(6)ニーナとウサギ

「ニーナお嬢様、お目覚めですか?」

 ニーナはその声で起きた。

 ニーナの世話をしてくれている、侍女のエリーの声だ。

 意外にも、イリスママは乳母を雇わずその手で世話をしてくれていた。

 今でも何から何までやろうとするのを「仕事が無くなります」と侍女達に泣かれて任せる様になったようなものなのだ。


 顔を拭われ、着替えをしさぁ髪をという所でニーナはベットに戻って行きウサギを連れ出した。

(いけない! 持ってないと忘れちゃいそう(汗) )


「ニーナお嬢様、どうされたのですか? ぬいぐるみをお持ちのようですが」


「(言い訳を考えなきゃ!)よ、夜夢をみて! 怖い夢だったけど、このウサギさんが助けてくれたの!」


「まあ! そうだったのですね。確かにぬいぐるみは魔よけとも言いますしね。

 さあ、ニーナお嬢様。御髪おぐしを整えましょう。奥様もおまちですよ」


「分かったわ。」答えたニーナはウサギのぬいぐるみを抱えながら鏡台の椅子に座った。


 そして、身支度が終わり侍女エリーと母の待つ食堂へとウサギのぬいぐるみ抱いて進む事となった。


「ニーナお嬢様、ぬいぐるみはワタクシが運びますわ! さあ、お任せ下さいませ」エリーが言う。


「ダメ! この子が居ないとダメなの!」

 焦りながら、拒否をするニーナ。

(危ない、取られたら何があるか分からない!)

そんなやり取りをしながら、辿り着いた食堂にはイリスママと給仕しか居なかった。


「お母様、お父様はどうしたの?」

 普段必ず居るジルパパが居ないのだ。

「それがね、お父様は昨日の夜に宮廷から呼び出しがあって。帰ってこなかったの。説得してるんだと思うわぁ」

(ヤバい! あれか。〖修復〗の件か……ごめん、ジルパパ!)


 ニーナがそんな事を考えていると。


「ニーナ、どうしてウサギさんのぬいぐるみも連れてきたの?」

イリスママにも聞かれた……。

「夜に怖い夢をみたの。私を連れていこうとした地龍を、このウサギさんがやっつけてくれたの! まだ怖いから連れてきたの」


(こんなもんかな?)ニーナは油断していた。


「あら、ウサギさんは頑張ってくれたのね! じゃあもっと頑張って貰うために、お母様がご褒美をあげないとね!」

 そう言ってすぐ側にあったキャンディをウサギさんのポーチへと入れていた!!!

(まてーーーーッ)

「ぎぇっ」

 余りにも焦り冷や汗と共に変な声も出た。

「ニーナ、変な声を出してどうしたの?」

 心配そうな顔をして、ポーチから引き抜いた手をそっとニーナの額へと持って来て熱を測っているようだ。


(もしかして、気づかれなかった?)

「ニーナ、食事は出来そう?」

 イリスママは心配そうな声で言った。

「ウサギさんがニーナとと仲良しになってくれなきゃ食べない!」

 

 拗ねたような顔を作って、ウサギさんを触って欲しくないアピールをする。

(困るからね! 本当に困る! まだ試す事も殆どしてないのに何かあったらどーするの!!)

「ごめんなさいニーナ。ニーナのお友達は取らないからお食事しましょう? ね?」


 何とかアピールで、守る事出来そうだと安心したニーナはジルパパの問題を忘れて食事を楽しんだのだった。

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