(17)守りしもの

 その夜、針子部屋の【魔法刺繍職人】の二人は【特定希少物】指定の【守りのローブ】の刺繍再現を徹夜でやらされていた。


「アリア婆さん、ここの刺繍見てください」


「ここは、こうだろう?」

 二人は協力して翌日の夕方には『ローブの刺繍再現物』を2枚仕上げた。すぐに【塔】へと持っていく。


 1枚はローズマリーで染めた布、もう1枚はヨモギで染めた布である。


「エイダ様、この2点ご確認下さい」


「うむ、このウサギ様柄もよく再現出来ておる! 片足で立ち手を繋ぎ片手にガーベラを持って掲げている様子も大変素晴らしい。流石だなアリア婆さん」


「エイダよ、この投影魔石にも写してくれ。 再現もして残しておきたい」

 エブラフ老師は青い魔石を持ってやってきた。


 その日もニーナは【塔】に居た。毎日出勤している気分だ。


「おや、そちらのお嬢様。ドレスの襟刺繍が素敵ですね。ウサギ柄が守りローブの様だわ」

 アリア婆さんが言ったように、今日のニーナのドレスは襟元に2匹のウサギが手を繋いでいる刺繍がしてあった。


「ウサギ柄が好きなのよ! ガーベラを持たせたらよく似てるわね!」


「宜しければ! そのウサギ柄にガーベラを刺繍させて頂けませんか? きっと良い守りになる気が致しますよ」

 アリア婆さんはニコニコと言う。


「お願いしたいわ! このままでも出来るかしら?」


「少しの間、椅子に座って大人しくして下さればすぐに出来ますとも!」


 ニーナは刺繍を頼み、椅子に座って楽しみにしていた。

 出来上がった刺繍は、ピンクのガーベラだった。2匹のウサギは片手に大きめのガーベラを持っている。


「アリアお婆さんありがとうございます」


「いやいや、刺繍部屋では最近花模様の刺繍をする機会が減っていたから楽しくやらせて頂けました。ありがとうございますお嬢様」


「ニーナ、こちらの2枚に〖古代物生成〗の魔法を掛けて下さい。【守りのローブ】と同じ効果があるか調べますから」

 エイダは魔法に関することになると3歳児であっても容赦なく使う。たまには昼寝をしたくなってきたニーナであった。


「では。 〘魔力を使いしいにしえの人より続く物、再び繰り返し新たに造られる〖古代物生成〗〙! 守りの刺繍よ再現せよ! 」


 すると2枚の刺繍は魔力に包まれ片方が光った気がした時、襟元が暖かくなった。

『〘守りし印を持つ物、防汚し防御す、時の流れも忘却せよ〖守護〗〙』


(……。やっちゃったよ、また何か頭に図陣もきたよ(泣))


「おお! ニーナ、襟元が光ってますよ! もしかして何かあったのでは?!」

 こっちを振り向いたエイダが真っ赤な顔をして興奮している。


「後でちゃんと教えますから。エイダさん、エブラフ老師そちらの【守りの刺繍】はどうなりましたか?」


「うむ、そうだな。火魔法でも掛けてみるか?」

「その前に、水魔法じゃろう。【守りのローブ】の刺繍に掛けた事と同じになるか確認せねばな」

 エイダとエブラフ老師は話し合い、水魔法が試された。


「〘水よ、いでてこれを与えよ!〙」


 ローズマリー染め生地とヨモギ染め生地では、ヨモギ染めの方が効果的であるように見える。魔力浸透性が良いのかもしれない。


「フムフム、現在の刺繍にはローズマリーの方が相性が良いとされているが、これはヨモギ染めの方が良いようだ」


「次は、火魔法じゃな。〘火花より生まれし炎の具現、火の輪舞ロンドで包め〙」


 エブラフ老師から放たれた火の輪は布を包もうとするが、布が弾いているようで寄せ付けなかった。


「エイダよ、これは広い場所が必要そうじゃの! 思いっきり魔法を放らないとダメじゃ」


「エブラフ老師、あとで荒地へ転移して試しましょう! ところでニーナ、その襟元は魔法でも掛かったのですか?」


(目ざといな、エイダさん……)


「アリアお婆さんが刺繍にガーベラを足して下さったでしょう? あれが効いたみたいで〖守護〗の魔法を覚えたんですよ。図陣は〖古代物生成〗と同じで魔法文字列は『守りし印を持つ物、防汚し防御す、時の流れも忘却せよ』のあとに『しゅご』となってました」


「「「守護だと! 忘れられた魔法じゃないか(じゃ!)」」」


「儂がまだ少年だった頃、弱くなっていたが〖守護〗が効いている洞窟がまだあったのじゃ! 確かそこの洞窟の奥にも動物が花を持っている絵が薄らと残っておったわ」


 エブラフ老師は現在2376歳である。その老師が少年だった頃とは何年前になるのだろうか? とニーナは心の中で考えていた。


「刺繍だけではなく絵にも〖守護〗は掛かるのではないか? ニーナの事だ、ウサギ柄が鍵じゃろ」

 エブラフ老師は言いながら近くの紙を取り出し、ニーナのドレスに縫われた刺繍を絵として描いていく。


「さあニーナ、この図の描かれた紙に〖守護〗を頼むぞ!」


 ほれっ!と渡された紙を見ながら渋々と魔法を掛ける。

「〘守りし印を持つ物、防汚し防御す、時の流れも忘却せよ〖守護〗〙紙よ守れ!」

 魔法で包むだけではなく、魔力を吸われるニーナ。この魔法には魔力量が多く必要そうだ。一般人には無理だろうと思った。


「ニーナお嬢様、相変わらず愛玩動物に好かれてますね」

 ずっと静かに見ていたニルスが言う。


「ウサギさんは大好きだけど!! 愛玩動物って訳じゃないわ! 魔法とは関係ないよ」


「泣かないで下さいよ! ニーナお嬢様!」


「ニーナ泣かないでくれ! ジルフォードに怒られる!」

「私を呼んだか? エイダ。うちの娘に何をしたんだ?」

 入口にジルパパが凄い形相で立っていた。


「ジルフォード! 儂らは何もしとらん! ニーナを泣かせたのはそこのニルスじゃ!」

 2千年以上生きているじーさんは、12歳の少年をジルフォードに突き出した……大人気ない。


「ニルス、夕食のあとで体術の練習に一緒にしような!(ニコ)」


 ニーナはジルパパって怖い人だったのかもしれないと初めて思ったのだった。


「ところで、その紙に〖守護〗は掛かりましたか?」

 ニーナは話を変えようと頑張った。

「〖守護〗だって? ニーナまた進展があったのかい?」


「お父様、ここの刺繍を見て? ウサギさんにガーベラのお花をアリアお婆さんが縫ってくれたの。その後に〖古代物生成〗の魔法を使ったらウサギさん達の着いたこのドレスに〖守護〗が掛かったみたいで魔法を覚えたのよ」


 この襟元を見よ! とニーナはジルパパに主張しているが、無い胸を主張している子供に見える事をニーナは分かっていなかった。


「そうかそうか! ニーナは可愛いな。家に帰ったら、またウサギ柄刺繍作業の始まりだな!」


「まて、今紙に描いて試したところじゃ。結果を見てからにせよ」


「エブラフ老師、ガーベラを持たぬウサギ柄も描いてはどうでしょうか?」


「そうだな、それも描いてみよう」


 ウサギさんが手を繋いでいるだけの絵も渡される。

「〘守りし印を持つ物、防汚し防御す、時の流れも忘却せよ〖守護〗」


 ……魔力で包んでも吸い込まれる感じがない。守護は掛からないようだ。


「〖守護〗は掛からないみたいですよ? 試して見てください」


「まずは、ガーベラを持つ方じゃな。〘水よ、いでてこれを与えよ!〙」


「見事に弾いてます。というか、水が当たっていませんね!」

 エイダはいつの間にか投影魔石で撮っていた。


「エイダ、ニーナは写すなよ! うちの娘を勝手に撮るなよ!」

 ジルパパは家に帰ったらニーナを独り占めして記録撮影する事を心の中で誓った。


「言われたらやりたくなるじゃないですか! ニーナこっちに手を振って下さい!」


 ニーナはニルスを手招きで呼び、ニルスの片手をガシッと掴んでエイダにニルスの手を振ってやった。


「何しとるんじゃ、次は花の無いウサギじゃよ〘水よ、いでてこれを与えよ!〙」


『バシャバシャーベリッ』


「「「破れたな」」」

「破れましたね」

「〖守護〗は掛かってないって言ったじゃないですか」


「という事は、『ガーベラもしくは花を持つウサギが手を繋いでいる柄』が必要という事だの!」


「ところで、この魔法を覚える気は無いのですか? エイダ様とエブラフ老師」


「検証に夢中で忘れとったわ!」


「そうでした! 誰か、大きい紙を持ってきてくれ!」


 その後、図陣を描かれた。その場にいた者は読み込んだのだがエイダとエブラフ老師以外は頭にモヤがかかるような感覚で覚えられないと言う。


(魔力量の関係かな?)


「では、この絵に〖守護〗を与えてみよう。〘守りし印を持つ物、防汚し防御す、時の流れも忘却せよ〖守護〗〙!! 魔力が吸われておる! 何だこの魔法は! ニーナはこんなモノをやすやすと使っておったのか!」


 紙が魔力を吸収し終えた時、エブラフ老師は椅子に座り込んだ。


「エブラフ老師大丈夫ですか?」


「エイダ、お前は〖守護〗を使うのは待った方が良い、少し魔力量が足りんかもしれん。最近魔力量は増えておるか?」


「どうでしょうか、少しは増えていると思いますが」


「数日荒地で魔法を使い、荒修行をしよう。その後魔力量を計測してから試す方が良いようだ」

 エブラフ老師は考えながら話している。


「エブラフ老師、その荒修行に私も連れて行ってください。使える者が増えた方が良いでしょう。荒地行きの転移は私も出来ますから」

 ジルパパが真剣な顔をして、言った後3人は明日の予定を決めていた。


 ニーナは何ともなかった為、大事になる様な魔法だとは思っていなかったのである。

(神様、これじゃ誰もが使える魔法じゃないよ?)

 ニーナは簡単に出来る方法は無いものかと考える事にしたのだった。






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