第30話 鍛冶師

元冒険者の戦闘部隊を別称、刀と名付けトレントの討伐に向かってもらうこととした。もちろん装備には魔視のモノクルも渡し、安全にトレントを間引くように討伐してもらっている。初めは夕刻まで時間がかかっていたが、一週間も経つと昼頃には帰ってくるようになった。そのため午前中はトレント狩り、午後からはシゲヒロの護衛として行動を共にすることとなった。


トレントの在庫が十分になり、街に素材を卸しに行く。商業ギルドを尋ねると受付嬢から。

「本当にトレントの素材を売りに出してもよろしいのですか?ただいま王都でも在庫が足りないため十分な金額で買い取りはできますが、買い戻しなどはできませんよ」


「構いませんよ。ただ可能であれば街の木工屋にもいくらか卸してくれると助かります」


「それは構いませんが。分かりました。ただいま在庫不足のため金貨一枚で買い取らせていただきます」

受付嬢はまだ何か言いたそうではあったが飲み込んでくれた。シゲヒロは金貨を受け取り商業ギルドを後にする。次の目的地は奴隷商館だ。それを話すと護衛の面々は険しい顔をしていたがシゲヒロがリラックスするように声をかけると、何とかいつもよりひきつった表情程度に抑えることができていた。


所変わって奴隷商館。以前来た時とは違う門番が立っていたため、面会の予定などを尋ねられた。予約が必要だとは思わなかったシゲヒロが素直にそう言うと、門番は親切にも今空いているかを聞きに行ってくれた。門番は胸元のアクセサリーを見ていたが、きっと親切に違いない。


戻ってきた門番は扉を開け。

「奥でルーゼル様がお待ちです」

というとシゲヒロたちを通してくれた。お礼を言うと一礼して見送ってくれた。なんだか自分が偉くなったように感じたシゲヒロだった。


商館の中に入るとメイドさんが出迎えてくれ。ルーゼルの居場所へと案内してくれた。扉を開け中に入ると、ルーブルが挨拶をする。


「お久しぶりです。シゲヒロ様。護衛の皆様もすっかり健康的になられたご様子。さあソファにお座りください」


そう言われソファに座るシゲヒロとその後ろで待機する護衛。シゲヒロは一緒に座らないのかと思ったが、一応自分が主人で彼らが護衛の立場だということを思い出した。


「お久しぶりです。ルーゼルさん。早速で申し訳ありませんが、今鍛冶師を探しています。誰か紹介してもらえませんか?」


シゲヒロのその言葉にルーゼルの表情が一瞬曇る。がそれを感じさせないほど早く回復した。


「この商館に鍛冶師の奴隷はいます。しかし、素行に問題がありまして、酒癖が悪く飲みすぎで借金が膨らみ身売りすることになった奴隷なのです。現在禁酒を命じている最中なのですが、お酒が切れると暴れるような始末でして・・・」


「その方は腕の方はどうなんでしょうか?」


「名工と呼ばれるほどの腕はあります。ただし商売の方はからっきしでして自分の気に入った相手にしか物を作らないというものでして、こちらも取り扱いに困っているのです」


「その方に会ってみても構わないですか?」


「構いませんが、暴れられて怪我をされても責任が取り切れないため牢屋越しとなりますがよろしいですか?」


「構いません」


そう言うとルーゼルはメイドに合図を出し、鍵を受け取った。そして先頭を歩きだしたのでシゲヒロたちも後に続く。目的地の途中には牢屋の中で勉強をしている子供や死んだような目をしている中年まで幅広くの奴隷がいた。そんな人たちから目を背け前に歩くシゲヒロであった。


目的の牢屋にたどり着くと、一人の小さな男性が暴れていた。シゲヒロが男を確認したことを認識したルーゼルが説明を始める。


「彼はスタントン、種族はドワーフです。先程話した通り鍛冶の腕は一流ですがそれ以外はてんで駄目です」


「ドワーフとはどんな種族なのでしょうか?」

質問の意味が分からずに一瞬?を浮かべたルーゼルだったが、すぐに質問の意図に気づき話し出す

「ドワーフとはロイージ王国から東、ツィリル連合国の洞窟などに生息していると言われる亜人種です。種族的に鍛冶を得意としており酒を好む種族です」


まだ何かありそうだと感じたシゲヒロであったが深く聞くのはやめておいた。


「それで彼はなぜロイージ王国で売られているのでしょうか?」


「それは、どこの商館も彼の調教に失敗しておりまして、こんなところまで流れてやってきてしまったというわけです」


その話を聞き、シゲヒロは一言スタントンに話しかけてみることにした。


「スタントンさん。僕が作った新しいお酒を飲みたくないかい?」

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