(10)3歳児、一歩を進む

 ニーナは今【塔】へ向かっている。

 昨日魔力量の測定をしただけで大騒ぎになり、帰された為に午前中から行く事となった。


 前日測定をした階で集まり、『〖修復〗をした魔法の本』を見せられた。


「ニーナ様、この本に魔法を使った時のことを思い出して下さい。どのような事がありましたか?」


 塔の長エイダは言った。


「私は傷んだ所が気になりました。そして『最初は破れたりしていなかったんだろうな』と最初の姿を思い浮かべたら魔力を込めてしまったみたいで……」


「なるほど、その魔力量はどの程度でしたか?」


「昨日の『魔力量測定グラス』より込めていません。何となく魔力で包んでいました」


「なるほど、『魔力で包んだ』のですか」


 塔の長エイダが言ったあと、他の宮廷魔法使いが古い絵本を持ってきた。


「その絵本に『同じ』様にして見て下さい」

 エイダが言った後ニーナは本を見た。


(角が丸くなってる、端っこも少し破れてるけれど大事にされてるみたい。最初はきっと曲がるとこも無く綺麗だったんだろうな)

 そう思いながらポッと魔力で包んだ。

 すると頭に図形が浮かんだ。図形の周りには魔法文字で〘時を超え元に戻りて現在にあり〖修復〗〙と書いてあるようだ。


「「「「おお! 本が!!」」」」


 エイダとジルパパ、宮廷魔法使い二人が声を上げた。


 ニーナは図形から意識を手元に戻すと絵本は新品のように戻っていた。


「あれ、〖修復〗されてる。今のは何だったのかな?」ニーナが言うと


「何かあったのですか!!」とエイダは言う。

 ジルパパも驚いた顔をしてニーナに言う。

「ニーナ、何かしたのかい? 前とは違うのかい?」


「うん、今は最初は綺麗だったんだろうなって思いながら魔力で包んだの。

 そうしたら、頭に図と魔法文字が出てきて」


 興奮した顔でエイダが

「その図と文字は書けますか?! いや分かる範囲でもいい! 綺麗に書けなければ私が描きましょう!」


(多分書けるだろう。だが、あの図形は道具が必要だ。コンパスや定規はあるのだろうか?)


「私、図を描いたことないの。六角形を三つ描かないとダメなの」

 ニーナはこちらの筆記用具には慣れていない。ガラス棒で出来たガラスペンにインクを付けて書くのだ。3歳児の手には文字だけで精一杯である。

(日本時代じゃ、こんなちびっ子の時は書けないよ!)

 ニーナは転生してから器用にこなしてきたので、皆忘れて居るのだろう。

 ジルパパも期待の目をしている。


「教えて下されば、描きますよ! 文字も言って下されば書きましょう」

 エイダは言いながら紙とペンをだしペンの一本をニーナに渡す。


 この世界の紙は目はやや粗めだが、植物でできている割には丈夫である。


「じゃあ、大きめの六角形のなかに、こーして、ずらして二個書いて欲しいの」

 ニーナは言いながらヨロヨロと波打つ線で図形を描いた。


「では描いてみましょう」

 エイダはコンパスらしき物と、定規や分度器も出す。


「周りここからここまで、『時を超え元に戻りて現在にあり』と魔法文字を書いて」


 書かれたのを見たエイダはニーナに言う。

「これで良いかな?」


「仕上げをするから、貸して」

 ニーナは言いながら紙を受け取り〖修復〗と漢字で最後に書いた。

 そうなのだ、漢字で書かれていたのだ。これはニーナにしか書けない。


「ほう、この形は何でしょうか?」

 エイダは言った。

「何だろう? 線がいっぱいあるな?」

 ジルパパも悩んでいるようだ。


 ニーナは焦りながら文字の説明する、

「それが見えた時、『』って聞こえたよ!」

(聞こえた事にしとけば良いよね!)


「傷んだ本を数冊持ってきてくれ」

 エイダが言うと、10冊の童話や絵本らしき物が持ってこられた。

「では、この描いた図形と魔法文字を皆読んで覚え、試してみよう!」


 最初にエイダが確認し、次はジルパパへ、次は宮廷魔法使い達へと渡される。


 ジルパパは本をニーナにまず渡し、皆が持ったのを確認し言う。


「では、一斉に始めよう!!」


「「「「〖修復〗」」」」


(え? そこ言うの?)ニーナは1人出遅れた。


┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅


 結果、ニーナとジルパパは完全に新品状態となった。

 エイダは出来たが、1箇所『折れ』が残っている。そして残りの2人は出来ていなかった。


「成功した! 新しい魔法だ!! やっぱり親子だから出来たんだな!」

 ジルパパは大喜びをしながら親子論を通そうとする。


「いや! 私も出来ているぞ! 少し折れているが」

 エイダは出来ていると言い張るつもりらしい。

「何を言ってるんだ! 折れていたら完璧では無いのだから〖修復〗じゃないだろう?」

 ニヤニヤしながら言うジルパパ。

「何を言う! 表紙はピカピカだし、中の文字だって掠れていないではないか! 立派な〖修復〗だ!」

 エイダはお怒り寸前である。


 宮廷魔法使い達は悔しそうにしながら、反省会をしているようだ。


 ニーナは神様との約束が、一歩進んで安心した。

(今日は安心して帰れる!)

 そう思ったニーナはここが【宮廷魔法使いの塔】である事を思い知らされる。


「よし! 練習を続けよう! 君達も出来るように進めよう! 魔力量の問題なのか? それとも相性などがあるのか調べよう」


 その日、ニーナが修復した本は200冊を超えるのだった。


「複製した本もだいぶ傷んでいるからな!」

【塔の長】がニッコリと笑いながら〖修復〗していた。

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