独をかかえたいとしい人に寄り添って、共に生きることはできるのだということも。すばるが教えてくれたことは、私にとって大切なことばかりだった。

 今では私も大人になり、昴と再会した頃にはすぐれていた視力も低下した。冬の夜空を見上げても、青い輝きをすぐには見つけられないだろう。それでも、頬がぴりぴりするくらいに空気が冷たく澄んだ季節には、りんとしたたたずまいで道標みちしるべの光をきらめかせる昴を、自力で見つけてみたいと思う。

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