(20)働くジルと余裕
「おいジル、俺はハンコ屋じゃないぞ? 細工物も出来るがよぅ。彫金も得意だがこんな可愛い図案で作れって言うのか?」
ジルパパは懇意にしている鍛冶屋に来ていた。
「娘が見つけた新しい魔法の図陣なんだよ! 安心して頼めるのは、ギルの親父しか居ないんだよ。頼むよ」
「コレが図陣だって? ウサギ柄じゃないか! こんなの見た事ねーぞ。あのミルク調合を発見した娘っ子が見つけたのか?」
「そうなんだ! うちの可愛いニーナが見つけて騎士や護衛に使いたいと言ってな! 優しいだろう?〖守護〗魔法に使うんだぞ」
「〖守護〗だって?! 忘れ去られた魔法じゃなかったか?」
「本当だよ、この絵を見てくれ。〘火花より生まれし炎の具現、火の
「本当だな、耐火魔法なら燃えはしないが火に包まれるからな……」
「これは、汚れや物理攻撃も跳ね返すのだよ。これの重要性が分かるだろう?」
「確かに。仕方ない、その依頼受けてやる。明日の夜に取りに来い仕上げておく」
「ああ、良かったよ! これでニーナの笑顔が見れそうだ! じゃあ明日」
ジルパパは馬車で移動する。
ジルパパは騎士や護衛も大事だか、魔力量を増やすのが間に合わずニーナに格好よさを見せられなかった事を気にしていたのだった。
ジルパパはもう2件寄らなければならなかった。帯剣ベルトの注文と用品店だ。
帯剣ベルトを王都の革細工店にまずは注文し、 領地の革細工師達にも作らせる予定である。
「やあ、ヘイアード! 帯剣ベルトを在庫がある分頼みたいんだが」
革細工店に入ったジルパパは店主に声を掛ける。
「おや、公爵様。ご自分で来られるなど珍しい。在庫って全部持ってく気かい?」
「ああ、騎士団や護衛の分を新調したくてな。あるだけくれないか?」
「ちょいと待ってくれ。あるのは2箱くらいだぞ?」
「100個入りか?」
「そうだ。端数は流石になぁ……。10本は置いてってくれよ客が来たら困る」
「それで手を打とう。お代を計算してくれ」
「あいよ」
ジルパパは帯剣ベルトを馬車に積み、『ハワード用品店』へ向かった。
普段、カート公爵家で使う物は4層目にある商人や職人から買っている。だがこの5層目で一般向け中心の商店や職人の工房のなかでも『ハワード用品店』だけは別だ。
『ハワード用品店』の品は安くても品が良いのである。店主であるアレクシスの人柄が見える店であった。
『カラン』とジルパパはドアを開ける。
「やあ、アレクシス。遅くに悪いな」
ジルパパは
「カート公爵様、お待ちしておりました。幾つかお品を出しておきましたよ」
そう言ってカウンターに品物を並べる。
出された物はヤギ革の白い手袋を幾つかと何色もの刺繍糸、紙束にそしてスタンプインク。
「こちらで宜しいですか?」
「ちょっと見せてもらう」
ジルパパは革手袋を確認し、手に嵌めてみる。サイズは良さそうだ。幾つかサイズを変えて買っていく事にする。刺繍糸はウサギに使う白やピンクを中心に花に使えそうな色も買う。白は目立たず刺繍するのにも使う為多くいる。
「アレクシス、白糸はもっとあるか? ヨモギ染めの糸もあると助かる」
「ありますとも。ヨモギとは珍しいですね。魔法図案ですか?」
「流石アレクシスだな。ローズマリーでなくても分かるとは。ニーナの為に買っていこうと思ってね」
「そうで御座いましたか! ニーナお嬢様でしたらウサギがお好きでしたよね……。最近手に入りました物で『ウサギのぬいぐるみ型』のショルダーバックが御座いますよ。
中に入る物は少ないですがぬいぐるみ型は連れ歩く友達として人気が出てきております」
「ほう! それは良いな!〖アイテムバック〗魔法の使えるニーナなら問題ない物だ」
「〖アイテムバック〗とは何で御座いますか?」
「【次元の狭間】に物を保管する魔法で、物理的に入る大きさより沢山の物を保管できる。今の所、食べ物も腐っていないようだ」
「! それは是非お取引をしたい物ですね! ニーナお嬢様だけしかお使いになられない魔法なのですか?」
「いや、もう【塔】には報告済みで魔法を使えるものは増えて居るが……。騎士などの装備優先で作られているのでな。まだ商用は作ることを許可しないかもしれん」
「なるほど。商用利用出来るようになりましたら是非私の店や商人に使わせて下さい。楽しみにしておりますよ」
そんな話をし、ジルパパは帰路に着いた。
翌日の夕刻。
ニーナはジルパパからウサギ柄の焼き印を貰った。
「ニーナ、その焼き印でこの帯剣ベルトに印を幾つか押しておいたぞ! この出来でどうかな?」
「お父様! とても素敵です! こんなに可愛いウサギさんが、小さくてもしっかり押されています。これなら魔法が良く掛かるでしょう!」
「そうか、それは良かった。それでな、ヤギ革の手袋もこのインクでその印を押したらどうだろうか? 公爵家の護衛だけ付けてはどうかと思い買ってきたのだ。すり代わりが出来ぬよう目印にもなるだろう?」
「それは良い案です! 王都では帯剣出来ない場所もありますから」
ジルパパは頑張った! ニーナの気を引きたい一心で。
「それとな、こんな物を買ってきたのだ開けてみてくれ」
ジルパパはそっと自分の後ろからソレを出す。
「何でしょう?」
ニーナはゆっくりと包を開く。
中からは『立体型ウサギちゃんバック』が出てきた。日本に居た子供の頃、欲しかった物である。
「お父様! 貰っても良いのですか? ウサギさんです!」
「ニーナに買って来たのだから、可愛がってやってくれ」
「はい!〖アイテムバック〗!」
いきなりウサギさんを【アイテムバック化】したニーナは、肩に掛けていたウサギポシェットから物を入れ替え始める。
それを最初はにこやかに見ていたジルパパも途中から不安そうな顔をしていく。
「ニーナ、そんなに入れていったい何処へ行くつもりだったんだい? まだ入っているのか?」
中からはパンやチーズがいっぱい出てくるし、果物も、ニーナの好きなお菓子やカップ、ティーセット、
そこまでは良かったが着替えや枕までも、ニーナは持ち込んでいたのだ。
そして極めつけ、イリスのショール。
イリスの物は入っていても、ジルの物は無かったのである。
「ニーナ、何でママの物は入っているのにパパの物は無いのかな?」
「だって、お父様の物は大事な物が多すぎて貰えないじゃないですか」
「!! そんな事ないよニーナ! これをやろう後これも!」
ジルパパは着ていたジャケットを脱ぎ、ウサギちゃんバックへと突っ込み、カート公爵家の紋章が入ったロケットペンダントをニーナの首に掛けてやった。
何時も大切に掛けていたロケットである。中には親子3人の絵が入っている。
「お父様が大事にしているロケットでしょう? 良いのですか?」
「ニーナが持たなくてどうする! それはニーナがカート公爵家の娘である印だ持っていなさい」
頷いて嬉しそうにしたニーナを見て満足したジルパパだった。
翌朝、ニーナは1人で1つ貰ってきた帯剣ベルトに〖守護〗を描ける事にした。
「うーん、【範囲】って決められないかなぁ? 装着してる者だけ守れると良いのだけど」
うーむと悩むニーナだが、【創造魔法】ができる気はしない。仕方ないのでイメージ重視で〖守護〗を掛けることにする。
「この帯剣ベルトを装着する者だけ守れますように……〘守りし印を持つ物、防汚し防御す、時の流れも忘却せよ〖守護〗〙」
魔力で包めば、覚えのある感覚が。
〘指し指定す物、大きしものよ、小さきものよ選ばれよ〖範囲〗〙
頭に浮かぶは円に包まれる八芒星。その周りには魔法文字列が並ぶ。
「やっぱり、【創造】するよりこっちの方が魔力量も少ないのねー。とりあえずメモしとこ」
ニーナは〖守護〗と〖範囲〗を掛けた帯剣ベルトを置き、紙にメモをとる。メモをとったニーナは帯剣ベルトを持ちエリーを待つ。
「あら! おはようございますニーナお嬢様、お早いですね」
「帯剣ベルトを完成させてたのよ! ニルスにあげるの!」
「そうでしたか! ニルスは喜ぶでしょうね」
エリーと支度をしたニーナは食堂へと行く。
食堂に着くと意外な人物に会った。エイダとエブラフ老師である。
「やあニーナ、会いたくて来てしまったよ!」
「エイダが早く〖守護〗を使えるところを見せたいとうるさくてのぅ。来てしまったわい」
「あれ? もしかしてお父様は連絡しなかったのですか? 魔力量の使用量を軽量化出来ましたってお父様に伝えたのですが……」
「「何だって?! 軽量化だと!」」
椅子をガターンと倒し、2人は立ち上がって声を上げる。
「はい、お母様も出来ましたしそこに居るニルスも出来ましたが……。すみません」
「だから言ったじゃないですか! エブラフ老師。早く行こうと!!」
「お前だって、寝ないと子供なんだから起こしては可哀想だと昨夜はやめたじゃないか!」
「あの……、出来たのは2日前の昼です……」
「「……そうか。3人で荒野にいた時か……」」
ニーナは申し訳ない気持ちではあったが、帯剣ベルトの事を思い出す。
「ニルス、この帯剣ベルトなんだけど〖守護〗を掛けたものなの、あげる。付けている人は守られるから使って欲しいの」
「よろしいのですか?」
「ニルスだから持ってて欲しいのよ」
そう言ってニーナはニルスに帯剣ベルトを渡す。
「ニーナ、図陣はどうやって付けたのだ? 革にあの刺繍は辛かろう」
「実は一昨日、お父様に頼んで焼き印を造って頂いたのです。革なら焼き印が良いと思ったので」
「なるほどなぁ。でもあの図をその大きさで、しかもこの速さとは。何処に頼んだのだろうな?」
「お父様が懇意にしている所だと言っていました」
「ジルフォードめ、報告を怠りおって。だから昨日は早く帰ったのだな!」
エイダは悔しそうにしているが、元々出来ていたエブラフ老師は焼き印の方が気になるようであった。
「ニーナ、この焼き印だが。儂のベルトにも押してくれぬか?」
「ずるいですよエブラフ老師!! ニーナ私もお願いします!」
そのやり取りを見ていたイリスママは。
「ニーナは人気者ね♫」
と、のんびり笑っているだけだった。自分はちゃっかり〖守護〗の魔法を体験済みなので余裕であった。
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