第31話 交渉

「スタントンさん。僕が作った新しいお酒を飲みたくないかい?」

そうシゲヒロが話しかけるとスタントンは怒り出した。


「酒が飲みたいかじゃと。飲みたいにきまっとるわい。奴隷になってからいつまでたっても満足に飲むことができてないのにそんなこと聞くでないわ」


「なら、僕に購入される気はあるかい?毎日満足いくまでとはいかないけど飲ませてあげることはできるよ」


「そんな甘い話があるかい。儂に何をさせたいのじゃ?」


「そんなこと鍛冶に決まっているじゃないか。スタントンさんは凄腕の鍛冶師なんでしょ?」


「鍛冶師なら足り取るじゃろ。そこの護衛の装備はミスリルであろう。ミスリルを加工できる職人がいるのであれば十分であろう」


「これはこの街の工房が作った作品でね。僕は自前を鍛冶師が欲しいんだ。いろいろと開発したいものがあってね」

そう言うとスタントンの顔が一瞬笑った。


「で何を作ろうというのだ?」


「最終的にはオートマトンだね。それまでの過程で腕や足を人工的に作るつもりだよ」

シゲヒロの目的を聞いた護衛たちとルーゼルは絶句していたがスタントンは大声をあげて笑い出した。


「何を作るかと思えばオートマトンとはな。気に入った。儂を買ってくれ。ただし酒を忘れるでないぞ」


そう決まり、値段の交渉などを行うために部屋へ戻ろうとすると隣の牢屋から声が聞こえてきた。


「あの~。もしよろしければ私も購入していただけないでしょうか?」


試しに覗き込んでみるとそこには中世的な顔立ちの女性がいた。普通と異なる点は耳が少しとがっている点である。シゲヒロはルーゼルに彼女について説明を求める。


「彼女もツィリル連合国の森に生息すると言われるエルフという種族であるローレリーヌです。彼女はメイドにと大変人気だったのですが、家事全般がてんで駄目で奴隷に戻される続けここまで流れてきてしまいました。エルフは魔力が高く、精霊との親和性が高いと言われていますが精霊については私どもには認知できない存在とされており、そのあたりは不明です」


「あなたの情報は少しわかりました。でもなぜ僕に購入されたいと思ったのでしょうか?」


「あなたの周りには微精霊が多くいます。それに妖精の気配も感じます。気配から察するにドリアードかと思いますが、ドリアードがいるのであれば私が暮らしていくうえで快適な空間を作ってくれると思うのです」


「ドリアードを知っているのですか?」


「ええまあ。昔住んでいた森にいましたので、知ってはいます」


シゲヒロはドリアードとは種族名だということを知らない。がそこを勘違いしたまま話が進んでしまう。


「あなたは僕に購入されたとして僕に何を提供できますか?」


「私は付与魔法と植物魔法を使えます。ミスリル製であれば付与魔法との相性もいいためそちらの護衛の方々の戦力増強となるかと。それにドワーフを購入されるのであれば今後作成する物にも付与できる者がいたほうが便利かと思いますよ」


シゲヒロはスタントンの方を見ると、視線に気づいたスタントンは無言で頷いている。


「ルーゼルさん。ローレリーヌさんも購入します。部屋に戻り金額の相談をしましょう。この二人は牢屋から出してついてきてもらってください」


そう話すと、ルーゼルはスタントンとローレリーヌのいた牢屋を開け、シゲヒロを元の部屋へ案内する。そこで値段の交渉に入る。


「この二人はここまで連れてこられるための輸送料とそれぞれが会得している技術の高さから値段がかなり跳ね上がっておりまして、こちらの損なしでも金貨百二十枚となります」


「損なしでということはある程度の損は覚悟しているという解釈でよろしいですか?」


「はい。シゲヒロ様には奴隷を多く買っていただいておりますので金貨百枚でいかがでしょうか?」


シゲヒロはいきなり金貨二十枚も値引きしたことに何か引っかかる点があったが今はお金があるためそんなことは気にしなかった。


「分かりました。こちら金貨百枚です」


簡単に出せる金額でないことを念頭に金貨二十枚の根切りをしたルーゼルは少し後悔した。が言い出したのはルーゼル本人だったためどうすることもできずに金貨百枚を受け取った。


「確かに受け取りました。契約は今までと同じでよろしいでしょうか?」


「はい。構いません」


そうしてシゲヒロはドワーフのスタントンとエルフのローレリーヌを仲間に加えた。

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