(7)ニーナ、王都へいく

 ジルパパ不在は3日続いた。

 ニーナは不安な気持ちのまま、『やらかしたウサギさん』を抱えジルパパの帰りを待っていた。


 転移陣は便利に思えるが、誰でも何時でも使える訳では無いようだ。

『侯爵であるジルパパだから、緊急事態の出勤に使うことが出来る』と決まっているらしい。

 そもそも、転移陣起動には相当の魔力保持者ではなければ起動出来ない。

 先日、宮廷魔法使いは魔力量の多い保持者だから塔へ帰るために使えたのだ。


 ニーナはまだ幼い為、魔力量を正確には測ったことがない。

 まあ、神様の『お願い』を叶えることと『新しい魔法』が出来た事を考えると所謂いわゆるチートなのだろう。


『コンコン』

「ニーナ、居るかい?」

「はい」

「ニーナに話す事があってね。ちょっと座って話そう」

 そう言うと、ジルパパはソファーへやって来てエリーにお茶を頼んだ。


 お茶を待つ間、ニーナは魔法の本にしおりを挟みテーブルへ置く。

 そして、ウサギさんのぬいぐるみ横へと座り直した。


「おや、そのウサギさんは何時もベットに居る子だろう? しかも、耳にいつもは無いリボンが付いてるね」


「夢の中でこのウサギさんが助けてくれたから、お礼にリボンを付けてあげたの。それで何時も助けてくれるように連れて歩いてるのよ! 大事な子なの」

 ニーナは連れて歩いてるアピールを欠かさずしておく。


「そうか、パパもお礼を言わなければ。ウサギさんニーナを助けてくれてありがとう」


「さて、王宮へ行ってきた話をしなければ。実は少し困ったことになってしまってね。

 塔の長であるエイダ様が『例の本』を確認したのだが、魔法の痕跡は見つかったけれど方法が全く分からないと言っていてね。

 暫く王都へ滞在して、ニーナの魔力量を測ったり検査もしたいと言い出してしまったんだ。

 もちろん、パパも行くし一緒にいるよ! だけれどママは塔へ入る事が出来ないんだ。ニーナは大丈夫かい?」


 どうやら、ニーナがイリスママと離れる事を心配していたようだ。

(私の生きた時間は17年間+3年間だから全く気にならないのだけど……そうだなぁあるとすれば……)

「お父様、ウサギさんを連れて行ってもいい? 初めて行く所だから心配なの」

 ニーナはウサギの秘密を知られない様に隠さなければならない。その為連れて行くことにした。

「もちろん、良いよ! 検査の時だけウサギさんには座っていてもらおうね」

 ジルパパはホッとしたような顔をしていた。


「急ぎでね、2日後には出発しなければならない。朝はゆっくりでてお昼に着く位で考えている。ニーナは王都が初めてだからな」

 

 本来、王都の館に住まい、王宮へ毎日通うはずらしいのだが自領が王都の隣であり、また『幼い内の子育て中は自領でのびのびと!』と自領に居たらしい。

(王様、ジルパパがごめんなさい(汗))


「さあ、エリーと一緒に何を持っていくか考えようか! 後でママも呼ぼう!」

 その後、夕食前迄荷物選びをした。

 皆、心配性である。

 いくら子供とはいえアレコレ選びすぎだと思ったが『ウサギさん』を離せない以上、皆は『そんなに要らない大丈夫だ』と言っても信じてくれないのである。


 そして、出発の朝。

 何時と同じ時間に起き、ゆっくりと食事を摂る。

 食後「馬車酔いするといけない」と苦い薬を飲まされ消化の為少し時間をおいてから馬車に乗り出発した。

 ニーナにとって、自領の中での移動も馬車は初めてだった。


 本当に『箱入り令嬢』だったのである。


 自領の中の商店や花畑、牧畜の様子や農地。今まで知らなかった景色が見える。


 そして、一段と整う街道から、家々が増えていく。

 そろそろ王都の様だ。


「お父様、そろそろ王都ですか?」

「そうだよ。もう暫く行くと石像の立つ門があるそこを通過すれば王都入りだ」


 ニーナは楽しみにしながら、門を探した。


 少しすると門らしき物が見えてきて、目を凝らすと確かに門柱には何か石像があるようだ。

(どんな門かな?)

 門の前には、列があるかと思っていたが徐行しているだけだった。

 近くに来て、石像を見たニーナは叫んだ。


八咫烏やたがらす!? 何で?」


 石像は三本足のカラス、八咫烏やたがらすだったのだ。

 目には宝石の様なものが嵌っている。


「おや、ニーナは八咫烏やたがらすを知っていたのか。本の挿絵なんてあったかな?」

 ジルパパは言いながら考える様な顔をする。


 

「あの石像にはね、魔石が嵌っているのよ。人数や犯罪歴があるかどうかなど調べているのよ」

 イリスママは説明しながら頭を撫でた。


 門番が居るのかと思っていたが……。

 殆どを八咫烏やたがらすに任せており門を守る騎士らしき者は少なく待機所に詰めているものが多いようだった。


 門柱をドキドキしながら無事通り過ぎた。 

 ニーナは王都に入り、更に王都の館へと向かうのだった。

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