(3)ニーナ・カートは避けたかった

 ニーナは今とても悩んでいた。

余りにも動けず、寝返りどころか腕さえ上手く扱えないことに。


『うまく動かす為には、鍛練よ! 合気道の  

鍛練を思い出すのよ!』

 声にはならない心の声で独り言をいうニーナであった。


「あー! だっ!」(えいえいぉー)

「あら、ニーナったら。もうお喋りしたいの?」

 イリスがそう言いながら抱きあげようとした時だった。

 偶然、ニーナの拳が口に入ってしまい反射的に拳をチュパっと吸ってしまったのである。


 これは、マズイかもしれない。

ニーナは汗が流れるイメージを頭の中に浮かべた。


 強制執行の、アレが始まってしまうのかもしれないのだ。

『アレ』とは、赤ちゃんの食事事情である。

17年間、成長した記憶がある状態ではとても辛い。


 この世界、粉ミルクも液体ミルクも無く。

 代用乳としての牛さんは、穏やかな性格では無いため飼育数が少ない様なのだ。


 貴族令嬢であるらしい、ニーナ。

 是非、両親に強請って牛さんのミルクを頂きたいのだが、その機会はなさそうだ。

 それを悲しんでいたニーナの周りには、その原因が現れていた。

 魔力量が多過ぎる為に起こる、感情の揺れが魔法として発現してしまう事象である。

 この症状が起きるのは、王家に多いらしい。

 事象を起こしてしまう乳児には、魔力量の多い者のミルクが必須になるのである。


 つまりは、母親の魔力を含んだ乳か牛さんのミルクであっても品種改良をした魔力を含んだ牛さんのミルクで無くては事象発現で大幅に魔力を使い過ぎた乳児の体へエネルギー供給には足りないのである。


 そして、その改良された牛さんは王家管轄の牧場にお住まいであり、常に改良されて頭数も増やされているのだが多い魔力を含む乳を出す頭数が非常に少ない為に貴族であっても貸し出しが難しいのだ。


 なんと、不便な!(泣)


 大きくなったら、絶対に自分で牛さんの改良をしてやる! そう心に誓うニーナであった。


 差し迫る危機に、ニーナの周りには水が滝の壁のように流れ何処かへ消えていく。


 便利なこの水の消滅状態よりも気になるのは、早く拳を口から離し『お腹空いてないよ! アピール』をしたいニーナ。

 でも、拳は更にヨダレまみれになるばかり。

(今すぐ! 腕を動かせ私!)


 イリスは「あらあら♡」と水の壁も難なく抱っこした……


 それをのほほんと眺める神は。

『成長した記憶を持つ魂には、母乳は辛い。要、課題』とメモをした。


 課題もそうだが、ミルク改良のほうが早かったよ! と、気がつくのは数年後である。


 時は流れーーー


 そして3歳のある日、ニーナは気が付いた。


 要は、魔力を持った牛さんでなくても牛さんのミルクと魔力を上手く調合出来れば良いだけだったのだ。


 調合を理解し、ミルク調合を試した時。

ニーナは簡単過ぎて、泣いた程だった!

 

 この調合開発に、「3歳児が大発見をした!」と、国からは栄誉と報奨を受けたニーナ。


 ニーナの父、ジルパパは陛下から『ミルク調合工房』の依頼を受けて頭を抱えた。


「可愛い、我が家の3歳児を働かせろなどと!」


 この事で、陛下と幼馴染らしい? ジルパパは裏でキレたらしい。

 

 ニーナはと言うと、一人では続けられない事であり持続と供給需要から、ミルク調合工房を作るのでは無く宮廷魔法使いの数人にミルク調合を教えて対応した。


 転生前の『受講生が一人でも良いから欲しい』という願いは達成された瞬間であった。


 そして、文化前進の一歩でもある。


 職業スキル『ミルク調合士』誕生☆


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