第2話 現状

次の日、前日来た老婆がお供を連れて馬車でやってきた。


「どうぞ、使者様。馬車にお乗りください」


そう言われたため馬車に乗り、老婆に話しかける。


「使者様はやめてください。私のことはシゲヒロとお呼びください」


「ではシゲヒロ殿、本日は昨日おっしゃった通り、鍛冶屋と木工屋、それに冒険者ギルドへの訪問でよろしかったですか?」


「申し訳ありませんが二カ所追加で薬屋と魔法関係のお店へ立ち寄ってください」


シゲヒロは人工物に魔力を宿す力を授かっていたが魔力とはいかなる力なのかを知らないことを思い出していた。薬屋に関してはこの世界の医療レベルを推し量るべきだと判断したため向かうことにした。


「ではまずどこへ向かいましょうか?」


「まずは薬屋へお願いします」


そう言うと馬車は動き出し、一時間程かけて薬屋の前へたどり着いた。中へ入り薬の内容を確認するとそこにはポーションやら魔力回復薬といった商品ばかりおかれていた。シゲヒロにはこれがどのようなものか分からなかったため店主へ質問する。


「このポーションというものはどのような効き目があるのでしょうか?」


「なんだい?あんた。その歳までポーションのことを知らないなんてどこの田舎で育ってきたんだい。ポーションというのは外傷を塞ぐ傷薬さ。高レベルのものだとちぎれた四肢も回復するらしいけど私は見たことはないね」


ちぎれた四肢も回復すると聞いた時には私の存在価値を否定されたかのように感じたがおそらくほとんど手に入らないのだろう。そうでなければ私がこの世界に呼ばれるはずがない。


「外傷というのはどの程度まで治療が可能なのでしょうか?それに他の薬が見当たりませんが鎮痛薬や麻酔といったものはないのでしょうか?」


そう質問すると次は薬屋の店主が頭にはてなマークを浮かべている。その様子からシゲヒロはこの世界の医療は全くと言っていいほど発達していないことを悟った。とりあえず、ポーションを10本(お金は老婆に借りた)購入して薬屋を後にした。


馬車に乗り込むと、シゲヒロは次の行き先に冒険者ギルドを指定した。冒険者ギルドにたどり着くと、鎧などの装備を身に着けた者が道を開けてくれる。そのまま奥のカウンターに向かうと受付嬢がきれいなお辞儀で迎えてくれた。


「おばば様、本日はどのようなご案件で?」


「今日は、神託にあった使途様であられるシゲヒロ殿の案内じゃ」


そう言われるとシゲヒロに注目が集まるがシゲヒロは臆した様子もなく受付嬢に話しかける。


「何か効能のある植物と実験に使用してもよい生き物を探している。植物は昏睡状態にするもの、痛みを抑えるものが好ましい。生き物はできるだけ人間に近いものを生け捕りで頼む」


シゲヒロはまずこの世界で鎮痛薬と麻酔を作ることを決めた。少し凶器の沙汰ではあるが人間に近い生き物を指定したのはできるだけ研究の時間を減らすためだ。


「では生き物はゴブリンでよろしいでしょうか?」


ファンタジー生物を全く知らないシゲヒロは受付嬢に任せることにして頷いた。


「捕獲数はいかがなさいますか?」


「特に制限はかけないが引き渡しは二匹までとさせてくれ。それ以上に捕獲することは構わないが私が引き取るまでの面倒はそちらで見ることを条件に加えてくれ」


「承りました。ゴブリンの捕獲、限度は二匹、依頼発注です」


そう言うと周りの戦闘用の装備を身にまとった人間たちが沸き立つ。


「ではシゲヒロ様。植物に関しましてはギルド内に資料がございますのでこちらにどうぞ」


そう言われシゲヒロとおばばはギルド内の奥の部屋へと入っていく。

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