(12)ウサギ好きも困りもの

 ニーナは第2弾の魔法〖アイテムバック〗の魔法文字が頭に浮かんだら紙へ書き出しをして欲しいと頼まれた。


 それを出来なくてはニーナも困るのである。神様との約束もある。


 何時でも描ける様にと、紙と藍色の携帯用ガラスペンを渡されたニーナは『どうやって書くというのだ!』と言いたかった。


 ニーナはまだ幼いため、テーブルでも上手く書けないのだ。


 早く書いて欲しいと、エイダとガイアス王子の顔からは読み取れるが無理である。

 まず、〖アイテムバック〗にする為の素材らしき物を持っていなかった。


 新しい魔法の文字を知るためには、練習が必要そうだと、分かったニーナは

「素材を持って来るまで待ってください!」

 そう言って、何とか今日の作業は終わりにしてもらい今はジルパパと帰宅した所である!


「ニーナ、そのウサギさんはどうなってるの?」

イリスママは今日あった事をジルパパから聞き、魔法がどうなってるか説明を求めてきた。


「このウサギの子の体に縫い付けられたポーチに、合わない量の物が入るの。

 このお部屋くらいよ! 自由自在に出し入れ出来るのよ!」


 ニーナ達が居る部屋は、お茶を楽しんだり、親しいお客様と庭の風景を楽しみながらゆっくり出来るような部屋である。

 

 イリスママは少し考えた後聞いてきた。


「それで、エイダ様と王子様にお約束した【素材になりそうな物】とは、どの様な物なら良いのかしら?」


 多分、機能的にアイテムバックなので、袋やバック等だろう。


 ニーナは楽観的にそう思っていた。


「お母様、まだ分かりませんが袋やバックだと思います。家には使っても大丈夫な物はありますか?」


「エリー! 袋や使わなくなったバックを持ってきて」

 イリスママがエリーに言うと、こちらで宜しいですか?とエリーが3つ持ってきた。


 誰かの貨幣袋に、侍女長のハンドバック、そしてニーナの使わなくなったポシェットだった。


(あ、ウサギさん型のポシェット! 懐かしい)


 そんな事を考えていたら、イリスママから実践して欲しいと言われてしまった!


「まずは、この貨幣袋に魔法をかけて欲しいわ!」

 どうやら、この貨幣袋の持ち主はママだったようだ。


 ニーナは中に沢山の物が入る事を想像しながら魔力で包んでみた。


(んー……。何にも感じない。失敗かな?)


 ニーナが貨幣袋に手を突っ込んでも、普通の貨幣袋の大きさだった。


「出来ないみたいです。ごめんなさい」


「まあ! 良いのよ! そんなに簡単に出来てもこまるわ!!」


「そうだぞニーナ。今日は〖修復〗が出来たからといって、簡単に出来るかなんて分からないものだよ!」


 イリスママとジルパパは二人で『簡単では無い』と伝えている。


 だが、あっさり出来た初回を知ってるニーナは悔しかった。


「次は侍女長のバックでやってみる!」


 そう言いながらバックを受け取るニーナ。


 先程よりも中の大きさを、リアルに8畳間くらいに想像した。



(んーーー!【アイテムバック!】もしくは【収納!】でどうかな?)


 ニーナは出来ていますように!と、願いながら中へと手を突っ込み確認する。


「ニーナ、どうかしら?」

 

「またダメなようです……」

 

 何がいけないのだろうか? 【ウサギさん】の時はアッサリと出来たのだ。何が違うのか?


「まだ、コレがある。コレでもやってみよう!」

 そう言ってジルパパからポシェットを渡された。


(まあ、やってみるしかないよね!)


 ニーナは受け取り、また8畳間を想像してアイテムを自由自在に出し入れする事を考えながら魔力でポシェットを包む。

(【アイテムバック!】……出来るわけないかぁ。コレ、明日もやる事になるのかな?)


 思いながら手を入れるニーナ。

「出来てる!! お父様、お母様! 大きな空間があります! 成功しました!」


 その瞬間、また3重の六角形と魔法文字の羅列、そして最後には〖アイテムバック〗と

 日本語で書かれていた!


「お父様! 今日紙へ書き出した3重六角形を描いて下さい! 

 そして周りに〘我、次元の狭間に収納し取り出す者〙と書いて下さい!!」


 ジルパパは急いで紙と藍色のガラスペンをだし、まず1枚目に魔法文字で『我、次元の狭間に収納し取り出す者』とメモを取った。


 その間に急いで執事のドリアスがコンパスや定規を持って来る。


 仕上がった3重六角形と魔法文字の最後にニーナは〖アイテムバック〗と書き足す。


「ニーナ、この書き足した記号は何と聞こえたかな?」


「お父様、それは『アイテムバック』と読むのです。私は上手く書けないけど……大丈夫でしょうか?」


「皆でやってみよう! でも、この3つで何が違うのだろうか?」

 ジルパパは『うーん』と顎に手を当て悩み出した。


「このポシェットは、ニーナお嬢様の物です。本人の物でないとダメなのではないでしょうか?」


 侍女長がその様に言い出した為に、イリスママと侍女長が先に魔法文字を読み込み試す。


「「〘我、次元の狭間に収納し取り出す者〖アイテムバック〗〙 」」


 二人が同時に唱え、確認の為に手を入れる。


 いや、唱える必要は全く無いのだが!!

 これは恒例になるのだろうか?


「ダメだわっ!! 私の貨幣袋は普通の貨幣袋のままよ」

 イリスママが悲しそうに言う。


「私のバックも変わりません」

 侍女長も残念そうに報告する。


「どういう事だろうか?」


「ニーナのバックを幾つか持って来てくれないか?」

 ジルパパに言われたエリーはまた部屋へと行き、熊さん型の手持ちバックと鳥柄のショルダー、そしてウサギ柄の枕カバーを持ってきた。


「なんで枕カバーなんだい?」

 ジルパパは不思議そうな顔で聞く。


「こちらは、ニーナお嬢様がお気に入りの枕カバーなのです。これも袋状ですし、もしかしたらと思いまして」


「お父様、魔法を順番に掛ければ良いですか?」


「うむ、そうだな。まず熊さんのバックにしよう」


 ニーナは魔法を【想像】し、熊さん型のバックを確認する。

「ダメなようです」


「では次はこちらに」


 次は鳥柄のショルダーだった。

 やはり、こちらもダメだった。


「何がいけないのでしょうか?」

 ニーナはジルパパに聞いてみる。


「何だろうな? 愛着だろうか?」

 ジルパパも不思議そうだ。


(愛着?? まさかの、私がウサギ好きで小物集めまでしてたからってことは無いよね?)


 ニーナは嫌な予感がしてくる。


 転生前、仁衣菜はウサギ柄等が好きだったが買う余裕が無かった為【ニーナ】になってからはウサギ柄に凝っていた……。


「ではニーナ、枕カバーもやって欲しい」


「ニーナ頑張ってね! 出来なくても大丈夫よ!」

 イリスママに励ましの言葉を貰い、ニーナは開き直った!


「〘我、次元の狭間に収納し取り出す者〖アイテムバック〗〙!!」

 ニーナは大きな声で言った!


『ズボッ!!』


 バランスを崩し、枕カバーに腕を突っ込んだまま倒れたニーナ。

 本来、枕カバーの中から床に手を付き身体を支えられるはずが、枕カバーの中は次元の狭間になっておりそのまま横倒れとなった。


「「ニーナ!!」」

「「「ニーナお嬢様!!」」」


「お父様!! 成功しました!」


「大丈夫かい?? 痛い所はないか???」

 ジルパパとイリスママの顔が少し青く見えた。


「お父様、少し分かった事があります」


「何かな??」


「多分なのですがこの〖アイテムバック〗の魔法は、ウサギ柄や型に関係してるようです……」

 

「そうなのか? 誰か!! ニーナの物以外でウサギ柄や型の物を持ってる者は居ないか?」


「私が持っています」


 侍女の1人が言い、それを聞いたジルパパは代金を払うと約束して彼女が持って来た【ウサギの刺繍】された小さな巾着をイリスママに渡した。


「イリス、先程と同じようにやってみてくれないか?」


「わかったわ! ジル!」


「〘我、次元の狭間に収納し取り出す者〖アイテムバック〗〙」


 そして確認するイリスママは、肩の付け根まで巾着に突っ込み楽しんでいた……。


「成功したわよ!! ウサギさんに間違い無いわね!」


 自信満々に答えるイリスママ。


(どうしよう! アイテムバックを持つ人はどんなにどんなに似合わなくても、

ウサギさん柄じゃないとダメなのか。呪いみたいだ!(涙))


 ニーナは【ウサギさんのぬいぐるみ】で試した事を悔やんだ。

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