(13)キラリと光る

 翌日、ウサギ柄の布地で巾着が作られ、袋物にウサギ柄の刺繍がされていく。

 もちろん、貨幣袋にもウサギのワンポイントが付けられた。

 カート家に居る者総出で支度したくされ、お針子の者達とも契約し、ある程度数が作られる事が決められた。


 1日で用意された数は200個。

 ワンポイントであったり、布地を使っても全て手作業である。数は多くは無いのは仕方の無いことだ。


「ニーナ明日は登城し、陛下と一緒に【塔】へ行くことになったよ」


「お父様、陛下も一緒にエイダ様にお会いになられるのですか?」


「準備が整ったと伝えたら『儂も見る!』と仕事を放り出す勢いでね……」


 困り顔のジルパパは、先程王城へ行って明日ニーナも行く事を報告して来たらしい。


「ジル、今は巾着や貨幣袋しかないけれど大丈夫かしら?」


「今はその位で良いだろう。手の込んだものは用途が決まっているものだけの方が良い」


 ジルパパとイリスママは話し合っている。



 翌朝、支度し登城した二人は陛下のニコニコ顔に迎えられる。

「よく来たなニーナ! 待っていたぞ! 儂は今日〖アイテムバック〗の魔法を見られると楽しみにしていたのだ! さあ早く【塔】へ行こう!」


 陛下が立ち上がり、ニーナの方へ来たかと思えばヒョイッとニーナを抱き上げ歩き出してしまった。


「陛下、娘は私が抱き上げますのでこちらへ」

 どうしたらと悩んでいたニーナへ、ジルパパが救いの発言をする。

「良いのだ! ニーナは可愛いのぅ。こんなに幼くとも賢く役に立つ魔法を編み出してくれる。この国にニーナが生まれた事を神に感謝せねばな」


 話しながらの回廊を歩いていた時ーー

「父上! それにニーナも来たんだね! 待って居たよ!」

 ガイアス王子が駆け寄ってきた。


「ガイアス王子様、カート公爵家よりご挨拶申し上げます」

 ジルパパは頭を下げて挨拶をしている。

 ニーナも挨拶をしたいが、陛下の腕の中である。どうしたものか。


「ガイアスが、ニーナに会ってからニーナの話ばかりするのだよ」

 陛下は楽しそうにニーナの顔を覗き込む。


「王子様、カート公爵家の娘ニーナご挨拶申し上げます」

 陛下の腕の中では格好は付かないが、挨拶をする。


「父上、私も行きたいです! ニーナ、私にも魔法を見せてくれるだろうか?」


「ガイアスにも見せてやってくれ」


「分かりました、陛下。王子様も来られましたし、降ろして頂けますか?」


「楽しんで居たのだが仕方ない。ガイアスもやきもちを妬くからな」


 降ろしてもらったニーナは、陛下と王子に続きジルパパと手を繋いで後ろにはウサギ柄の袋達を持った侍従を引き連れて【塔】へとやって来た。



「ニーナ!! 待っていたぞ!」

 エイダはニーナに駆け寄り抱きつく。


「エイダ! 止めろ! うちの娘に何をするんだ!」


「エイダ、儂の事は無視か?」


「【塔の長】私も見えないのか? ニーナは私の友達だ。離れてくれ」


 陛下も王子様も不機嫌そうだ。ニーナは慌てる。


「エイダ様、大変お待たせしました。やっと魔法文字と図陣ずじんが分かりましたのでお父様に描いてもらいました」


「陛下、王子様、ジルフォード公爵並びにご令嬢ニーナ様ようこそお越しくださいました。今日は〖アイテムバックの〗報告と実践で宜しいですか?」


「儂も見たくての。一緒にやってきたのだ」


「では、こちらへ」


 エイダは楽しげに案内をする。


 そこには、1人の老人が座っていた。見たことの無いエルフのようだ。


「エブラフ老師 、こちらがお知らせしたニーナ嬢ですよ! 可愛いでしょう? 」

 エイダはニーナを自慢げに紹介する。


「カート公爵家が娘、ニーナと申します」

 スカートを摘み、老人へと挨拶をする。


「ほう! この子が新しい魔法を見つけたという子か! 見るのが楽しみだのぅ」

 エブラフ老師は近寄って、ニーナの瞳を覗き込みニッコリと笑う。


「エブラフ老師までやって来るとはな!

 ニーナは 随分と期待されておるな」

 陛下までそんな事を言う。ニーナはこれから説明しなければならない内容を思うと胃が痛くなるような気がする。


 陛下がエブラフ老師の隣の椅子に着く。

「では、ニーナ。始めてくれ」


「一昨日ニーナが〖アイテムバック〗の魔法を試みまして、こちらが出来たものです」


 陛下、王子、エイダ、エブラフ老師へと、ジルパパは出来上がった【アイテムバック】を渡していく。


「皆様、手を入れ確認して頂けますか?」

 ニーナは、各々で確認するように進める。


「「随分と広い空間があるな」」

 エルフ二人は空間の広さに何か考えている。


「この刺繍は、何か意味があるのか? ニーナの持ち物か?」

 陛下の言葉を聞くニーナ。


「実は……。私が一番最初に〖アイテムバック〗の魔法を使ったのが【ウサギのぬいぐるみ】だったせいか、ウサギ柄の物でなくては〖アイテムバック〗の魔法が使えない状態になってしまったのです」


 ニーナは申し訳なさそうに説明をする。


「ほぅ。では、ウサギ柄が着いていれば【アイテムバック】は誰にでも作れるのかね?」

 エブラフ老師はニーナに聞いてきた。


「エブラフ老師、我が家の執事から下女まで魔法の使えるものは試してみました。

 分かったことは、魔力量により中の広さは変わるものの、【風】魔法が使えれば出来るという事でした」


「「「【風】魔法か!!」」」


「【風】魔法の使える者を1名と、見習いの小姓を1名連れて来なさい!」


 エイダに呼ばれた2人も参加し、侍従から持ち込んだ【ウサギ柄の巾着】を皆に渡された。


 その中の1人を見たニーナは、本当に悔やんでいた。

 彼は背が高く騎士服の姿をしており、騎士服の上から見てもある程度は筋肉質であろう。

 顔は綺麗と言える方なのだが、何しろ【ウサギ柄】が似合わないのである……。


「皆さん、こちらの魔法をお読み下さい」


 ジルパパは2枚に書かれた魔法図を陛下とエイダへと渡す。

 各自順番に回して読み、確認を終えた6名は頷いた後一斉に魔法を使う。


「〖アイテムバック〗!」


(あれ? 今エブラフ老師の巾着だけ光った気がするなぁ)ニーナは気のせいかな? と取り敢えず置いておくことにした。


「おお! 儂にも〖アイテムバック〗が使えたぞ! これは良い!」

 陛下は大喜び。


「私も【アイテムバック】を作れました! 陛下、これを是非軍備として取り入れましょう!」


「そうだな! アレス! だがこれは魔法が使えない者でも使えるのだろうか?」


 陛下とアレスと呼ばれた魔法騎士は話している。エイダとエブラフ老師も一緒に意見を交わしている。


「ニーナ、これは魔法を使えない者でも使えるの?」

 王子様が聞いてきた。


「それは、私から御説明致します。

 我が家で試した所、魔法を持たぬ者も使う事は出来るのですが……。

 持てる量が魔力によって変わるようなのです。重さは袋自体の重さだけです。

 内容量の最大値は魔法を掛けた者の魔力量によって変わるようです」

 ジルパパは家で試した結果を示す。


「「「「「「なるほど」」」」」」


 各々手を入れては出し、本を入れたりしては取り出し試している。


 エブラフ老師から借りた巾着を手に、陛下は言う。

「確かに、エブラフ老師の物の方が広いようだ。流石であるな」

 ウンウンと頷く陛下には【ウサギ柄】が似合っていなかった……。


(ウサギ柄じゃなくて、似たような魔法が何か出来ないかなぁ)

 ニーナは思いながら手を見つめていた時、キラリと手元が光った。


 その光に気を持っていかれ、凝視した時その光にニーナは吸い込まれてしまった!!


「ニーナ!!」

 光に完全に吸い込まれる瞬間、青い顔をしたジルパパが叫んでいるのが見えた後ニーナは何処かへと移動してしまったようだった。


 ここは何処だろう?

 ニーナは辺りを見回すが薄らと光に照らされているだけで何も無い。


 ニーナはここが何処だか検討もつかない。

(光が気になって、見てただけなんだけど。もしかして【次元の狭間】に来てしまったのかなぁ?)

 思い当たるのは、【アイテムバック】を覗いた時の感覚に近いという事。

 でも、【アイテムバック】には『入れない』と実験済みなのである。

「入れて居ると言う事は【アイテムバック】では無いのよね?」


 ニーナは出口を探す方法を考える。

 取り敢えずと、自分が肩から掛けていた【ウサギ型のアイテムバック】からクッキーと熊さんの大きなぬいぐるみ、そしてカップを出し魔法でカップへと水を注ぐ。


「カップ、入れといて良かった!」

 ニーナの【アイテムバック】には、侍女達が面白がってお菓子をいっぱい詰め込んでいたのだ。

『お菓子だけでは困るでしょう』と、執事のドリアスがカップと茶器を入れ、『それならば』とエリーは熊さんを詰め込んだ。


 エリーのおかげで、寄り掛かる物があって助かった。


「そう言えば、お母様がショールを入れてくれたはず。疲れちゃったし、ショールを掛けて昼寝しよっと」

 ニーナは【アイテムバック】から目当てのショールを取り出し、それを掛けて眠りについた。

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