(23)身につけるものは増えるのだ
ニーナ達はペタペタと刻印を手袋や革のバックへと押していた。1種類はギル親父さんが作るものよりもっと小さな〖守護〗のウサギ8匹、もう1種類は【アイテムバック】用のウサギ柄スタンプである。刻印を作ったのはエブラフ老師だ。目の前で本当に一瞬で作った為、色々可哀想な人の顔が思い出された。
「ニーナお嬢様、仕立て屋が来たのできて欲しいと奥様言っておられます。ニルスも来るように」
「マリアンヌさん、仕立てが早いのねー! あの刺繍大変なはずなんだけど」
「あの仕立て屋は仕事が素晴らしいと有名です。急いで進めてくれたのでしょう」
執事のドリアスが案内し、仕立て屋の情報を教えてくれた。案内された部屋へと行けば、マリアンヌ夫人と助手さん達、そしてイリスママが居た。
「ニーナ待ってたのよー。これを見て欲しかったのよ」
イリスママはニコニコと箱を示す。何が入って居るのだろう? ニーナはリボンを解き箱を開ける。底には自分の瞳の色と同じ湖のような水色に少し緑が混ざったような色をした可愛らしいドレスとヘッドドレスが入っていた。
「ニーナ、お誕生日おめでとう! そのドレスは今夜着てね! ジルも楽しみにしてるのよー」
「え? 誕生日?」
「あら、忘れてたのね(笑) 今日でニーナは4歳よ! 夕食は皆でお祝いしましょうね」
すっかり忘れてたいたのだが、4歳になったらしい。忙しく【塔】へと通勤ばかりしていて忘れていたニーナであった。
「ありがとう、お母様。もう4歳なんだ……!」
「「「ニーナお嬢様、おめでとうございます」」」
仕立て屋の皆も祝ってくれた。
「こちら、お嬢様がウサギがお好きと聞きましてウサギの飾りを付けた髪飾りを作りましたお使い下さいませ」
仕立て屋のマリアンヌからもプレゼントを貰ってしまった! ウサギさーん!
「ニーナお嬢様、こちらは私からですわ」
エリーまでプレゼントを用意してくれていた!
「エリーありがとう! これはもしかして、ウサギバックのお洋服?!」
「はい、何時も同じバックでも着せれば気分転換になるかと思いまして。こっそりサイズを測って仕立てました」
立体ウサギバックは頭部にポケット状の空間があり、ボタンで閉める仕様となっている。少ない量しか入らないがハンカチや子供の貨幣袋くらいは入るのだ。ニーナは【アイテムバック化】しているので何でも入るが。
「ニーナお嬢様、僕からはこれです。」
「ニルスまで用意してくれてたの?」
ニーナはニルスに会ったのが最近の事なので自分の誕生日を知っている事が不思議だった。
「お嬢様、何で誕生日を知っているのか? と、顔に出てますよ。領地では毎年祝われていたでしょう? お嬢様の誕生日は領地皆全員食べ放題の食事が用意されていたので知ってますよ」
なんということだ! そんなお祭り騒ぎになっているとは本人だけが知らなかったらしい。ニルスから受け取ったプレゼントはウサギ型のクッキーだった。
「ニルス、ありがとう! 大事に食べるね」
「では、ニーナ一緒にローブの仕上がりを見ましょう」
「はい、お母様!」
「お品はこちらになります」
マリアンヌ夫人が箱を差し出し中を確認するニーナは、予想以上に可愛らしい刺繍とデザインに満足した。
薄く青光りする白布に花を持った茶色のウサギ達12匹が刺繍されていた。襟元には白レースで作られた小さなリボンが縫い付けられている。
「マリアンヌ夫人ありがとう! ニルスのマントも見せて下さい」
こちらですよとニーナに渡された為、ニルスを呼んで羽織らせる。
「ニルス似合ってる! ウサギも小さい輪だし同系統のブルーの糸でした刺繍だからすぐにはわからないわ!」
ニルスのマントは濃いブルーにした。カート公爵家の騎士服や護衛服が青系の色が多いからだ。
「お嬢様、本当に良いのですか?」
「何を言ってるのよ! ニルスが安全じゃないと気になってしまうでしょう?〖守護〗を掛けたら撥水もしてくれるから雨の日も大丈夫よ!」
「ありがとうございます、ニーナお嬢様、大事に使います」
ニルスは照れているようだったが畳んだマントを抱きしめていた。喜んでもらえたようだ。
「こちらの刺繍もご確認をお願い致します」
マリアンヌ夫人は3枚の【守護の図陣】を刺繍した生地を出す。マントの裏地に縫い止め〖均一〗の魔法を使って利用する為に注文した物だ。頼んだようにヨモギ染めが手に入ったようである。
「ヨモギ染めの生地があったのですね! 良かったぁローズマリーも手に入るか分からなかったのに」
「運良く少しですが在庫が残っていたのです。図陣用は注文を受けてから染める事が多いのでご注文が小さな生地で助かりました」
ニーナは運良く手に入れたようだ。これでジルパパやイリスママとエリーに〖守護〗を持たせる事が出来る!
ニーナはローブとドレスを試着し、最終調整は大丈夫か確認してもらう。
「マリアンヌ夫人、刺繍の管理はしっかりお願いよ」
「わかっております奥様。ではそろそろ失礼いたします」
イリスママとマリアンヌ夫人が会話を止め、夫人は帰って行った。
「さあ、ニーナ。今日は忙しいわよ! まず髪を整えてこのドレスに着替えたら絵を描いてもらいましょう」
「え! 絵を描いてもらうのですか? 私〖守護〗の魔法を……」
「絵を描いてもらうのが先よ!」
イリスママは強かった……。
(椅子に座ってじっとするなんて疲れるよ……)
午後いっぱい絵を描いて貰う事に費やし、記録石に記録されそれを見ながら仕上げをするらしい。最初から記録石でやれば良いじゃないかと思ったニーナである。
「ニーナ!! パパが帰ってきたよ! 誕生日おめでとう」
ニーナを抱き上げギューギューと抱きしめるジルパパである。ドレスがシワになるではないか!
「お父様お帰りなさい」
「ニーナ! 会いたかったよ! 誕生日だというのに仕事だなんて」
「ニーナ! 誕生日だと聞いて儂も来たぞ!4歳じゃのおめでとう。儂からのプレゼントじゃ」
そう言ってエブラフ老師は『エリクサー』と書かれた瓶を渡してくる。
「これでチョット死んでも戻ってこれるからな! 安心じゃ」
ニーナは何て物を渡すのだ! と言いたかった。
「ニーナ、誕生日おめでとうございます」
エイダからは指に嵌めるとサイズが適正に変化するという指輪を貰った。この指輪にはまっているムーンストーンに魔力を溜め込んだり出来るらしい。大きな魔法を使うニーナへのお守りだとくれた。
「エイダ様、エブラフ老師ありがとうございます!」
「本当は家をやりたかったが、建てるのに時間がかかるからのぉ」
そう言ってエブラフ老師は笑うが、普通はエリクサーの方が材料集めなどで時間がかかるのだ! まったくこの大人は!
そこからは賑やかに食事をしていた。
使用人達も交代で食事を楽しみ、大勢でケーキを味わう。ニーナにとって幸せな時間だ。
「そうじゃ、忘れておった! ニーナこれを渡しておこう」
エブラフ老師は【アイテムバック】から目覚まし時計を取り出した。
「この目覚まし時計はな、ネジ式ではなく最新に変更した魔力石式なのじゃ。魔力石に魔力を貯めておけば動き続けるぞ。【次元の狭間】で寝すぎないように使ってくれ。ニーナを探すのは大変じゃからの」
「連絡取れるように何とかやってみますから!」
ニーナは本気で考えないと、2人に見張られる事になりそうだと危機感を感じた。
「私もニーナの【次元の狭間】には干渉出来ないようなのですよ」
ジルパパはしょんぼりしている。
そうなのだ、ジルパパの【次元の狭間】に行く事はしていないのだがジルパパはニーナの【次元の狭間】に来ようとチャレンジしていたのだが全く出来なかったのだ。
(うーん、何か良い魔法があれば良いのだけど……。〖念話〗も〖呼び掛け〗もダメなんだよね。携帯電話みたいなのがあればいいのに)
ニーナが考えている時ヘッドドレスに付いているアクアマリンが気になった。
(これに魔法を掛けられたりしないかな?)
意識をアクアマリンに持っていくと『〘遠き場所と次元を繋ぎし音と声、相手を指定し送り送られ繋がれる〖衛星電話〗〙』と浮かんでくる。図陣は六重の九角形に九芒星だ。
「……」
「「「ニーナどうした?(のじゃ?)」」」
「ニーナ、どうしたの? 黙り込んで」
「また魔法です……お互いに声を届ける魔法です」
「「「「何(ですって!)!」」」」
「今、考えていたらヘッドドレスに付いてるアクアマリンに魔法を掛けられたんですが……多分これは宝石か半貴石じゃないと魔法を掛けられません。それと耳元に無いと無理だと思います」
「誰か!
持ってこられたイリスママのイヤリングはサファイアのイヤリング。大粒の物だった。 普段エルフ族の人々はピアスやイヤーカフをする事が多いらしいがエブラフ老師やエイダはしていなかった。
「じゃあ、このイヤリングに魔法を掛けて良いですか?」
「是非してちょうだい!」
「では〘遠き場所と次元を繋ぎし音と声、相手を指定し送り送られ繋がれる〖衛星電話〗〙」
手のひらに置いたサファイアを魔力で包みホンワリとしたら終了だ。
「お母様、ではこれを耳に付けて『〖衛星電話ニーナ呼び出し〗』と意識して下さい」
「やったわよー」
「お母様、聞こえますか?」
「まあ! 耳元からも聞こえるわ!」
「魔法を切る時は『切断』と意識して下さい。こちらからかけるので音がなったら『接続』と意識して下さいね」
「〘遠き場所と次元を繋ぎし音と声、送り送られ繋がれる〖衛星電話イリスお母様呼び出し〗」
イリスママの耳元では本人にだけ『リンリン』と聞こえた。
「リンリン聞こえるわよ!『接続』」
「今度は切断して下さいね」
暫く貸し借りをし、通話を楽しんだ。
「ニーナ、ちょっと儂の調合室に送ってくれ! 数人分の宝石付きのイヤーカフを作るからの〖衛星電話〗掛けてくれ!」
エブラフ老師とエイダを連れて〖隠者〗を使う。【次元の狭間】を通りエブラフ老師の調合室へ。
エイダとエブラフ老師は耳にかけるタイプのイヤーカフと挟むタイプを作っている。
「「ニーナ、どれがいい?」」
急に聞かれても悩むのだが。
「耳にかけたうえに挟んで付けられるコレにします」
月の型をした飾りが付いている濃いブルートパーズのエブラフ老師が作った物だった。
「やはり儂の物じゃった! ふぉっふぉっふぉ」
「何で師匠のなんですかー」
エブラフ老師はジルパパ・イリスママ・エリー・ニルスに自分用を作った後エイダに言った。
「お主は自分で作れ! ニーナと石もお揃いは儂だけじゃ!」
エブラフ老師とトパーズまでお揃いになったニーナ。他の物は色とりどりだ。
「エブラフ老師、執事のドリアスさんの分も作ってあげてください」
「ニーナのお願いだ、仕方ないのぉ」
ニコニコ顔で追加作成するエブラフ老師を見てエイダは目を潤ませていた。
(エイダ様、泣かなくても……)
ニーナはエブラフ老師にエイダの分をと頼もうと思ったがエイダがソックリなデザインで作り始めたので口を噤んだ。
「執念ですか……」
ボソッと呟くニーナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます