(25)大人気ない大人達

 ニーナはイヤーカフを交換していた。【次元の狭間】で寝るために。

 エブラフ老師のイヤーカフが1番寝ている時に取れず邪魔にならないが、ジルパパがヤキモチを妬くのでジルパパの物を付けていたのだ。


「ニーナお嬢様イヤーカフをお付けしましょう。お独りでは大変でしょう?」


「ニルスありがとう。じゃあこれを付けてくれる?」

 ニーナはイヤーカフをつけてもらい、昼寝の為に持ち込んであるベットへもぞもぞと潜り込む。

「お嬢様、建てていただいてる家はどうなりそうですか?」

「平屋の風呂無しですって。シャワーはあるけどお風呂は危ないって!」

 ニーナは不貞腐れた顔をしながらいう。冬は温まりたいと言えば『空調魔法で温まりながらシャワーすれば良い』と言うのだ。エブラフ老師とエイダは酷い。


 エブラフ老師とエイダは完全に過保護になり『見守り隊になるのだ!』と騒いでいる。


「ニーナお嬢様、平民では平屋もまだまだ多いですよ? 王都は少ないですが」


「私だって、客間や倉庫の話が無ければ平屋で良かったのよ? でも、エブラフ老師とエイダ、そしてジルパパの仕事部屋までここに作るのよ? おかしいと思わない? ついでにベット部屋は別なのよ?」


 そうなのである。オヤジ三人衆の仕事部屋を各自1つとベット部屋各自1つの合計6部屋を作らなければならなくなった。ニーナの気晴らし用の隠れ家なのに……。


 インクを作った報酬で貰う家に3人がやってくる。納得出来ないニーナだった。

 ひと眠りして、ニーナは王都の館へ帰宅する。すると、ベルト制作隊が稼働していた。

「ただいまー、お母様またベルトが届いたのですか?」


「そうなのよ。今度は騎士隊の分を作っているの。刻印も4つになったから進んでいるのだけど〖範囲〗を掛けられる人が今はいないからニーナとジルを待ってたのよー」


 イリスママにも〖範囲〗を教えるべきかもしれない。魔力量がそれなりに無ければ大量生産は無理なのだが知っていて損は無いだろう。【ウサギのアイテムバック】から魔法の図陣を出してイリスママに覚えてもらい2人で〖範囲〗指定魔法をかけ続ける。


「何で今日はエイダ様とエブラフ老師は来ないのでしょう? 最近は呼ばなくても来ていたのに」


「ニーナ、それはあの2人が楽しみなことをしているからよ……。ニーナと遊ぶ為に全力で用意しているのよきっと」


 イリスママは少しお疲れのようだ。このベルトの山を見ればそうなるよね!


『コンコン』


「奥様、お客様がいらっしゃいました。戦力ですよ」


「通してちょうだい!」


「お邪魔するよ。ニーナ! 昼寝から戻っていたのか!」


「おぉ、起きて戻っておったかニーナ。家を建て終わったぞぃ! 見に行かぬか?」


「もう【家】を建ておわったのですか? お母様、一緒に見に行きましょうよ。少し休憩した方が良さそうです」


「あら、楽しそうね! 一緒に行きましょう。何で行くのかしら? 【次元の狭間】で移動するの?」


「そうじゃ! 予定地をニーナが狭間を挟んで移動出来るようにしてきたのでな! 現地で建物を見て問題なければ【アイテムバック】に入れてニーナが持ち帰る事にしよう」


「早く行きましょうお母様!」


 ニーナに掴まり、4人揃って狭間へ出発し経由する。

『〘次元の狭間を自在に扱い、里を隠し自在に出入りする者〖隠者いんじゃ〗〙〖むすび〗建築建物前!』


 現れたのは大きすぎる平屋。体育館かっ!

 ニーナは1部屋の大きさを考えていなかった。エブラフ老師もエイダも『危ない』という理由から階段や風呂を取り除いたのであって、広さは特にこだわりはなさそうだった。

 こだわりが無い分、自由に作られたようだ……。


「ニーナ、広くて良いじゃろう? 調合する机や読書するにも大きな部屋や机が必要な時があるかもしれんからな!  ふぉっふぉっふぉっ」


「ニーナ! 食事は私とゆっくり出来るように大きなテーブルとニーナ用の椅子を用意しておきましたよ! 椅子は老師ではなく私の細工物です!」


「何を威張っておるのじゃ! ニーナ、儂はシャワー室を作ったのだぞ! 温度管理はバッチリじゃ。洗濯物の洗濯機を置き、乾燥室を隣に作っておいたぞ。洗濯くらい儂がしてやろう!」


「師匠、変態じみた事言わないで下さいよ。ニーナの洗濯物は私がします! キッチンもニーナが上手く使えるようにステップを作りましたよ! ニーナ、私を褒めて下さい」


「エブラフ老師、エイダ様ありがとうございます。でも洗濯は自分でしたいです……」


「何を言っているのニーナ。お家に持って帰ってきなさいママが洗ってあげるわよ」

〈うちの娘が変態に狙われてる気分だわ!〉

 イリスママは心配事が増えたのだった。


「ニーナ、ベット部屋の事なのだが。南東端を儂の部屋、隣がニーナでニーナの隣の部屋にエイダの部屋、柱を挟んでジルフォードの部屋にしたぞ! これは決定じゃ!」


「南東端をニーナの部屋にするつもりでしたがエブラフ老師とニーナの部屋隣をどっちが使うか争いましてね。申し訳ないのですがニーナには間の部屋にして欲しいのです。この家はニーナの家ですが、私達も使わせて欲しいのですよ。もっと一緒に居たいのです!」


「ジルはどうするの? きっと怒るわよー? そして私の部屋はどこかしら?」


「「ジルフォードと同じ部屋を使って下さい……夫婦ですし」」


「仕方ないわねぇ。ニーナ、寂しくなったらママの部屋に来なさいね♪」


 なんだか隠れ家ではなく、引越しみたいになってきた……。これは意味があるのだろうか? 入る為にはニーナが連れてこなくては行けない場所に建てるのだが。


「あれ? ニルスの部屋はどうなりましたか? 1番一緒に来るのはニルスですが」


「「ニルスには部屋はいらんじゃろ(いりません)」」


「それは困るのだけれど。エブラフ老師!」


「仕方ない、1番西の部屋で良いじゃろう」


(護衛の部屋が1番遠いってどうなんだろう……)

 ニーナは疑問だったが、【次元の狭間】に建てるのだ。どうにかなるだろう。


 水周りの説明を受け、魔法の仕組みを聞いていく。空調魔法は部屋ごとに調整出来るようになっていた。


「ありがとうございました、エイダ様、エブラフ老師」

「喜んで貰えたようで良かったぞ!」


「ではニーナ、【次元の狭間】に【家】を建てに行きましょう」


「はい!〖アイテムバック〗」


 家は【アイテムバック】に吸い込まれた。

 ニーナ達は4人で1度屋敷へ帰り、ニルスを連れてニーナの【次元の狭間】へ移動した。


【狭間】へ来たニーナは【アイテムバック】から家を取り出し設置する。

「〖アイテムバック〗! 家を設置!」


 狭間に境がまだ見えず、大きさも大丈夫であった。バックの中なのに……。


「「「建築おめでとう!」」」


 大人3人は楽しそうである。今日はジルパパは居ないけどね!


「さあ、荷物を運び込みましょう! ニーナここのソファやテーブルも持っていきますか?」


「うーん、最初にここへ置いたのはそのままにしとく」


「わかりました、では私達からの家具のプレゼントを見てくださいね!」


「儂も頑張ったのじゃぞ! タンスとベットにウサギの彫刻をしたのじゃ!」


「私の方が今回は力作ですよ! 本棚は全てウサギシリーズです!」


 今回も儂が! 私が! と2人はギャーギャー始める。いつもの事だ。ふぅ。


 1部屋ずつ家具を置いて披露されていく。

 エイダとエブラフ老師の部屋はもう出来ていた。


 イリスママは部屋の場所を確認し、何を置くか考えているようだ。


 最後にニルスの部屋へと向かい扉を開く。


「何も置いてないわね」


「コレだけ置いていきます。予備があるので」

 ニルスはそう言ってアイテムバックから出して床に置いた。


「……エイダ様、エブラフ老師。家具は何も無いの? ニルスは床で寝るの?(グスン)」


「「あーーー! ニーナ大丈夫じゃ(だ)! ちゃんとニルスに似合いそうなのを今夜作るからな!」」


「ニルス、好きなデザインはある? 2人が作ってくれるそうよー」


 うるうるお目目のニーナに慌てるエイダとエブラフ老師。それを見て楽しむイリスママであった。


「僕は剣と盾が彫られたベットが良いです!」


「ニーナをこの2人が泣かせたんだから、もっと強請っていいわよ」


「じゃあ、机と椅子に小さな棚にしようかな」


 しっかりお強請りしたニルスはニーナを宥めて皆で帰ったのだった。


「イリス! ニーナ! 何処へ行っていたのだ?」


「ジル、ニーナの家が建て終わったから見てきたのよー」


「ニーナ!! 何でパパを連れて行ってくれなかったんだい? というか何で泣いているのかな?」


 ジルパパはニーナの後ろに立つ2人を睨んだ。


「ジルフォード! 違う! 儂ら悪いことなぞしておらん」


「そうです! ニルスに家具を作ってやらなかったのがバレただけです!」


「エイダ様! わざとニルスに家具や部屋を用意しなかったの?」

 ニーナはまたグズグズと泣きそうだ。


「2人共! 優しいニーナの事を考えずニルスにイジワルしたのですね! 大人気ない。我が家へ出入り禁止にしますよ!」


「「すまん!謝るから勘弁してくれ」」

 2人はニルスとジルパパに土下座を繰り返すのだった。


 そして自分の部屋がニーナの隣では無い事を知らされたジルパパはエイダの尻にカミナリを落とし『部屋を譲れ』と言ったが、エイダは後悔しても譲ることは無かった。

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