(11)嫁には行かぬ
ニーナが236冊目の〖修復〗を終えた時だった。
「流石に腹も減ったし、そろそろ帰らせてくれ」
ジルパパが疲れ果てた顔でエイダに言った。
「何を言ってるんだ! 魔法使いは多少の事で集中力を切らせてはイカン!」
エイダが楽しい事を取り上げるなとでも言いたげな顔で言う。
「可愛いうちのニーナが、可哀想だと思わないのか! 大人の癖に子供に食事もさせず魔法を使わせ続けるとは!」
ジルパパはそう言うが、ニーナは先程からクッキーやお茶を頂きゆっくり進めていた。
十分食べているのである。
「しまった! ニーナすまない。子供との触れ合いなど多くないのでな、加減を忘れていた!」
「私は十分食べています。ほら!」
ぽっこりお腹をさすって主張し、ニーナは答えた。
「「「くっ!可愛な!!!」」」
ジルパパは分かるが、いつの間にか集まっていた人達からも聞こえたようだ。
最初に居たメンバーは既に〖修復〗を習得し、追加の本やお菓子を持って来た宮廷魔法使いまで居座り練習していたのである。
「でもニーナ、疲れただろう? さあエイダなんて置いてパパと帰ろう」
ジルパパは心配そうな顔をして言う。
(まだ大丈夫だけど、流石に飽きたしねパパと帰ろうかな)
「はい、お父様」
「帰ってしまうのかい? ニーナちゃん。食事は用意するよ?」
引き止めようとするエイダをジルパパは睨みつけた。
「ニーナ、食べ物に釣られてはダメだ!」
「今日はジルフォードの好きな魚料理とワインがあるんだが?」
「頂こう! さあ、食堂は何処だ?」
ジルパパはニーナを抱いて行こうとした。
「〖ウサギさん〗が!」
ニーナの秘密アイテムを置いていってしまうところだった危険! 危険!
〖ウサギさん〗を抱いてから、食事に釣られたジルパパとニーナ親子を引き止める事に成功したエイダは、【塔】の食堂へと向かう。
食堂には数人の魔法使いと、昨日庭園で見かけた男の子が居た。
「おや、王子様がいらっしゃいますね」
エイダが言う。
ジルパパは『あちらが王子様だよ』と耳元で教えてくれた。
10歳くらいだろうか? ハニーブロンドにスミレ色の瞳をしている。
「【塔の長】! 会いたかったんだ! ここを教えてくれ!」
エイダに気がついた王子は寄ってきた。
どうやら、食事ではなく魔法を教えて貰っていたらしい。何故王子様が塔にいるのだろう?
近くに来てやっとこちらに気がついた彼は
「ジルフォード公爵、久しぶりだね。その子は誰?」
「王子様、お元気そうでなによりです。
こちらは我が家の娘ニーナと申します。
ニーナ、ご挨拶を」
ジルパパに降ろされ、スカートを摘み挨拶をするニーナ。
「ご挨拶申し上げます、王子様。カート公爵家の娘ニーナと申します」
「私はガイアスだ。ニーナというのか! 今日は公爵と【塔】を見に来たのか?」
王子様はニコニコしながら聞いてきた。
「いえ、王子様。彼女は〖修復〗という新しい魔法を発見した為に連れてこられたのです」
エイダはガイアス王子に言った。
「なんだって? 新しい?! こんなにも小さな子なのに?」
ガイアス王子は不思議そうな顔で見ている。
「この場合、年齢はどうなのでしょうか。
彼女の新しい魔法は、今までと少しばかり違うのです。様式や法則が違うようでして」
エイダは悩みつつも説明していた。
(うーん。そうだよね基本図形も全く違うし、最後には漢字で書くしね。3歳児の文字はグネグネだけどね)
自分の手を見ながらグーパーを繰り返す。
「何してるんだい?」
「!!」
王子様に覗き込まれてニーナは驚いた。
驚いている顔を見たガイアスは、ニーナが可愛いく思えた。
「ねえ、ニーナ。お腹は空いてない? ここはなかなか美味しいものが揃っているよ! 1人の食事が嫌で、私は時々ここで食べてるんだ。一緒に食べようよ!」
ガイアスは弟妹にするように、手を差し出して促した。
(あー……、これはどうしたらいいのか)
チラリとジルパパを見ると頷いて居るので、ガイアス王子の手を取り席へと歩く。
「カート公爵、良いのか? ニーナを取られそうだが?」
エイダはどんどん崩した口調になってるようだ。
「例え王子様でも、娘はやらぬ!!」
嫉妬に燃えるジルパパは、眉間に皺を寄せながら呟いた。
席に座り、食事を楽しんだニーナ達。
ニーナは普段話さない子供同士の会話を楽しんでいた。
(仁衣菜の時も、合気道ばかりしてたし子供をやり直すのも楽しいかも?)なんて思っていたら……。
「うお!!」
ジルパパが変な声を上げていた。
「お父様、どうしたのですか?」
振り向いて、声をかけてみればジルパパの膝には危険な〖ウサギさん〗が居り、ウサギさんのポーチにはありえない深さまでジルパパの腕が入っていた!!
「あーーーー!!」
「ニーナ!! なんだコレは!!」
【ウサギさんの秘密】がバレてしまった。
「ニーナのウサギのぬいぐるみは、どうなっているんだ?」
すっかり打ち解けたエイダもビックリしている。
「う。その……。本を〖修復〗してしまった後に『本当に新しい魔法が出来るのかな』ってやってみたら出来ちゃったの……」
ニーナはモニョモニョと説明する。
王子は、ぱぁぁっと光り輝くような笑顔を浮かべて
「『新しい魔法』だなんて! ニーナは凄いなぁ!」
王子は羨ましいとまで言う。
「あぁ、なんて才能なんだ! 3歳にして2つも『新しい魔法』を生み出すとは! ニーナ! 早く【塔の魔法使い】にならぬか?
宮廷魔法使いは試験があるが、私の推薦で試験を受ける年齢までは【塔】に住んで勉強出来るようにするぞ!」
エイダは早口で説明する。
「誰が【塔】へ大事な娘をやるか!」
お父様はお怒りである。
「ニーナ! 大きくなったら私と結婚しないか?」
大真面目な顔で【塔の長】エイダは言った。
「何を言う!! ニーナは私と結婚するんだ!」
大人しく聞いているだけだと思っていた王子様が大きな声で割り込んでいく。
ニーナは頭を抱えながら
「私、まだ3歳だから!! お母様とお家にいる!」
「だよな!! ニーナは良い子だな!」
ジルパパは機嫌を直して、〖ウサギさんのポーチ〗の〖アイテムバック〗から飴を出し口へ放り込んだ。
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