(15)あの柄はここにもあった!

 王都の屋敷へ帰宅後。ニーナは着せ替えられ王子とジルパパそしてニルスと共に【塔】へと行くことになる。


「ニルス、君は暫くニーナ付きの護衛をして欲しい。歳はある程度近い方が良いだろう。それと、ニーナには女児の乳兄弟が居るべきだったな……。こんな事で考え直させられるとは。領地へ戻ったら、見習いとして誰か付けよう」


「そうね。ニーナにも乳母と乳兄弟を付けるべきだったわね。私の楽しみだけで付けなかったのは良くなかったわね」

 イリスママはしょんぼりとし、ジルパパは誰に歳の近い娘が居たかと思い出しているようだった。


 皆の支度が整い、馬車で【塔】へと行く。

 ニルスは『自分は馬で行く』とジルパパに言ったが、ジルパパが王子様に許可を取り馬車へ同乗する事となった。


「ニルス、ニーナは何を仕出かすかまだ分からない。なるべく近くに居るように!」

 

 ジルパパに念を押されてしまった……。

 単独行動出来ない、クスン。


 王城へ着くと、王子様は一旦部屋へと戻って行った。

【塔】へと来たジルパパ、ニルス、そしてニーナの3人はエイダに周りをぐるぐると回られる羽目になった。


「ニーナ! 大丈夫でしたか! 良く帰って下さいました!! 私の楽しみが全て無くなったのかと思いましたよ。どれだけ探しても〖呼び掛け〗の魔法を使っても見つからないのですから。もうこの手を握る事が出来ないかと……」

 そう言いながら、エイダはしゃがみニーナの手に頬ずりをする。


「エイダ離れろ! ニーナに変な病気が移りそうだ!」


「なんて事を言うんですか。病気なんてありません。ただ、ニーナを鑑賞するのが好きなだけです!」


「鑑賞を許されるのは私だけだ! ニーナ、此方に来なさい」

 ジルパパはお怒りである。


「いえいえ、ここは【塔】ですからね! 私が優先です。ところで彼は誰ですか?」


 エイダはニルスの方へと一瞬目をやると、ジルパパに質問した。


「この子は私の乳兄弟の息子でニルス。暫くニーナに付いてもらう事にしたんだ。心配だからな」


「なるほど。彼も魔法が使えるのか?」


 ジルパパはニルスへ目をやり、ニルスは返事をする。

「はい。ある程度は使えます」


「では、今日は一緒に〖アイテムバック〗を作ろうか。こちらでも収納に適した物に刺繍させ用意させよう」


 エイダは小姓の1人に騎士達がよく使う、腰鞄ヒップバッグにウサギ柄の刺繍をして貰えるように『針子部屋』への伝言を頼んだ。


「さあ、まずは【アイテムバック】の作成と確認だ。後でしっかり昨日の事を話してもらうよニーナ」


 そう言うと、エイダはニーナを抱き上げ部屋へと歩き出してしまった。


「止めろエイダ、返せ!」

 ジルパパはニーナを奪い取り、ニーナに頬ずりする。


「仕方がない、未来の義父殿に譲るか!」


「何を言う! ニーナはやらん!」


「エイダ様、お父様。私はまだ何処にも行く気はありません。それより早く部屋へ行きましょう」

 疲れた顔をしながら、大人達を窘めるニーナとそれを見ながら呆れるニルスだった。


 部屋へと着けば、昨日と同じエブラフ老師と5人の宮廷魔法使い、そして宮廷魔法いではないローブを着た人物が居た。エブラフ老師と同じローブである。


「おや、おかえりニーナ嬢。旅は楽しかったかい?」

 エブラフ老師はそう言いって手招きする。


「師匠、ニーナを少しは叱って下さいよ」

 エイダは溜息をつきながらエブラフ老師に話しかける。


「仕方ないだろう? 新しい魔法には多少のつきものじゃろ。ニーナ、これを持っていなさい」

 エブラフ老師は自分の腕から一つの腕輪を外し、胸元のポケットから出した紐を通してニーナの首へと掛ける。


「これはな、儂の呼び掛けに反応する。コレを持っている者とは〖念話〗が使えるのだ。だが【次元の狭間】までは届くかわからぬが何となくは『呼ばれている』等伝わるかもしれん。お守りだと思って持っていなさい」


「有難うございます。エブラフ老師」


「それと、こやつを紹介しておく。ミルドレッド来なさい」


 老師と同じローブを着たミルドレッドと呼ばれた“彼女”が近づく。


「ニーナお嬢様、私はエブラフ老師の隠れ里で助手をしながら修行をしているミルドレッドと申します。

 大変素晴らしい魔法が出来たとお聞きして今日は此方へ参りました」


 ミルドレッドは、少し尖ってはいるがエイダや老師よりも短い耳をしていた。エルフではあるのだろうが。


「ミルドレッドさん、こちらこそ宜しくお願いします」


「さあ、ミルドレッドも魔法図陣を確認したら【アイテムバック】の検証を始めようか」


 エイダの言葉で皆は作業に着く。


 各自巾着や貨幣袋を持ち真剣な顔をしたかと思うと……

「「〘我、次元の狭間に収納し取り出す者〖アイテムバック〗〙」」

 と声を上げた。


 各々、交換して中の広さを確認する。

 結果としてはニーナの物が一番広く、二番手はエブラフ老師、三番手はメンバーとしては意外なジルパパだった。


「やはり親子だからな! ニーナの次でないのは老師が居るから仕方ないが!! ハッハッハ」


「何を言う! 私のだって広いぞ!」

 エイダも一所懸命主張する。


「お前はアレスに負けているでは無いか!」


 そうなのだ。始める前に戻ってきた魔法騎士のアレスの作った【アイテムバック】の方がエイダよりも広かったのである。

 どうやら、【風属性】の属性魔力量が関係しているようだ。


「私のだって広いんだ! 見ておれ!」


 エイダは言うと、ポイポイと家具を自分の作った【アイテムバック】へと放り込んでいく。残りの椅子がニーナが座っていた椅子だけになると、エイダはやっと正気になったようだった……。


「ニーナ、済まなかった。誰か! 菓子と茶を持ってきてくれ」


 エイダはそう言いながら、入れたばかりの家具を出しては並べていく。


「これは便利じゃのぅ」

 エブラフ老師は顎に手を当て笑って、持ってこられたばかりのミニケーキを食べていた。


 ニーナの隣では、ニルスが己の作った【アイテムバック】を覗き込んだり手を出し入れして考えているようだ。


「ニーナお嬢様、コレの中はどうなっているのでしょうか? お嬢様は食べ物等今朝もご自分の【アイテムバック】へと入れていましたが、食べ物は痛まないのですか?」


 確かに、そうだ。ニーナもまだ確認出来ていないのである。


「うーん、まだ分からないのよね。今まで入れていたのは飴とリボンだから。野菜でも入れて試してみましょ!」


 作った【アイテムバック】には、各々の名前を書いた紙を付け中には野菜を一つ入れる事となった。


【風属性】と相性の良い魔法使い達が時々入れ替わりでやって来ては【アイテムバック】を作っていく。そして、ニーナは1個ずつ中を確認して行く。


 大きなテーブルを出して並べてもらい、だいたいの中の広さで順位をつけて順番に並べていく。


 それを1人が紙に記入し終えた頃、王子が戻ってきた。


「ニーナ!【アイテムバック】の進みはどうだい? 途中で針子部屋の使いと会ったから連れてきたよ!」


 5人程の使い達が、腰鞄ヒップバッグを幾つも抱えていた。


「此方の腰鞄にウサギ柄を刺繍致しました。ですが、革ですので殆どは簡単なステッチで型だけを刺繍しています。

 そして此方の二点だけは、中身も刺繍糸で埋め、可愛らしいウサギの顔を表してみました」


 確認すると、殆どの物はアウトラインだけで色々なウサギ柄を表しているが、二点だけは中も色糸で埋められ、日本でも有名だった『バッテンお口のウサギちゃん』に似ていた。


(私も家に帰ったら絵を描いて『バッテンお口のウサギちゃん』柄を刺繍してもらお♪)


 ニーナは1人ニヤニヤしていた。


〈お嬢様ニヤニヤしてる、絶対変な事を考えてるな? 父上に怒られないように気をつけなければ〉


 ニルスは何も起こらない事を祈るだけだ。


 そのニーナを見ているニルスを目にした王子は。

〈またニーナを見ている!〉

「ニルスだったな。この貨幣袋も魔法を掛ける様にと父上から言われて持ってきた。コレを配ってくれ」


『ニーナを眺める隙を無くしてやろう! 作戦』である。


 貨幣袋は20個あった為、先程の順位20名で作った。


 一番広い空間の貨幣袋は『ニーナ作』である。

 その中を確認するエイダは呟いた。


「これ、国家予算が入るんじゃないか?」


 ニーナは、その貨幣袋には加減をせず魔法を掛けたのだった……。

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