(14)便りと警戒

 次元の狭間に取り込まれ眠っていたニーナはやっと昼寝から目が覚めた。

「うーんよく寝たー。さて、どうしようかな?」


 ニーナはキョロキョロと見回すが、全く変化は無い。


「随分と大きな空間よね。境も無さそうだし迷子にならないようにしないとね。

 ここは家が建つ位に広いし、今度また来れるなら家を入れてみようかしら?」

 ニーナは冗談のつもりだったが『意外とイけるのでは?!』と思い直した。


「でも、私に家なんて買えるかな? 子供だしなぁ。ジルパパに言ったら買ってもらえるかな? 家は買えなくてもソファーとか、ベットとか。あとテーブルセットも欲しいよね!」

 ここに住む気満々のニーナであった。


「隠れ家に良いと思うのよねー! でも、まずは出られないとね!」


 ここに吸い込まれた時の事を思い出したニーナは、【手元の光】が鍵かと考え始める。

「キラッと光ってるのを見つけてじっと見たのよね〜。その前は……確か『アイテムバックみたいなものでウサギ柄の無い魔法』は無いかなぁって考えたんだっけ」


 すると、頭の中でモヤが掛かり始める。

「何だろう? これは」


 そう発した瞬間


〘次元の狭間を自在に扱い、里を隠し自在に出入りする者〖隠者いんじゃ〗〙


 頭の中に現れたのは、六芒星の周りに今までと同じ3重六角形そして周りには魔法文字の羅列が書かれていた。


「!! コレはもしかして! 出られるんじゃないかな!」


「〘次元の狭間を自在に扱い、里を隠し自在に出入りする者〖隠者いんじゃ〗〙」


 一瞬、光に包まれたニーナはよく分からない景色の中にいた。

「空色がオレンジだ。夕方まで寝ちゃってたのかな? あれ、この花何処かで見たような……」


「お嬢様! どうして此方に居るのですか? 公爵様と王都へ行かれたはずでは?」


 見知った顔の侍女が居た。

 領地の侍女でエリーと中の良いマリナという名前だったはずだ。


「マリナ、どうしてここに居るの? ここは何処?」


「ニーナお嬢様、ここは御領地の館裏にある、家族持ちの使用人に与えられた家の近くですわ! 公爵様はどちらにいらっしゃるのですか?」


(何で領地に?! もしかして、帰るには場所指定が必要だったのかな?)

 そんな事を考えながら、マリナへ返事をする。


「【塔】で新しい魔法をまた使ってしまったみたいなの。

 それで【次元の狭間】に居たみたいなんだけど……疲れてその中で寝ちゃったの。何とか出て来たらココにいたのよ!」


「ニーナお嬢様! とにかく執事様にお伝えしましょう! 王都はきっと大騒ぎですよ!」


 抱き上げられ、屋敷へ戻る。


「大変です、ガーランドさん! お嬢様がお独りで戻られました!」

 執事を見つけた途端、マリナは状況を説明する。

 この領地の執事はジルパパの乳兄弟でガーランドという。ジルパパの片腕であり、屋敷に住んでいたはずだ。


「お嬢様、無事戻られた事をまずはジルフォード様にお伝えしましょう! 他に何かお伝えしなければいけない事は有りますか?」


「今回、私が消えた理由の魔法文字と図陣ずじんが分かったと伝えて欲しいの。

 それと、多分だけれど場所を指定しなかったから此方に帰って来てしまった事を伝えて!」


「では、その様にお伝えしましょう。この時間ですと【梟便フクロウだより】が一番早いでしょう」


 ガーランドはサラサラと紙に書き上げ、内ポケットから笛を出し窓を開けると笛を吹く。


 やって来たのは、人が1人乗れそうな程大きなフクロウだった。


(これ、私が乗って帰った方が早いんじゃない?)

 ニーナは思うが、口には出さなかった。


 食事を摂り、マリナ聞いてみた。

「マリナ、今は使っていないベットやソファーとかの家具はないかな?」


「御座いますよ。案内致しましょうか?」


「連れてって! 使いたいものがあるの!」


 魔法石を利用した灯火ランプを持って、使わない家具を詰め込んだ部屋へと来た。


「ソファーは、確か……此方なんてどうでしょうか?」

 マリナがホコリ避けを捲り、見せてくれた物は可愛らしい花模様のソファーだった。


「コレにするわ!」

 ニーナは【アイテムバック】の口を開け入るようにと思考の中で指示をする。


 吸い込まれたソファーを見たマリナは最初は驚いていたが『流石ニーナお嬢様です!』と目元を緩ませ大喜びする。


 次に、ベットとティーテーブル、小さなキャビネットを詰め込む。

 帰り道、灯火ランプを詰め込みキッチンへと連れて行ってもらう。


「料理長、日持ちするパンや食べ物はある? この【アイテムバック】に入れておきたいの」


「御座いますよ、ニーナお嬢様。ですが何時もお食べになるパンより硬いですが大丈夫ですか?」


「大丈夫よ! それと、干し肉や干した果物の瓶も欲しいのだけど」


「御座いますが、干し肉はナイフが無いと食べられませんよ? どう致しますか?」


「ナイフなんてとんでもない! ニーナお嬢様はまだお小さいのですから、お辞め下さいませ。奥様に叱られてしまいます!」

 マリナは膝を着き、ニーナの顔を見る。


「わかったわ。じゃあ、チーズなら良いかしら? 食事用のナイフで切れるでしょう?」


「「それなら大丈夫ですね」」


 二人共賛成してくれたので、丸っとしたチーズもバックへとしまいこむ。


 料理長からお茶の入った水筒を受け取りながら明日、〖隠者〗の魔法を試しそれを使って王都へ帰るつもりであると伝える。


「「とんでもありません!」」

 二人は同時に言うが、ニーナは何となくやり方が分かっていたので譲らない。


「早くお父様とお母様を安心させたいし。早く戻りたいの」


「では誰か連れて行って下さいませ!」

 マリナは必死な形相で言う。


(んー、でも1人で試したいのよね。大人にバレたくない事もあるし)


「そうだ! ガーランドさんに相談しましょう!」


 そう言うマリナに連れられて、ガーランドの前に来たニーナだった。


「ニーナお嬢様。お独りで試したいのは分かりました。

 ですが今回の事を考えれば承知致しかねます。うちの息子を連れて行ってはどうでしょうか? 12歳になりますからある程度ならば護衛も出来ますし魔法もそれなりに使うことが出来ます」


「分かったわ。そうします」


 翌朝紹介すると約束され、ニーナは就寝した。


 翌日食事を終えると、ガーランドが息子を連れてやって来た。


「ニーナお嬢様、こちらが息子のニルスです。旦那様にお会いする迄は何処へ行くにもお連れ下さい!」


「ニルスと申しますお嬢様!『ニカッ』」

 素晴らしい笑顔を見せたニルスは、剣を腰に付け、型からショルダーを掛けていた。


「ニルス、今日はお願いね。そのショルダーには旅支度を入れてあるの?」


「そうですよお嬢様。多少の装備はしませんと!」


「私も一緒に行きたいのですが」

 心配そうにマリナとガーランドが言う。


「大丈夫よ! 多分一瞬だから。さあニルス行きましょう?」

 手をニルスに差し出して二人は手を繋ぐ。


「ニーナお嬢様。こちらの笛をお持ち下さい。長い笛は梟便フクロウだより、短い笛はこっそりと知らせたい時に便利な雀通信です。

 この2つは〖念話〗を使って鳥達に届け先を指定します。ニルスも持っていますからはぐれるような事態になったらお使い下さい。

 それと、ニルス。あちらに着いたら直ぐに梟便フクロウだよりを送りなさい」


「わかりました父上」


「それでは行きましょ、ニルス。〘次元の狭間を自在に扱い、里を隠し自在に出入りする者〖隠者いんじゃ〗〙」


 ポワッと光に包まれて見覚えのある空間に来たと思えば、居たのは自分だけだった……。


「アレっ?? これってもしかして人を連れてくるのは許可指定しないとダメとかいうやつ?」


 うーん、うーんと悩んでいると頭に映り込む魔法文字。〘我指定する、時と人なり〖むすび〗〙


「おっ! コレが連れてくる魔法かな? とりあえず戻ろうー」


 ポワッと光に包まれニーナは元の食堂へ元って来た。


「「「ニーナお嬢様!」」」

 戻ってみれば、半泣きのマリナとガーランド、ショックを受けた顔をしたニルスが居た。


「ごめんね、魔法が1個足りなかったみたい! さぁやり直して行きましょ!」


「今度は置いて行かないで下さいよ、ニーナお嬢様」

 そう言ってさっきよりもしっかりと手を繋ぐニルス。


「〘我指定する、時と人なり〖むすび〗〙〘次元の狭間を自在に扱い、里を隠し自在に出入りする者〖隠者いんじゃ〗〙」

 

 再びポワッと光に包まれ、ニーナはニルスを連れて【次元の狭間】へと戻ってきた。


「ココがお嬢様の言っていた魔法空間ですか!」

 ニルスは肩掛けバックから灯火ランプを出しスイッチを入れると辺りを確認する 」


「ニルス、そのまま明かりを動かさないでいて。置きたい物があるから」


 そう言ってニーナは次々と家具を置いていく。


「ニーナお嬢様。そんな物持って来たんですか……。ここに居たら、皆探してしまいますよ?」


「何が起こるかなんて、分からないじゃない? 今回もお母様が入れてくれたショールと、エリーが入れてた熊さんが無かったらお昼寝も出来なかったのよ?」


 それを聞いたニルスは呆れた顔をしていた。


「さて、行きましょ!〘〖結〗〖隠者いんじゃ〗王都邸宅玄関前!〙」


 ユラりと光に包まれ、2人は王都邸宅の玄関前に立っていた。


「成功したー! ただいまー」


 声を出し、ドアを開けようとしたが一人では開けられない。ニルスが呼び鈴を鳴らしドアを開けてもらう。


「ニーナお嬢様!! 皆心配していたのですよ!!」

 寝ていないのか? 顔色の良くない執事のドリアスの声が震えている。


「僕はガーランドの息子ニルス。ジルフォード公爵様にお会い事後報告したいのですが。お会い出来ますか?」


「勿論ですとも! さあ早くお入り下さい」


 ドリアスはニーナの手をそっと包んでから立ち上がり2人を案内する。


「「ニーナ!!」」

「「「「ニーナお嬢様!」」」」


 ジルパパもイリスママも目元が赤い。泣いたのかもしれない……。


「何処へ行っていたんだニーナ! 私はニーナが消えた瞬間喪失感で死にそうだった!

 ニーナは王城を探しても居ないし!!

 それをイリスに伝えなければいけなかったんだぞ! どれだけ皆心配した事か!」


「そうよ! ニーナ。梟便フクロウだよりが来るまで何も手につかなかったわ!」


 イリスママはポロポロと泣き出してしまった。


「ごめんなさい。でも新しく魔法が出来て。その魔法で移動出来たの。どれくらい出来るのかまだ分からないけど……」


「ジルフォード公爵様。父上より報告する様に言われているのですが宜しいでしょうか?」


「報告を聞こう」


「ニーナお嬢様は夕刻に領地の館裏へ現れたそうです。お嬢様にお聞きした所【次元の狭間】とお嬢様が呼んでいる空間を経由し移動出来るようです。

 お嬢様がなかなか現れなかったのはその空間でお昼寝なさっていたそうです……」


「……そうか。昼寝をしていたのか……」


「エリーが熊さんを【アイテムバック】に入れてくれていたし、お母様もショールを入れてくれていたでしょう? 疲れたからクッキーを食べてお昼寝したのよ!」


 ニーナは【アイテムバック】は優れ物でしょう!! と言いたかっただけなのだが。

 皆は、力が抜けていく気分であった。


「ニーナ! 戻ったんだね!」


 そこには居るはずの無い、ガイアス王子様が居た。


「王子様、ニーナが只今戻りました。ご心配おかけ致しました」


「お父様、何故お家に王子様がいらっしゃるのですか?」


「ニーナ、あの後本当に大勢の者がニーナを探して心配していたのだよ。王子様も心配して一番最初に連絡が来るのはこの屋敷だろうとお泊まりになったのだ」


「そうなんだよニーナ。本当に心配したんだよ? ところで、そこに居る男の子はニーナと帰って来た子かな?? 君の名前は?」


(ん? 何でかニルスの事を聞いた王子様が機嫌悪そうなんだけど……気のせい?)


「私はニルスと申します王子様。私の父は公爵様の乳兄弟で御料地の執事をしており此度こたびはニーナお嬢様の護衛を申しつかりました」


「そうなの。ニーナ、危ないことは無かったかい? 大丈夫? 心配したよ」


 王子はそう言うと、ニーナの前にしゃがみそっと抱き寄せた。

 離れた後、ニーナに王子はニッコリと笑い、そしてニーナの手を引き公爵夫人へと連れて行った。


『あの男の子は危険だ。ニーナは渡さない!! 早くニーナと婚約をしなければ!』

 王子はニルスを警戒対象と指定した。

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